第七十七話
ゼルギウスの片腕を斬り飛ばしたシンヤは油断せず相手の挙動を観察した。
コイツがこの程度で終わるはずがない。
その確信がシンヤを集中させていた。
実際に片腕になって不利になったはずのゼルギウスは、静かにシンヤを睨みつけているだけで、そこから放たれる威圧感は一切減衰していなかった。
そして、世界が夜へと切り替わった。
「なんだ!?」
いきなりの周囲の変化に警戒をするシンヤだったが今のところは暗くなっただけだった。
(コイツが何かしたのか? しかし、それらしい動きはしていなかったし・・・別の誰かが何かしたのか?)
この夜への変化はリーゼロッテがスキルにより光を吸収したから起きた現象だが、シンヤは知ることなくただ警戒していた。
「・・・どうやら見くびりすぎたようだな」
ゼルギウスが取り出したのは三つのユニークアイテム。
「『鏡界戦』『手招き』『黒天より光刺す』」
「はぁっ!?」
シンヤの口から思わずマヌケな声がでた。
相手が余裕を持っていると思っていたが、まさかユニークアイテムを三つも隠し持っていたとは思わなかったからだ。
周囲は鏡が乱立するようになり、ゼルギウスの体からは、切れた腕の代わりにまるで粘土で造られたかのような腕が生えて槍を掴んでいた。
「何だこりゃ!?」
シンヤは思わず声を荒げてしまう。
空を見上げればでっかいてるてる坊主が浮かんでいたのだ。
『黒天より光刺す』より生まれたてるてる坊主は、半透明な素材でできており、キラキラと光の粒の様な物が見える。
そして、その光の粒が雨の様に地面に向かって降り注いできた。
降り注がれていく光はただの光ではなく。まるで針の様に地面をたやすく貫いていく。
幸い、本物の雨の様に逃げ場が無いわけでなく、それなりの隙間があったが。気を抜けば当たってしまう程度の量は戦場に降り注いでいた。
更に『鏡界戦』により生まれた鏡に反射していきなり真横から飛んできたりもするから。シンヤは常に光に気を配る必要があった。
最も、大量に降り注がれる光を持ち前の反射神経だけで躱し続けるシンヤの姿をユウキが見たら「どんな神経をしているんだよ!!」っとツッコミを入れてくれたかもしれない。
ただ、この光はゼルギウスにとっても害になるようで、シンヤと同じように光を躱している。
あたかも、満天の星空の中で戦う様になった二人だが、お互いにその美しい光景に気をとられることは無かった。
ゼルギウスは『手招き』により生じた腕の性能が悪いのだろう、万全の時よりもだいぶ落ちた手数も勢いでシンヤを攻撃していた。
それでも、シンヤがすぐに近づくことが出来ないのは、光を躱すためジグザグに走り。『自由槍』により伸ばされた槍が鏡に当たると、まるで光の反射の様にくの字に曲がりシンヤに襲いかかった。
どうやら『鏡界戦』により生まれた鏡は光だけでなくあらゆる物を反射するようだ。
シンヤが試しに触れてみた時、鏡面に触れた所から手が折れ曲がり、慌てて離すとなんの問題も無く元に戻ったので反射したものには負荷が一切かからないのだろう。
だからこそ、厄介である。
向うは伸ばした槍をいくらでも反射させてこちらを狙うことができ、反射角を変えれば薙ぎ払うこともできる。更に躱したと思えば背後から反射された槍が迫ってくることもあり、シンヤはあらゆる方向から攻撃を警戒しないといけなかった。
また、『手招き』により生み出された腕も厄介だった。生やす場所はある程度自由にできる様で、伸ばした槍から腕が生えてきたこともあった。
槍から生えた腕でこちらを掴んでくる、『手招き』で生まれた腕は脆く、簡単に壊れたが。掴まれた時に体勢が崩れることは避けられず。何度か光に貫かれそうになった。
それでも、シンヤはある地点まで駆け抜けた。そして、たどり着いた。
「ココだぁーーー!!」
シンヤは全力で地面を殴りつけた。
地面はひび割れ舞い上がる粉塵。それが隠れ蓑になりシンヤの姿を隠す。
ゼルギウスが薙ぎ払う一撃を放つがそれは空を切る。
「いない・・・上か!!」
それはゼルギウスが使い捨てた巨大な槍を駆け上るシンヤの姿だった。
登り切ったシンヤは朔夜を握った左腕で思いっきり槍の石突を殴りつけた。
「朔夜!! 重力フルパワーだ。『鬼吼拳』!!」
自身の腕の負担を考えずに放った突きは槍を深く打ち込んでいき。浮島を粉々に打ち砕いた。
バラバラになって落ちていく浮島のかけらと共に落ちるゼルギウス。
シンヤを同じように落ちると思っていたが、それは覆された。
「来い!! ヒエン!!」
シンヤの呼び声に応える様にヒエンが飛んできてシンヤをその背にキャッチした。
先ほどの一撃で砕けた左腕で手綱を捕まえ、右腕には持ち替えた朔夜を抜き放ち。シンヤはペガサスに跨り空を駆ける。
降りしきる光を躱し、突き出された槍を避け、シンヤは空中で満足に動けないゼルギウスに肉薄した。
「もらったぞゼルギウスーーー」
「クソガキがーーー」
ゼルギウスは今まで手放さなかった槍を手放し。使い捨ての槍を大きくしてシンヤを迎撃しようとしたが、シンヤは避けずに更に加速することにより対応した。
爪楊枝の様なサイズから大きくなっていく槍はシンヤの体に突き刺さることにより回転が止まり、『自由槍』の力が発動できず、シンヤに致命傷を与えることが出来なかった。
そして、そのまま振りぬいたシンヤの一撃はゼルギウスの首を断ち切った。
空から首と泣き別れた身体が地面に落ちていくのをみて、ようやく勝利を確信したシンヤは大声で叫んだ。
「敵将!! 討ち取ったり!!」




