第六十一話
(くそっ…速い…)
縦横無尽に動き回り翻弄しながら攻めたてるフリートの動きにソースケが感じたのはそれだった。
フリートは自らの装備の重量を限りなく軽くして速さを追求しているようで、武器を持たずに防具すら殆ど身に着けていなかったが、それは自分が攻撃を受ける事が自信の現れかもしれない。
「うらぁぁ」
さらに、フリートが腕を振るうと指先からオーラの爪が伸びてソースケに襲いかかる。それにより素手での攻撃のはずなのにソースケがもつトンファーよりも離れた距離から攻撃してきている。それの威力自体はオーラを集中すれば鎧に軽い引っ掻き傷が出来る程度だが、一度オーラの集中が間に合わずに食らった時は鎧を貫通し肉体まで届いてきた。
「うがぁぁぁ! さっきからうろちょろしやがって! あたらねぇだろうが!!」
苛立ちのあまり叫んでしまうソースケ。
先程からソースケの拳は空を切り、フリートが振るう爪に一方的に切り刻まれていた。ソースケはフリートと違い鎧で全身しっかりと守っているが、攻撃を全て躱し、ダメージを一切受けていないほうと、鎧で守っているが少しずつ削られているほうではどっちが有利かバカでもわかる。
だからこそ、攻撃を当てる方法を考えているソースケだったが、しばらく考えて出した結論は…。
(ダメだ、アイツにノーリスクで攻撃を当てる方法が何にも思いつかねぇ~。こうなったら、危険でも絶対に当たるタイミングで攻撃をするしかないか)
そして、ソースケは自分が考え付いた絶対に当たるタイミングで攻撃した。
「ぐはぁ」「ぐっ」
お互いの攻撃が当たり、両者から激しいダメージエフェクトが表示された。
「てめぇー、相打ち狙いだなんて、何考えてやがる」
「よし、ようやく当たったぜ」
そう、ソースケは一切の防御を捨てて、相手が攻撃するタイミングで自分も攻撃した。フリートの爪が体に食い込んでいくのを構わず、むしろ自分から踏み込んでいって全力でフリートを攻撃した。ソースケ自身、爪に深く切り裂かれることになったが、フリートを殴り飛ばした瞬間、確かにあばらを砕いた感触があった。
(ノーガードの打ち合いなら装備が堅い俺が有利だ)
勝機を見出したソースケは再び無謀な特攻を繰り返した。だが、フリートはそれに付き合うつもりがないようで、ソースケから距離をとっていた。
「ちっ、しょうがねぇ…使うか」
フリートは何か覚悟を決めると、ソースケに再び襲いかかった。
その突撃は異常なまで低い姿勢で行われ、爪で地面を削りながら駆けていた。ソースケは近づいてきたフリートを叩き潰すために踏み込んで行ったが、フリートは爪で地面を削っただけでその場から飛び退いた。
(なんだ? 攻撃してくると思ったが、すぐに飛び退いて…いったい何がしたいんだ?)
ソースケがフリートの行動に疑問を抱いていると、ハルトが横から叫んだ。
「ソースケ!! 気を付けて、アイツが地面に何か刻んてある」
その言葉にソースケが地面に目をやると、フリートが引っ掻いた地面に赤いラインが刻まれていた。それが何だとソースケが疑問に思う前にフリートがユニークスキルを発動した。
「切り刻め、『爪痕』」
その瞬間、フリートが刻んだ赤いラインから爪が伸びてきて、ソースケの体を切り刻んだ。思わぬ、攻撃にソースケはオーラによる防御が出来ず、全身を深く切り刻まれることになった。
「いってーー畜生、何だこれは!? ユニークスキルか」
「そうだ、『爪痕』って言うんだ。これを使えば、また一方的に攻撃できるって寸法だ…それじゃいくぜ!」
フリートが地面を引っ掻くと、そこから赤いラインが地面を走り、ソースケの足元まで伸びてきた。ソースケは慌ててその場から飛び退くが赤いラインはその場に刻まれたまま消えることなくうっすらと光っていた。
フリートはソースケに避けられたことを気にすることなく、次のラインを刻んでいった。どうやら無限に刻めるわけではなく、両手の爪と同じ十本までしか刻めないようだが、それでも次々と刻まれ、それがある程度自由に動かせるとあって、ソースケは自由に動けないでいた。特攻しようにも、ソースケが突撃する気配があると素早く自分の前にラインを刻んで、うかつに踏み込めない様にして、突撃を防いでいた。近づけないから攻撃できないソースケと離れた所から攻撃できるがラインが目立つゆえに攻撃が当たらないフリートで、状況が硬直しそうだと思っていたが別の要素がそれを打ち砕いた。
ふと、風切り音がして空を見上げたソースケの目に映ったのはハイデラバード側からカタパルトで撃ち込まれた巨大な岩石がこちらに向かってきている光景だった。それにより、ソースケは自分が『爪痕』のラインによって岩石が落ちる位置まで誘導されていたことに気付いた。
そしてソースケのいた場所に岩石が直撃した。




