第七話
俺が食堂で朝飯を食っていると身支度を整えたユウキが下りてきた。
「おはようユウキ、俺が起きた時に壁の向こうから音がしていたから俺より早く起きたと思ったが結構時間かかったな」
「おはようシンヤ君、女の子には色々やらないといけないことがあるのです」
挨拶した後、ユウキも朝食を受け取り向かいの席に着いた後、二人で今日の予定を話し始めた。
「それで、今日はどうするの?」
「取りあえず、リザードマンの集落で手に入れた宝石を売ってから考えるか。どの程度の金額になるかわからないしな」
「そうだね、ならまずは商業区に行くんだね」
朝食を食べ終えた後、さっそく俺たちは商業区に向かって歩き始めた。その道中に多くのプレイヤーとNPCにすれ違い、村との違いに驚いていた。
「村にいた時は余りプレイヤーと余り会わないなっと思ったが、そんなことはなかったな・・・村が過疎っていただけか」
「そうだね、この道だけでも百人近いプレイヤーとすれ違っているかも」
「しかもほら、あのNPCは獣人みたいだぜ、ケモミミがついている」
「ホントだ、このゲーム種族選択ができないけどちゃんと異種族もいるんだね。それならエルフやドワーフとか定番の種族もいるのかな」
そして、商業区につくと目立つように設置された案内板を見て。宝飾店の場所を確認して向かった。
「ほう・・・これは中々質の良い宝石ですね。ちなみに、どこでこれを見つけたんですか?」
どうやらこの店員は見るからに初心者冒険者が予想以上質の良い宝石を持ってきたので、どこで手に入れたのか気になったようだ。
「ああ、リザードマンの集落から強奪した」
「ふむ・・・中々将来有望な若者のようですな」
「いや~~てれるな」
俺が照れているフリをしているとユウキが小声で「ねぇこの人明らかにこの宝石の出どころを疑っているよね」っと告げてきたがこっちには何もやましいことがないので気にする必要がないと思うんだが。
「わかりました。この宝石達は全部で50万Gで買い取りましょう」
「マジで! それでお願いします! よっしゃーユウキ五十万だぞ二人で分けても二十五万になるからかなりいい装備を買えるぞ!」
「ちょっと! シンヤ君声がでかいよお店の人が睨んでいるよ」
そのまま俺たちは宝石を売り店を出た。店を出るとき店員から「それではシンヤ様、これからもデーニッツ宝飾店をよろしくお願いします」っと言われた・・・思いっきり名前を憶えられているな。
「しかし儲けたなユウキ、まさか宝石が五十万もするとは思わなかったな」
「本当にすごいね~けどあの時役に立たなかったのにボクも貰っていいの?」
「ああ、気にするな。それより早く買い物に行こうぜ。これだけ大きな街なら色々と揃えることができるだろうし。ワクワクが止まらないぜ」
こうして大量の軍資金を手に入れた俺たちは装備を整えるべく街を駆けまわりだした。
まず、俺たちが向かったのは本屋だった。別に俺たちが読書に目覚めたわけでなくあるアイテムが目当てでやってきた。
「会ったよシンヤ君、ホラここが例の本屋さんみたいだよ」
ユウキが指をさした方向にエックハルト書店があった。
「おお~~、つまりここに売っているんだなスキルブックが!」
スキルブックとはチュートリアルで説明があったように、使うことでスキルを覚えることができるアイテムだ。武器や防具をそろえるのも重要だが様々なスキルを使ってみたいという気持ちが強く、真っ先にこの店にきてしまった。店の中には大量のスキルブックが本棚に並べられていたが一応ジャンル分けはされていた。それでもお目当てのスキルを探すのには苦労しそうだ。
「ユウキはキャラをどのように育てるか決めているのか?」
「えっと・・・実はまだ決めてないから色々なことに手を出してみようかなって思っている。シンヤ君は?」
「もちろん近接戦闘特化・・・ただ少し魔術も使ってみたいから、幾つか魔術スキルを取得しようとは思っている」
俺はともかくユウキはまだ方向性が決まっていないようなので、一通りスキルを見て回ることにした。
「おいユウキ、このスキル見てみろ」
「えっ、何シンヤ君」
・縮地
直線上に高速で移動することができる。
・クイックムーブ
直線上に高速で移動することができる。
「・・・同じスキル?」
「ああ、効果は一緒みたいだ」
「じゃあ、名前が違うだけなの、なんでそんなのがあるのかな?」
「それはあれだろ、例えば侍キャラでこの移動スキルを使うときに、クイックムーブでござるって言われるより縮地!て言ってもらったほうがいいだろう」
「なんでござる口調!」
そんな漫才を繰り広げながら様々なスキルを買いあさった。スキルを買った次は装備を買いに行った。目指した先はこの街で一番大きな商店トリンブル武具店。そこなら武器と防具両方が置いてありこの街に不慣れな俺たちにはありがたかった。ちなみにトリンブル武具店は三階建ての建物で一階に武器、二階に防具、三階にはマジックアイテムが置いてあるそうだ。
「俺はこのままメイン武器は刀にするがユウキはどうするんだ?」
「え~~と、取りあえずは今のブロードソードとバックラーのスタイルのままでいようとは思っているよ」
武器は二人とも鉄製の武器から上位の鋼鉄製の武器に変えることにした、盾も武器扱いなのか一階に置いてあった。そして、次に防具を見ることにした。防具は俺は動きを阻害しない程度に所々金属製の防具で固めた装備で、ユウキは俺より軽くなるように金属製の防具は使わずにモンスターの皮や甲殻で作られた装備にした。ちなみに、防具を見ていた時にある装備を見つけてユウキにお勧めしてみたが反応が良くなかった。やり取りはこんな感じだった。
「おいユウキ! こいつを見てみろ!」
「え? どれのことシンヤ君・・・ってまさかこのビキニアーマーのことじゃないよね」
「もちろんじゃないか、ファンタジーの王道だろう」
「王道でもこんな物付けないよ!! これ絶対に防御力が下がるよね! 肌とか絶対に守る気がないどころか見せてんのよ状態じゃないか! これを装備していたら戦士じゃなくて痴女だよ!!」
「・・・見事なツッコミだなユウキ、ただ一つ訂正があるとしたら、これを装備したら防御力はかなり上がるぞ。なんでもこの鎧は美の女神の加護が付与されているみたいでオーラを増強してくれるし、肌に細かい傷がつかないように一定以下のダメージを無効化してくれる能力もあるみたいだ」
「なんで無駄に高性能なんだよ!! 力の入れどころを間違えてるよね!! ってか、なんでビキニアーマーなんかに美の女神が加護を付けるんだよ!!」
「それはほら・・古来より人間は女性の裸に美を感じてきたからだよ。昔の芸術でも女性の裸をモチーフにした作品はたくさんあるだろ・・・ほらミロのヴィーナス像とか」
「それとこれを一緒にしたくないよボクは!!」
ビキニアーマーだけで我ながら随分盛り上がったと思う。
「それで、ユウキはお金は後どれくらい残っている?」
「ボクは三万ちょっとかな、シンヤ君は?」
「おれは六万ちょっとだな。二人合わせれば十万に少し届かない程度か・・・よし、三階のマジックアイテムも見るか」
「えっと・・・このお金はシンヤ君のおかげで稼ぐことができたから残りは上げても構わないけど足りるかな?」
「足りなかったら冷やかすだけでもいいだろう」
そう言って、俺たちは三階に上がっていった。三階は一階や二階と違って武器や防具さらには装飾品までが乱雑に並べられていた。値段は数十万もするのがほとんどで高いのは百万以上もした。買えるのは指輪型の魔道具が一つくらいだった。
「なら、この指輪にするか」
・封魔の指輪
下級の魔術を一つだけ封印することができ、任意のタイミングで解放することができる。
「あれ? シンヤ君は魔術を殆ど取らなかったよね」
「ああ、だけどユウキは結構魔術を買っていただろ。それならこの指輪にユウキの魔術を封印して俺が使うこともできるだろ」
「なるほど、この指輪ならそういう使い方もできそうだね」
ユウキも納得しこの指輪を購入することにした。所持金も殆ど使い切り俺たちはファンタジー世界定番の施設に行くことにした。
「よし、装備を整えたしあそこに行くか。」
「シンヤ君、あそこってどこ?」
「そりゃあれだよ、冒険者ギルドだよ」




