第六十四話
ハイデラバードに付いていた傭兵とプレイヤーたちに戦慄が走った。
いきなりペガサスに乗って現れた一人のプレイヤーに自陣の味方達がなすすべなく倒されていっている、その光景に恐れた人間はクモの子を散らす様に逃げ惑っていた。
「うわぁぁぁ、何だよコイツは!!」
「ヤバいぞ、あのオーラの量は、何らかのユニークスキルなのか!? 誰か情報をもっていないのか!?」
「知るかよ!! 誰でもいいから、早くアイツを何とかしやがれ」
多くの人がその圧倒的な力から逃げ惑い、少しでも距離をとろうとして、ドミノ倒しの様にぶつかり合い転んだ所に突っ込まれ、まとめて吹き飛ばされていた。
この光景を生み出している男であるシンヤはとても楽しそうに……
「フッハッハッハッハ!!」
鬼か悪魔の様な笑顔で笑い声を上げていた。
「弱い!! 弱すぎるぞお前ら!! もっと抗ってみせろよ!!」
このシンヤが悪役の様に楽しんでいる状況は、相手の数が自分が一人で相手の数が多ければ多いほど力が増す。『一騎当千』の効果が最大限に発揮されたからである。
今のシンヤは自身が纏う赤黒いオーラが『一騎当千』により大幅に増幅され、姿が陽炎の如く揺らめいた赤い鬼の様に見えており、その姿でヒエンに跨り突進してくる姿は多くの人を恐怖させ、近づかれた者は力任せの槍の一振りで倒され、大楯を構え、受け止めようとした者は盾ごと貫かれ、シンヤが槍を付いたゴミを払う様に振るうと、勢いよく飛んでいき、逃げ惑っている人を弾き飛ばした。その無双ぶりはまさしく一騎当千と言われるにふさわしい姿だった。
「畜生、近づかれてはダメだ。遠距離攻撃で仕留めろ」
ただ、他のプレイヤーもやられてばかりではなく、冷静さを取り戻したプレイヤーたちはシンヤが他の獲物に気をとられている間に集結し、一斉攻撃の準備をしていた。
「今だ、味方ごとでも構わない。撃て!!」
号令とともに撃ち出された様々な攻撃は、シンヤの視界を埋め尽くすほどに範囲と密度を誇っており、これに巻き込まれたらただでは済まないことは確実だとハイデラバードのプレイヤーたちは思った。
それに対して、シンヤはただ左腕は構えると、『一騎当千』により増幅されたオーラを左腕に収束させ始めた。
「《鬼吼砲》!!」
『一騎当千』に強化され、何倍もの威力で撃ち出された《鬼吼砲》の衝撃弾は、鬼の雄たけびの様な轟音を轟かせながら突き進みハイデラバードの一斉攻撃を打ち破り、その背後のプレイヤーたちまで吹き飛ばした。
これにより、ハイデラバードの傭兵、プレイヤーの陣地は壊滅状態になり、シンヤは更に敵陣奥地に進んで行った。
後日、ハイデラバードに付いていたプレイヤーは戦場に現れた、漆黒のペガサスに跨った赤い鬼の事を提示版にのせ、シンヤの存在は多くのプレイヤーに知られることになった。
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「うわぁ、暴れてるな~~」
城塞からハイデラバードの陣地を眺めていたハルトは敵陣の一角がボロボロに崩れ去っていく光景がよく見えた。
「どうしたんだ?」
負傷のために横になっているので敵陣の方を見ることが出来ないソースケにハルトは状況を説明した。
「シンヤが貰った『一騎当千』を手にハイデラバードの陣地で無双している」
「そういえば、さっき下で【槍術】アビリティの熟練度を上げていたな」
「けれど一人で行って大丈夫なんですか? いくら『一騎当千』でオーラが増幅されているといっても、無限ではないでしょうから、いづれは数に押しつぶされてしまうと思うのですが」
カオルがシンヤの事を心配するように言った。
カオルは現在、ソースケの治療のために、ヒールをかけている状態である。ソースケの傷は深くヒール単発では治りきらないので、ヒールをかけ続ける為にカオルはソースケを膝の上にのせていた。見ようによってはソースケの顔が巨乳と太ももに挟まれている様に見える。
「おそらく、大丈夫だと思うよ。もうすぐ、アレが来るだろうから。そしたら、向こうはシンヤだけに構っている余裕がなくなるから、その時に脱出すればいいわけだから」
「そうですね、アレをやってきたら私たちの本当の出番ですね。では、それまでにソースケさんが復帰できるよう頑張ります」
そう言い、カオルはソースケの治療に集中しだした。
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「いくぞヒエン、このまま大将まで蹴散らしてやるぞ!!」
勢いに乗るシンヤは敵陣中央に向かって走っていき。
「待てい!!」
その勢いを止めるべく一人の騎兵が飛び出してきた。
「我は黒槍騎士団騎兵隊隊長『駿槍』アストン!! 貴公に一騎打ちを申し込む!!」
力強そうな栗色の馬に跨り、フルプレートアーマーを着込んだ男が突撃槍を構え、高らかに名乗りを上げた。
「それに、答えなくては漢じゃねぇな、『ライジングスター』のシンヤだ。その一騎打ち、うけてやるぜ!!」
お互いに名乗りを上げ、二人は相手を倒すために突撃を開始した。




