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光と影の軌跡  作者: JP
入学編
3/3

光と影の序章 壱

 光というのは必ずそれだけでは成り立たない。必ずその存在の裏には影が存在する。故に、光と影は常に共に在らなければならない。

 私はこの学園で、そんな光に出会った。





「転校生の影村凛華です。これからよろしくお願いします」

あれからの学園の対応は早かった。だが、簡単な手続きを済ませるとその当日に入学という私に心の整理をつかせる間もないスケジュールのせいで私はいま若干の戸惑いを抱いている。

 一通りの挨拶を済ませると、今度はクラスからの質問地獄をやり過ごす。どっから来たの?みたいな質問には苦労したが、無難に答えられたと思う。

 普通なら実験とはいえどまた学校生活を送れることを喜ぶだろう、だが私にはそうできない理由があった。

 遡ること数時間前・・・。




「失礼します」

「入りたまえ」

 扉をあけるとそこには豪邸の応接室かと見紛うほどに豪華な一室が私を出迎えた、しかしそれは嫌な感覚を覚えるような豪華さではなく、気品のようなものを感じさせる。

「掛けたまえ」

「はい」

 言われるがまま椅子に腰を下ろす、厳つい声と風貌の所為で脅されているような感覚を受けてしまう。

「では、話を始めよう。私は魔道学園学園長、麻生一」

「影村凜華です。話とは・・・?」

「君を学園に迎えるにあたっての学園の待遇についてがメインだ」

「それって一体・・・」

 私が他の生徒と違っているのだから、待遇について違いが出るのは理解できる。だが、今の言い方には妙に含みがあるような気がしてならない。何か特別なことでもあるのだろうか・・・。

「その様子ではあっちで聞いていないようだな・・・」

「はい・・・」

「まず、この学園の目的は知っているか?」

「・・・いいえ」

 明らさまに学園長は表情を歪めた。元々の顔が怖い所為で蛇に睨まれた蛙のような気分になる。・・・こんなことなら少しは訊いて来れば良かった。

「8年前の事故をきっかけに世の中に魔力および魔法という概念が生まれた。そしてその魔法は我々の生活、いや世界を大きく変えた、魔法によって様々な物を強化したり形を変えることができるからだ。だがいまだ世界は魔法の力を上手く使えないでいる、この学園は世界の更なる進歩の為に未来の魔導士を育てる学園なのだ。ここまではいいかね?」

 私は黙って頷いた。それを確認すると学園長は言葉を続ける。

「だがね、なんせこの8年間色々急すぎてねぇ・・・魔術師を育成する体制が整ってる所は今現在ここしかないんだよ。だけど入学希望者は後を絶たない。そんな場所に実験体とはいえ魔法をほとんど使えない人間を入れるんだから、ねぇ・・・」

 ほら来ましたよ、というか私魔法使えないのか・・・これは骨が折れそうですね・・・。

「私に何を要求するつもりですか」

「君にはある委員会に所属してもらいたいのだよ。その名も、第七委員会」

「活動内容は?」

 今までの流れからしてもこの委員会は絶対まともじゃない、にしても実験体とはいえ魔法の使えない私に一体何をさせる気なのだろうか・・・。

「簡単なことだ、学園の雑用。それだけさ」

「・・・本当ですか?」

「ああ」

「・・・・・・」

「本当だよ、だからそんな目で見ないでくれ。詳しい話は追って連絡しよう。君はせいぜい学園生活を楽しみたまえ」

 そう言う学園長の表情はどうしようもなく、嗤いに満ちていた。私はその眼が、私があそこで目覚めた時のあの女と重なって見えた。あの面白い玩具を見つけたような、歪んだ期待に満ちたそんな表情と。





「はぁ・・・」

 ふとため息が口から洩れた。自分の常識が及ばない世界に放り込まれ、その先に待つのは波乱。こんな状況で平気でいられるのは変人か天才ぐらいだ。

「ため息なんてしたら転校早々に幸せが逃げちゃうよ?」

 突然の声に振り向くと、そこには日本人らしき顔だちをしているにも関わらず日本人とは思えぬ銀髪を絢爛と輝かせている人種が迷子なとてつもない美少女が私の瞳を覗いていた。

「・・・・・・・」

 私は思わず言葉を失った。その容姿もそうだがそれよりも、その吸い込まれそうな蒼い瞳に・・・。

「どうしたの?」

「・・・いえ、なんでもありません」

「そう、私の名前は四月一日わたぬき一輝。よろしくね影村さん」

「ええ、よろしく」

 そう言い残し彼女はどこかへ行ってしまった。

 この時の私は彼女のことをクラスメイトとしか思っておらず、せいぜい友達程度の友好関係を結べればいいなぐらいにしか思っていなかっただろう。

 しかしそうゆう問題ではなかったのだ。彼女は友人云々ではなく、光。そして私は影。

 今この瞬間、光と影が揃ったのだ。





 SIDE-一輝

「今日からこのクラスに新しい仲間が加わります」

 私を含めたクラスの全員は歓声よりも先に戸惑っていた。だってそうでしょう、実際私だって驚きだわ。そりゃあ普通の学校ならこんな中途半端な時期の転校だってあり得るけどここは魔道学園。ここに居る人間だって所詮有象無象とはいえ何百分の一っていう倍率を越えてきたっていうのに、途中から入学って一体どうゆう了見なんでしょうね・・・。

「入って下さい」

 クラスのみんなどんな人が出てくるか注目し扉を見つめていた。が、正直私はどうでも良かった。どうせそいつも有象無象の一種だと思っていたから。

 だが、扉からゆっくり入って来るそいつを見て、そんな考えは吹き飛んだ。

「・・・・・・」

 回りがざわざわと声を立てているが、私は声など上げられなかった。容姿云々ではない、確かにそいつはけっこうな美人だけど、そんなんじゃない。ただ凛としたその立ち姿と、何もかもを吸い込んでしまいそうな黒い瞳に。




 それから彼女と軽く会話したのだけれど、やはり一言二言の会話ではどんな人間かなんて図り知れなかった。

 まぁいいわ、それはこれからじっくり確かめればいいわ。

 

 何で私は疑問に思わなかったのだろう?いままで人間に興味を示さず生きてきた私がここまで初対面の人間に興味を持っているのかを・・・。そこまで私は彼女に魅せらせているということなのだろうか・・・。

「一輝ちゃん、ここの問題分からないんだけどー」

「え、どこどこ?」

 そんな私の思案は有象無象の声に掻き消され、私は猫を被り学園生活を浪費していく・・・。




 SIDE-凜華

 あの会話の後、特にすることがなかったのでただ窓の外の景色を眺める。外に見えるのはどこも人工的な高層ビルやなんの為かわからない工場ばかりだ。それはまさに8年前に私が思い浮かべた近未来の姿と酷似していたことに気付く。そして思う、科学の進歩や魔法の出現、これは果たして世界にとって良かったことなのだろうか・・・それとも・・・。

「影村さん、ちょっといいかしら」

「・・・あ、はい。なんでしょうか」

 顔を向けるとそこには担任の裏沢先生の姿があった。・・・少なくとも入学早々先生に呼び出されるようなことをした覚えはないのだが・・・。

「・・・ちょっとついてきてもらえる?」

「私は何かした覚えはありませんが・・・」

「・・・第七委員会」

「・・・・・知ってたんですね」

「あら意外ね、もっと驚くと思ってたのに」

「先生が知っててもおかしくはないですし」

 これが良からぬ実験というのは分かっている、出来れば学園長だってこのことは出来るだけ人に洩らしたくはないだろう。だがそういう訳にもいかない、何故なら私が魔法を使えないからだ。そんな大きな問題を学園長の協力だけで乗り切ることはできないだろう。そう考えると担任にこのことを話すのはある意味当然と言える。

「なら話は早いわ、ついて来て」

「分かりました」

 これから案内される所は十中八九、いや十中十第七委員会関係だろう。しかし初日からこれとは・・・学園生活を満喫する暇なんてないじゃないですか、学園長・・・。




「ここよ」

 裏沢先生に案内された先は、一瞬倉庫かと思うぐらい寂れた見た目でおおよそ最先端技術の結晶である魔道学園の一部だとは思えない。

「学園の裏にこんなのがあったんですね」

「ええ、そしてここが第七委員会の活動場所よ」

「え・・・いいんですか?学校の裏とはいえこんな大きくて目立つ場所が活動場所で」

「まぁここら辺人あんまり来ないし、いいんじゃない」

「思ったより適当ですね・・・」

 それで良いのだろうか魔道学園・・・。

「今日は唯の確認だからそんなに気張らなくてもいいわよ、分からないことは委員会の奴らに訊けばいいんだし」

「委員会の奴らというのはどんな人達なんですか?」

 もしかしたら私と同じような境遇の人間がいるのだろうか?だとすればこの状況も幾分か好転すると思うのだが・・・。

「残念だけど影村さんが期待しているような人達ではないわよ。というかそもそもあいつ等この学園の生徒じゃないしね」

「・・・・・・どういうことです?」

 この学園の生徒ではないということは教師か?だがそうなると私をそこに入れる理由がますます分からないしそもそも第七委員会などという看板を掲げる理由も分からない。だとすると一体どういうことなのだろうか・・・。

「まぁ、実際に見てもらった方が早いとおもうわ」

 そういい裏沢先生は重厚な扉に手をかけ、施錠を解除した。

「・・・・・・」

「・・・どうしました?先生」

 突然動きを止めた先生に何事かと思い声をかけると、なにやら申し訳なさそうに視線を下げ、ばつが悪そうに口を開いた。

「これから貴方には苦労が多く降りかかると思う」

 ・・・この言葉、あの研究所でも同じような言葉を聞いたと思う。まったく、これから私はどんな目にあうのだろうか・・・。

「辛くなったら私のところに来なさい。貴方だってまだ15歳の女の子なんだから」

「・・・はい、ありがとうございます」

 私の返事に満足したのか先生はそっと微笑んだ。だがそれも一瞬元の表情に戻ると扉を勢い良く押し開けた。




 この状況、何もかもが研究所の時とそっくりだ。あの時は扉からは溢れんばかりの光が漏れていた。

 しかし、今この扉の先には、暗い影しか見えなかった。

 





作者の事情により更新が少しばかり遅れます。誠に申し訳ありません。

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