第六十五話
一騎打ちを受けた瞬間、シンヤが纏っていた膨大なオーラが通常の状態に戻った。どうやら、一騎打ちは一対一とみなされて『一騎当千』の効果が切れたようだ。最も、シンヤもその程度は想定していて。構わずに突撃した。
双方、相手に向かって真っ直ぐに突き進み、お互いがトップスピードに乗った時に交差した。槍を突き出した。放たれた一撃は、お互いの体をわずかに掠めるだけで、最初の交差が終わった。
「どうやら、貴公の厄介だったユニークスキルは一騎打ちでは効果が無いようであるな。それならば、貴公に勝利は無いと思え」
『一騎当千』による強化が無いシンヤなど恐れるに足らないとばかりにアストンは再度、突撃を開始した。
(やばい、これは普通にやったら、勝てないな)
最初の交差でシンヤは力の差を実感した。そもそも、シンヤのメインウェポンは槍ではなく刀だ、『一騎当千』の効果が戦争で上手くはまりそうだから使っているだけで、槍はそこまで得意ではない。
更に『一騎当千』の器となっているのは直槍と呼ばれるシンプルな槍で、向うは騎兵が持つ槍としてイメージする細長い円錐の形にヴァンプレイトと呼ばれる大きな笠状の鍔がついたランスを装備しており、お互いの槍のリーチが一mくらい違う状況である。これではシンヤが攻撃を当てるには先に相手の攻撃を防がないといけない。
もう一つ、不利な点を挙げるとすれば、シンヤは馬上戦の経験は殆どない。当然のことだが、シンヤが現実の道場で稽古を受けていたとしても、道場での稽古で「よーし、今から馬上での戦い方の稽古を始めるぞー」とか展開があるわけがなく。さっきまでは『一騎当千』のおかげで槍を力任せに振り回せば敵がバッタバッタとなぎ倒すことが出来ていたが、今はろくな知識も経験も何もない状態で取りあえず槍を突き出している状況だ。
つまり、馬上戦においてはシンヤはアストンに多くの面で下回っている。その状況でシンヤがとる行動は…。
(取りあえず、鬼吼砲で馬上から撃ち落とすか)
遠距離攻撃で撃ち落とすことだった。鬼吼砲ならば、馬上戦の技術が無くても関係なく槍のリーチよりも安全な距離から攻撃でき、なおかつ、お互いが向き合って馬に乗って突進している状況は非常に攻撃を当てやすい状況なので、上手く当てて馬上から叩き落とすことが出来たなら、後は刀を抜き、得意分野で戦えばいい。なのでこの一手は、これ以上はない手だとシンヤは判断していた。
シンヤはオーラを溜めつつ、慎重に距離を測り、絶対に躱せないタイミングで、鬼吼砲を解き放った。
「《鬼吼砲》!!」
流石に、『一騎当千』を使っていた時よりは、大分威力は落ちているが、アストンを馬上から叩き落とすには十分な威力だと思われていたが……
「『覇道の進め』」
アストンのユニークスキルが発動し、シンヤが放った鬼吼砲がまるで見えない何かに踏みつぶされるかのように地面に押しつぶされた。
「なっ!!」
予想外の事態にシンヤは動揺してしまう。
「槍でかなわぬとみて、遠距離攻撃に切り替えたか。だが、その選択は愚か也!! 我がユニークスキル『覇道の進め』は我が真っ直ぐに前進し続ける限り、前方から来るあらゆる遠距離攻撃を踏みつぶす!!」
そして、隙を見せたシンヤに勢いに乗ったアストンのチャージが炸裂した。
シンヤはこのままではランスに貫かれてしまうので、即座に武器を手放し、突き出されたランスの先端を掴み、突き出されるランスの勢いそのままに、ヒエンの背中から転げ落ちた。
何とか、串刺しになることは避けられたが、勢いよく地面に転げ落ち。ゴロゴロと転がっているシンヤは、勢いが弱まると、無手だと不味いので即座に刀を抜き態勢を整えた。
しかし、警戒していた追撃は無く。アストンは少し離れた所から馬を止めこちらを眺めていた。
「ふん、安心しろ。一騎打ちの最中に地面に無様に転がっている輩を刺し殺す矜持は持ち合わせておらん。さっさと転がっている槍を拾い、馬に乗りなおすがいい」
その見下した発言にシンヤはキレた。
(舐めやがって、コイツは絶対に馬上戦で刺し殺す!!)
さっきまでは、馬上から叩き落とすことだけを考えていたが、今は相手の土俵である馬上戦で倒すことだけを考え始めた。
落ちている槍を拾っているシンヤの隣に、やってきたヒエンは心配……はせずに、むしろ俺の背中に乗せているのに、何無様な姿を見せているだ。と言わんばかりにシンヤを蹄で蹴っていた。
「悪かったな無様な姿を見せてしまって。あの野郎をぶっ倒すために協力してもらうぞヒエン!!」
そう言うと、シンヤはヒエンに飛び乗り、怒りに燃える目でアストンを睨みつけ。それに呼応するように、ヒエンも嘶き声を上げ、走り始めた。




