第六十二話
「ソースケ! 大丈夫!?」
ソースケがいた場所に岩石が落ちたのを見て思わずハルトは声を荒げた。
「ああ、何とか避けれた」
すると、落ちてきた岩石のわきからソースケが這い出てきた。どうやら落ちてきた瞬間、咄嗟にその場から飛び退いてギリギリ躱していたようだ。ただ、岩石が落ちた瞬間に砕けて、辺りに飛んで行った瓦礫がソースケの体を打ち据えてそこそこのダメージを負ったようだ。
「イテテ、流石にやばかったな。だけど、おかげでいい対処法を思いついたぜ」
カタパルトから飛ばされた岩石によって破壊され、飛んできた岩や床の破片が飛び散っている所を見ていたソースケは、そう呟くとフリートに向けて突進した。
真正面から突っ込んでくるソースケにフリートは『爪痕』によりソースケの前方にラインを刻んでそのまま進むと再び爪で切り刻めるようにした。
「やっぱりそう来るよな…なら、こっちはこうだーー!!」
ソースケは地面に向かって自身の拳を叩き付けた。
「《爆裂拳》!!」
スキルも使ったその一撃は、地面を殴りつけた瞬間に爆発し地面を盛大に割り砕き、地面に盛大なひび割れを作り出していった。
そのひび割れにより、『爪痕』で刻まれたラインは寸断され。フリートが爪を作り出す時はオーラをラインに送っていたことから、繋がっていないラインからは爪が出てくることがないと確信しているソースケは恐れることなく前進し一気にフリートの距離を詰めた。
「二発目いくぜーー」
鉄槌の如き、ソースケの一撃が再びフリートに突き刺さった。
「ぐぅぅ、このバカ力が…」
ソースケの全力の一撃を受けて大きく弾き飛ばされて距離をとることが出来たが、決して軽くない一撃を貰い、フリートは呻いていた。
「おらぁぁ、続けていくぞーー」
上手く攻撃を当てれるようになって、テンションが上がってきたソースケが反撃を恐れずに再びフリートに向けて突進した。フリートとしてはノーガードの殴り合いでは分が悪いのでどうにかして距離を取りたかった。
「この近づくんじゃねーー」
フリートは『爪痕』でソースケに向かって地面にラインを刻むが、先程までと違い既にラインから爪が出ている状態だった。地面を走る爪はソースケを切り刻まんと迫る。
「無駄だ――」
ソースケは再び《爆裂拳》で地面を割り砕き。爪を地面ごと砕いていった。
「チッ」
思わず舌打ちしたフリートだったが、元々少し足止めが出来ればいいと思った攻撃だったので、ソースケが《爆裂拳》を地面に放つためにその場で止まった時点で十分だった。
爪を破壊し、フリートとの距離を詰めようとしたソースケだったが、フリートの手に小さな瓦礫が幾つか握られていることに気付き思わず動きを止めた。
「なんだ? 何をするつもりなんだ?」
「ハッ、こうするんだよ!!」
次の瞬間、フリートは瓦礫に『爪痕』のラインを走らせ、それを投擲した。投擲された瓦礫はラインから生じた爪を手裏剣の様に纏わせ、ソースケに向かって風を切りながら飛んで行った。
ソースケは飛んできた瓦礫をトンファーで破壊するが、カタパルトから飛んできた岩石や先程からソースケ自身が地面を破壊しまくっていたので弾となる瓦礫は周囲に沢山転がっていた。
「まだまだいくぞーー」
次々と、投擲される瓦礫の対処に追われているソースケの隙をついて、フリートは次の一手を打っていた。
フリートが地面を爪先で蹴るとそこから『爪痕』のラインが伸びて、ソースケの傍で爪を生じさせた。『爪痕』は両手の爪からしか伸びてこないと誤解していたソースケは、その攻撃を上手く防ぐことが出来ずに更なるダメージを負ってしまった。
(ちくしょー、流石にダメージの量がヤバくなってきたな)
危機感を抱くソースケであったが、地面だけを走るラインだったら、地面を破壊すれば何とかなったが、瓦礫に乗って飛んでくる爪は地面を破壊した所でどうにもならず、それどころかうかつに地面を破壊するために攻撃すると、その隙に襲いかかってくるので、対処のしようがなかった。
何とかしたいと考えるソースケだったが、いい案が思い浮かばず、それどころか考えに気をとられてしまい、飛んでくる瓦礫を一つ見落としてしまっていた。
(やば!!)
気付いた時には、自分のすぐそばまで来ていて、ソースケは直撃だけは避けるためにトンファーの角度を少し変えて、瓦礫の正面に持って行った。咄嗟の行動だったために手に力が上手く込められておらず、ソースケ自信軌道を少し変えられたらいいと思っていたが、予想に反してトンファーに触れた爪はあっさりと何の抵抗もなく壊れて、トンファーに当たった瓦礫は少し軌道が変わりソースケの体を掠める程度で後ろに流れていった。
「はぁ!?」
簡単に爪が壊れてしまったことに、驚きの声を上げるソースケだったが、この出来事付いて考えてみると一つの結論に至った。
「そうか、この『爪痕』は武器に触れてはいけないんだな」
実際、『爪痕』の爪は金属鎧を身に纏ったソースケの体を切り裂くくらいの鋭さと強度があったが、武器であるトンファーに触れた時点で壊れたのはそれ以外考えられなかった。
「だったら、対処法はこれしかねーー」
ソースケは近くにいる弓兵の矢筒から矢を奪い取り辺りにばら撒き始めた。ソースケの予想通り、ラインに武器である矢が触れると先程の様にあっさりとラインは砕け散り、ソースケが進むための道ができた。
当然、フリートはソースケの突進を阻むために瓦礫を投擲するが、ソースケはトンファーを自分の前面に持っていきそのまま突っ込んで行った。たとえ爪を纏っていてもトンファーに触れた時点で爪は壊れてしまうので瓦礫の直撃だけを避ければよかった。
「オッシャーー、三発目いくぞーー」
距離を詰めたソースケが、ついに三発目を叩き込もうとしたその時、フリートは今まで隠していた奥の手をさらけ出した。
「てめぇ、俺がなんて呼ばれていると名乗ったか覚えているか」
フリートは突っ込んでくるソースケよりも速く、動きソースケに向かって貫手を放った。『爪槍』の名の通り、その威力は名槍の一撃に匹敵する鋭さを持って、ソースケの体を貫いた。
「ぐはぁ…」
腹部を貫かれたソースケは、一瞬怯んだがそのままフリートを抱えて走り出し、そのまま城塞から飛び降りた。
「っ…この野郎何考えてやがる!!」
ソースケに抱えられた、城塞から落ちていくフリートは焦った様子で暴れていた。
「こうすれば、お前は逃げることができないだろう。さぁ地面に落ちるまで殴り合いといこうじゃねぇか」
落下しながらソースケに殴られているフリートは何とか振りほどいて、念のために持ってきていた。『レビテーション』の魔法が込められたアイテムを取り出そうとするが、密着したソースケがそれを使わせてはくれなかった。
「ぐはぁ、この相打ち狙いか!!」
フリートはソースケが自分と共に死ぬ気だと思ったがそれは違っていた。
「ちげ~よ、死ぬのはお前だけだ。なぜならおれには…友がいるからな」
ソースケが見ている先には槍を持ちそれで下にいる敵兵を片っ端から倒している。シンヤの姿が目に映っていた。
「シンヤーー、受け止めてくれーー」
フリートに止めの一撃を入れたソースケは、シンヤにそう呼びかけた。
その呼びかけにシンヤは、ソースケが上から落ちてきていることに気付き、すごく嫌そうな顔をした。
(アイツはなんで上から落ちてきているんだ? そもそも受け止めろって金属鎧を身に纏った男を受け止められるわけないだろう。自分の体重がいくらになっているのか分かっているのか、受け止めた時の衝撃がどのくらいになると思っているんだ。受け止めたら骨が物理的に折れるわ、これがユウキとか美少女なら全然構わないんだけど、わざわざソースケを助けるためにそこまでしたくないな…見捨てるか)
シンヤはソースケが落ちてくる一瞬の間に、そこまで考えたシンヤは取りあえずポーションと『レビテーション』の魔法が込められたアイテムを使うだけにした。
そして、『レビテーション』により落下速度が緩やかになったソースケは地面に追突した。




