第七十五話
砂時計『原点回帰』が起動した瞬間、光の環が広がっていき。周囲を包み込んだ。
光の環の中に包まれたシンヤは軽く手を動かしてみたが、異常は感じられなかった。
(少なくとも、今のところは異常なし・・・か。それならいいが、距離を離されてしまったから、もう一度アイツまで近づかないといけないのが面倒だな。縮地で一気に距離を詰めようとしたら、確実に迎撃されるだろうし、アレは速いけど真っ直ぐにしかうごけないから・・・しょうがない、もう一度さっきみたいに地道に距離を詰めるか)
そして、再びシンヤの前進が始まった。一方的に攻撃を受けながら前に進み続けるのは一緒だったが、しばらくすると先程までとは違う展開になった。それは、距離が10mは離れている地点でシンヤが攻勢に打って出たことだ。
「《飛斬》」
攻撃と攻撃の合間、その僅かな隙をついての攻撃。
舌打ちしつつ、飛んでくる斬撃を躱すゼルギウス。そうすると攻撃の密度が下がり、更にシンヤが前進する隙が生まれ、勢いよく前に出た。
シンヤもオーラを使った遠距離攻撃を使い始め、一方的に攻撃されることは無くなったので、先程までより断然、前進速度は速くなったがこの戦法は多くのオーラを消費することになるので、持久力にかける。だからこそ、シンヤは思う。
(もっと速く、もっと前へ!!)
再び、シンヤが得意とする間合いに入った。
もっとも、ゼルギウスは『自由槍』により、あり得ないくらい大きさの槍からショートスピア並みの小回りが利く槍まで自由に変えることが出来るので、間合いに得手不得手はないのだが。
(今度は逃がさん!!)
先程、『自由槍』をうまく使った、奇策でうまく間合いから逃れられたことに根に持ったシンヤは、今度は同じ方法で間合いを広げようとしても撃ち落とすために、左腕にオーラを溜め《鬼吼砲》の準備をした。
ゼルギウスもそれに気づいているようで、鋭くシンヤの左腕を睨みつけ、逆に間合いを詰めてきた。
(近づいてきた!? これは《鬼吼砲》の弱点に気付かれているか)
シンヤの絶大な威力を誇る《鬼吼砲》は、その威力の反面、撃ち出した時に自身にかかる負担も相当な物がある。発射の反動は全身で力をうまく受け止めているシンヤだが、発射口からの衝撃波は腕を突き出すように撃たないと自分の身体にも衝撃波が襲いかかるのでどうしようもないのである。ちなみにシンヤは一度腰だめにして撃って腕が千切れそうになったこともある。
(・・・いや、相手にそれなりのダメージを与えられるチャンスがあったら、ダメージ覚悟で撃つのも有りか。)
「・・・そろそろだな」
ゼルギウスがそう呟くと、いきなり明後日の方向に向かって槍を構えた。
いきなり生まれた明確な隙、戦っていればゼルギウスが意味もなくこのような隙を晒すような奴ではないことはシンヤは承知しており、一瞬攻めるかどうか悩む。
(迷ったら攻める!!)
相手が何かしようとしていることを、頭の片隅に置きつつシンヤはゼルギウスに斬りかかった。
だがその瞬間、砂時計『原点回帰』から再び光の環が広がり。目の前からゼルギウスの姿が消えた。
「これは・・・」
素早く、視線を巡らせゼルギウスの居場所を探る。そして、シンヤの目にこちらに向かって槍を構えているゼルギウスの姿が映った。
(そうか、ゼルギウスが向いていた方向は、移動した後の俺の方向か!?)
「《オーバースパイラルスパイク》」
ゼルギウスの力を溜めた一撃がシンヤを襲った。




