プロローグ 壱
「ハァ・・・・・ハァ・・・・!」
急上昇する心拍数を必死に抑えつつ物陰に体を潜める。少しでも気を緩めればすぐにでも見つかってしまうという恐怖が私の意思を、信念を、命を削っているのが解る。
コツコツという足音がどんどんと近づいてくると共に自分の鼓動がかつてない程暴れているのが感じられる。恐怖心を抑える為に強く握り絞めたリボルバーからは血がにじんでいた。
「・・・・・・」
・・・足音が、止まった・・・。
もう奴はすぐそこにいる!とすれば奴が私を見つけるまであと何秒だ?5秒か、3秒か、それとも次の瞬間か?もう迷っている時間などない。
生か死か。自分が殺らなければなにもかも失うのだ。とすればもはや答えはおのずと出ているはずだ。
「アアァァァァ!」
恐怖を、足、手の震えを自らの生への欲求で打ち消し、物陰から飛び出した。
「・・・!!」
予想通りそこには奴がいた。予想外の私の登場に驚いているのが表情から見て取れる。
ここでの場面、私は2つの幸運に恵まれた。ほんの些細なことだが、それが私と奴の命運を分けたのだ。
一つは奴が私が潜んでいる場所を把握していなかったこと、もう一つは奴があそこで足を止めたこと、あそこで足を止めたことによって私に決断をする時間をあたえてしまい、そのお蔭で私は奴の不意を突けたのだから。
その結果、私の放った銃弾は奴の眉間を撃ち抜き、奴を絶命させた。
その後、生への歓喜か人を殺めた自分への恐怖かはわからないが、私は声にならない叫び声と共に意識を手放した。