第九楽章 本当の戦闘
しばらく一週間ほど休みます。
「吹奏楽祭、ですか?」
ふと先輩の口からそんな言葉が聞こえたので聞いてみる。
「うん。五月の中頃にあるんだけど、まあコンクールの予行みたいな感じで来るとこが多いかな。」
吹奏楽祭。
春先にあるコンサートのようなもの。吹奏楽連盟に加盟している楽団、中学、高校から一般まで色々な吹奏楽団が演奏を行う。と言っても全国的にあるわけではなく、ここ、福岡地区吹奏楽連盟が主催しているので他の地区はあるかどうか。
学生バンドの大体はコンクールで吹く自由曲を吹くことが多いらしい。
「あ、でも1年生はほとんど何も無いよ。いるだけみたいな感じ。」
奈々先輩がそんな事を言った。
毎年そうらしいのだ。1年生はステージの感じを初体験するだけで吹かない。というのが普通。
俺は少し残念だった。まあ吹いたこともない曲だし仕方ないか....
「あ、自由曲はコンクールのオーディションの時に1年生も吹かないといけないよ。」
....なんてこったい。コンクールもオーディションがあるのか。
オーディションか。1年生でコンクール出れたらかっこいいだろうな。
そんな野望が俺の心を埋め尽くす。しかし、さっきの基礎合奏の事を思い出しその思いは幻滅する。
もっと上手くなりたい。
初めてそんなふうに感じた。
ガラァァァ!!ピシャン!!
「うひゃぇ!!」
突然扉の音にびっくりして思わず変な声をあげてしまった。
「え、そんなにびっくりしなくても...なんかごめん。」
予想外の反応だったようでちょっと戸惑う千夏先輩。珍しく顔から表情が抜けひょうとした顔をしていた。
「...いや、その、、なんかすいません。」
気まずい雰囲気になってしまったが少しして千夏先輩が話し出す。
「今からコンクールの自由曲を1年生に配るねー。」
と言って何枚か紙を渡される。楽譜のようだがタイトルが英語のようで読めない。
「これなんて曲ですか?」
近くにいた千里先輩に訪ねてみる。
「えっとね...たしか『交響曲第3番ドン・キホーテ』だった気がする。まあ皆ドンキって読んでるけど。」
なんか聞いたことある店のような..まあそれはともかく初めて吹く大曲なわけだし、頑張ろうと思った。
が難しい。まずリズムが全然解らない。四分音符や八分音符ならともかく、十六分音符や付点とか言うのがくっついてるやつがあるともう解らない。てかこの3ってついてるこの音符なんだよ!?意味がわからない。
先輩は合奏で行ってしまったから頼れる人は誰もいない。教室でちゃーと2人、四苦八苦しながら頑張って解読していた。
「これたしか三連符って言って一拍を三つに分けるとかなんとか...」
そんな事言われても解らないものは解らない。一拍を三つ?余計にわからなくなった。
「あれ?そういや戦部は?」
ちゃーがそんな事を言った。
そういえば忘れていた。先輩方も一言も戦部の事を言ってなったし、吹奏楽祭は吹部だけの話なのだろうか。
「え、でもコンクールで吹くって言ってたよね?」
そう、コンクールは吹奏楽だけの問題じゃない。戦部も関わって来る。戦争学部大会があるからだ。たしか自由曲は自陣近くの地形を左右するインフィールドとか言ってたけ?
「じゃあ吹奏楽祭も何かしらの関係がある!」
そう思った俺達はコモンホールに合奏の様子を見に行くことにした。
「あれ?」
そこでは普通に普通の合奏があっていた。
先生が前に立ち指揮を振っている。それに合わせて演奏されるドン・キホーテ。
ただただ普通に合奏をしていた。が、違和感がある。いや違和感しかない。
なんだ!?この青いバリアは!?しかもドーム状にコモンホールを包み込んでいる。
「これ、仮想空間..だよね?」
指差し聞いてくるちゃー。
「うん...やっぱり何かあるのか?」
ということで調べてみることにする。
「たしか仮想空間のログインにはカードが必要だったはず!」
「ちょっと!?どこいくの?まってよー!」
教室へ向かった俺の後ろをちゃーが追いかける。
教室に戻ると楽器ケースに入れてあるカードを持ってまたコモンホールに戻る。
カードを持ったまま、指先を仮想空間に入れる。さっきはすり抜けて入れなかったが、今回は指を入れると指先が消えた。
仮想空間に入ったのだ。
「ちょ..と、ハァ、は、速いって...」
息を切らしてちゃーが戻ってきた。
「ほら、やっぱり仮想空間だった。」
消えた指先を見せるとちゃーもやっぱり、と表情を見せる。
「見てみようよ!」
そして俺とちゃーは顔を仮想空間に入れのぞき込む。
そこには創造以上の光景が広がっていた。
広がった世界。そこはまるで戦場だった。
戦っている相手はあの黒い化物。武器は持っていないが。
フルート、刀。目に追えるかどうかという速さで斬る。
華麗なフットワークで敵の背面に回り切断。
黒い敵は下半身と上半身に切断され、弾け飛ぶ。まるで閃光。
クラリネット、剣。一定の間合いを保ち睨み合う。
一瞬敵の動き止まる。その隙をついて腕を切り落とす。
転がる黒い右手。蒸発したように消えていった。
曲は終盤に差し掛かるところだった。地形が大きく変化する。まるで建物の中、城のようだ。
自由曲は曲調によって空間が変化する。今はドン・キホーテが城で栄誉を称えられる、そんなところだ。
曲が一気に盛り上がると同時に攻撃も一気に畳み掛ける。
ホルン、弓矢。縦がついている特殊な弓矢だ。
全員が一斉に弓を引き射る。矢は弾幕のようだった。
トランペット、トロンボーンによる直感の一斉に射撃。
低音属の迫力のある弾。
圧巻だった。これが戦争学部。改めて感動する。
隣のちゃーも目を輝かせて見ていた。
__凄かった。それしか言いようがない。
連携、個人技、どれを見てもかっこよかった。
自分もこんなふうになりたい。
また強く思った。
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凄い。
初めてこんな本気の戦闘を見た。
体験入部の光君なんて比較にならない。
凄い。
ただただこの言葉が心の中に溢れてくる。
____ああ、感動するってこういうことなんだな。
戦争学部って最初は意味がわからなくて戦うとか言われてもよく理解出来なかったけど、今これを見たら私も無性に戦いたくなってきた。
戦争学部って楽しい!
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「お疲れさまです!!」
俺は先輩方が帰ってきたらまずそう言った。
戦部の戦闘システムがよくわからない!!
次回あたりに詳しく書けたらいいな、と思います。




