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第六十九話


 ハイデラバードの老将ゼルギウスはツェルマットの猛攻に曝されて、次々と倒れていく自軍を眺めていた。このままではこの戦は敗走してしまうことが目に見えて分かってしまった。


「おやおや、大変な状況になってしまいましたね。しかし、ツェルマットの人たちは面白いことを考えつきますね。まさか、大岩を浮島に改造してそれを足場として活用するとは、アレはいい手ですね。足場が盾にも武器にもなっていますから多少の数の差は容易にひっくり返されてしまいそうですね」


 いつの間にかローブ姿の男がゼルギウスの隣に立ち、大変だと言いながらも微塵も焦っていない態度で話しかけてきた。


「どうしますか、そろそろ私たちが動いた方がいいと思うのですが。前回の戦いを知っている貴方なら私たちの力は分かっているでしょう」


「………」


 思わず無言になるゼルギウス。


 実際に、前回の戦いでは彼らが持ってきた兵器は多くの戦果を上げ、それが向こうを大敗に追い詰めた要因になっていたことは知っていた。


 だからこそ、ゼルギウスはこれ以上この得体の知れない者たちに戦果を上げさせるわけにはいかないと考えていた。彼らは唐突にハイデラバードに現れ、持ってきた技術で一気に国の中枢まで入り込んできたのだ。


 今では、国王の最も近い位置になっており、ゼルギウスは彼らを危険視している一人だった。


(しかし…やむを得ないか…)


 何よりこのまま敗走してしまえば、我が黒槍騎士団のみならず、弱った国を倒すことさえできない無能の烙印を姫様にまで背負わしてしまうかもしれない。そうなればますます国での姫様の立場が悪くなってしまう。そのことを考えれば、自分の危惧や誇りなど後回しにして彼らの力を借り、勝利を掴むべきだ。


「だが!! それも、我が命を使い尽してからの話だ!!」


 そう吼えると、ゼルギウスは槍を手に前に歩み出た。


「前線に出るぞ!! リーゼロッテ!! 姫様の護衛を頼んだぞ!!」


「お任せください。団長も気を付けて」


 そして、駆け出したゼルギウスは思う。


(まずは、派手に暴れまわったあの小僧から始末するか…)



 ヒエンから降りたシンヤは新たな戦いを求めて、浮島の上を歩いていた。


「ありゃ、先端まで来てしまったか」


 当然の如く、浮島の上には敵がいないので、シンヤは一切戦闘することなく端までたどり着いてしまった。


「…どうやって降りようか」


 遠隔攻撃手段の乏しいシンヤが、敵と戦う為には下に降りる必要があるが、当然の事ながら下に降りる道などなく。あてもなく視線をさまよわせていた。


 いっその事飛び降りるか…そう思いだした時、シンヤはおかしなことに気付いた。


 そう…頭上に影が差したことに。


「…っなんだ!!」


 自分はまだ空中に浮いている浮島の上にいるのに、頭上から影が差すなどありえない。その思いから頭上に目を向けたシンヤの目に映ったのは巨大な鉄柱が複数空から降ってきている光景だった。


 空から降ってきた鉄柱たちは、巨大化(・・・)しながら落下し、シンヤの周囲にある浮島に着弾した。


 鉄柱が突き刺さった浮島たちは、その一撃で大きく砕け散り浮き輪による浮力を得ることが出来なくなり。上に乗っていたツェルマットの人間ごと、地面に向かって落下していった。


「何だったんだ今のは…」


「先程まで、調子に乗って暴れまわっていた小僧が居ったのでな、その小僧に灸をすえるために逃げ道を先に壊させてもらっただけじゃよ」


 気付けばシンヤの近くに、一人の老将が立っていた。


(どうやってここまで来た!?)


 空でも飛ばない限りはここまで来れないはずだが、見た感じ、空を飛べるような装備はしていなかった。


 黒鉄で作られた重厚な鎧に、飾りっ気は少ないがあらゆる物を貫きそうな威圧感を放っている漆黒の槍を持つ、この姿の男をシンヤは知っていた。


「ゼルギウス…」


 ハルト達が集めた情報の中で要注意人物として挙げられていた名だ。


「ふむ、儂の事を知っているようだが改めて名乗ろうか、黒槍騎士団団長『黒槍』ゼルギウス。貴様は儂自らの手で討ってやろう」


 そして、黒槍の切先をシンヤに向けた。


 その切先から今にも刺し殺されそうな威圧感を感じながらシンヤは笑った。


「ならこっちも名乗らせて貰おうか、『ライジングスター』のシンヤだ。大将首、捕らせてもらうぜ!!」


 願ってもない強敵を前にして、黒槍の切先から発される威圧感を切り払う様に刀を抜き、シンヤは答えた。



「…ところでさっきの浮島の崩落にハイデラバードの人間も巻き込まれていたけどいいのか?」


「…儂が巻き込まれた人員以上の働きをするから問題ない」


(そこまで考えずに浮島を落としたなコイツ…)


 なぜか、少し共感を覚えたシンヤだった。



 






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