第六楽章 挑戦の幕開け
今回も説明が多数含まれます。
吹奏楽部でだいたいもうわかる人は飛ばし飛ばし呼んでください。
...
ふざけんなよ!いやまあ確かに俺は身長低いよ!でもさー!
『ミクロくん』
これは流石にないだろ!あんまりだ!
「えー?いいと思ったんだけどなー♪」
千夏先輩がニヤニヤしてくるけど冗談じゃない。こんなの生き恥晒してるようなもんだ。
「もうそれでいいですけど、絶対そのあだ名で呼ばないでくださいね..」
必死の懇願もありなんとかなった。
いやそもそも俺にニックネームがないのが悪いのだが。
俺は昔から『しらの』、としか呼ばれたことない、だからニックネームがなかなか決まらなかった。
ほら、『白野光』ってなんか普通な名前だろ。だからニックネームがつく前に呼び捨てが定着してしまうというかなんというか。
一方花岡さんのニックネームはちゃーちゃん。
どうやら小学校の頃に呼ばれていたののそのままらしい。
最初は桜のさ、からさーちゃんと呼ばれていたらしい。しかしその時の友達のひとりが噛んでちゃーちゃんと呼んだらしい。
それ以来ずっとちゃーちゃんだそうだ。
確かにしっくり来たので俺は花岡さんのことをチャーと呼ぶことにした。
「よろしく。チャー。」
「うん、よろしく。ミクロくん。」
てめえ.....
まあはそれはともかく、いよいよトランペットの本格的な練習が始まった。
「まず、音には三大要素というのがあります。」
黒板になにか書きながら千夏先輩が説明を始める。
「それがこれ。」
指を指す黒板には三つの単語が書いてあった。
『音量』『音程』『音色』
「まず一つ目の音量はわかるよね。」
「はい、音の大きさですよね。」
「お、流石ちゃーちゃん。どっかの誰かとは違ってわかってるねー。」
「うるさいです。早く説明してください。」
前から思ってたけど千夏先輩ってかなりうざい。もちろん口が避けても本人には言えないが。時々カチン、とくる時がある。
「ごめんごめん。そんな怖い顔しないでよー。で次に音程!これはいわば音の高さです。で、音色。これは簡単に言えば音の種類。トランペットの音色は華やかだとかそんな感じ。」
なるほど、確かにこの三つで音はできている。
「まあ厳密にはもっと沢山あるんだけど、まあ今はいいや。で、ここからが本題なんだけど....」
千夏先輩はにやりとしてこっちを見る。
「これを戦争学部風になおしt....」
「音量は弾の強さ、音程は弾の種類、音色は弾の属性、ですよね?ちかせんぱーい。」
「....こういうのだけは早いんだから。」
どうだ!これが戦闘好きの本気だ!
自慢げに千夏先輩を見る。悔しそうな千夏先輩。
「そういうこと。まあだいたいあってる。音量は大きさ、まあ太さかな。音程は種類。例えば、高い音の方が威力は強いけど外しやすいし音量が細くなりやすい。逆に低い音だと遠くまで飛びにくいとか。まあ状況によって音程は使いこなさないとね。で、音色。まあ属性っていう表現が一番わかりやすいかな。正しくはその人自身の弾の特徴。光くんだったら光の玉みたいな感じだったよね。ちゃーちゃんだったら火の玉っぽいとか。そういう個人の弾の特徴。あ、もちろん楽器にも人それぞれ自分の音色があるよ。」
なるほどわかりやすかった。千夏先輩にしては珍しい。
「ん?光くーん?今なにか言ったかなぁー?」
「いえ。何も。」
「だったらいいんだけどねぇー。」
こういうのは聞こえてるのかよ!
「結局練習って何するんですか?やっぱり楽器の練習ですか?」
ちゃーが聞く。確かにそうだ。こんな沢山のことがあるのにどうやって練習するのだろう。
「はい!そこで練習メニューを配ります。」
と言って先輩は紙を渡してきた。
トランペットパート基礎メニュー
1.ロングトーン8拍、16拍B♭~上のB♭
2.タンギング練習 ♩、♪、♬︎
3.リップスラー
4.発音
5.スケール
楽器でやるのはここまで!
6.空撃ち
7.照準練習
8.能力練習
「こんな感じで基礎練習しまーす。」
...と言われましてもわからないところが多すぎる。
「あ、そっかまだ説明してなかった。」
うっかりしてた。なんて表情で説明を始める千夏先輩。
簡単に説明をまとめると、
長音
その名の通り音を真っ直ぐ伸ばす。
タンギング練習
トゥーやタンなど音の最初の発音を徐々に細かくしていく。
ダブルタンギングと呼ばれる奏法も練習する。
リップスラー
運指を変えずに違う音程の音を出す。
発音練習
タンギングをゆっくりして発音を綺麗にする。
スケール
ド~上のドまで上がって戻ってくる。
空撃ち
弾を出さずに撃つ体制を確認。
照準練習
その名の通り照準を合わせる。
能力練習
どうやらしばらく練習するとスキルなるものが目覚めるらしい。
それの練習。
「結構基礎練って大変なんですね。」
正直こんなにあるなんて思ってなかった。
「そうだよ。でも全部大切だからちゃんと毎日やらないと効果ないからね!わかった?」
「「はい!」」
頑張って早く認めてもらわないと。そう思うと早く練習したくなってきた。
「あ、ちなみに練習用仮想空間は時間の経ち方がゆっくりになるから心配しなくても時間はたっぷりあるよ。」
だそうだ、時間の経ち方まで遅いらしい。本当に何なんだろう仮想空間って。
「ちょっと早速練習したいんですけど...」
ちゃーが言う。もちろん俺もそう思っていたところだった。え?いやホントだって。
「じゃあもう今日はあんまり時間もないし仮想空間で試しうちして終わろっか。」
そうと決まれば。
ここは仮想空間内の射的場。おそらく10mはあると思われる壁の間の空中に的のような線の書いてあるガラス板のようなものが浮いている。
「じゃあまずどの的でもいいからとりあえず打ってみて。」
そう言われたので遠慮なく撃たせてもらうとする。
手に力を入れるイメージで出てくる金管式直機関銃。この感覚はもう慣れた。
ガチャ。
肩の位置に後ろの部分を当て支える。
よく狙って力を押し込む感じで撃つ!
いつもならこの感じで撃てるのに、何故かひょろひょろとした情けない光の玉が出てきた。
そして1mも進まず消えていく。
「え、嘘だろ。なんで撃てないんだ?」
思わず声が漏れる。
おかしい。いつもと変わらない感覚なのに。
ズドン!
顔の横を火の玉が通過した。あまりの急な出来事に身体が凍りつく。
「あ、ごめん!大丈夫だった!?」
ちゃーが謝ってきた。が何よりもちゃんと弾が出ていることに驚いていた。
「え...なんで?俺、弾出なかったのに....」
なんだこの敗北感は。
「フフ。だってオーディションでは弾が出やすい空間にしてるからね。つまり今弾が出なかったのは今の光くんの実力がその程度ってこと。」
またあの子供が悪戯を成功させた時のような顔で笑ってくる。
「いつまでもまぐれが続くと思った?」
ここから俺は大きな壁にぶつかっていくことに初めて気づいた。
花岡という壁に。
千夏先輩『いつまでも主人公補正が続くと思った?』
ということで主人公補正解除です。TUEEE系を期待してもらった人には申し訳ないのですが、この話はそういう類の話ではないのでご了承ください。