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第五十九話

 ハイデラバードの軍勢が隊列を組み、城塞チェスターにいるツェルマットの軍勢を睨みつけている後方で、大将たるハイデラバードの姫ティアンナは隣に立つ黒槍を携えた老将ゼルギウスに声を掛けた。


「うむ、わがハイデラバードのぐんぜーがたちならぶすがたはそーかんなり。それでじぃや、こたびのいくさはかてるであろうな」


 ゼルギウスは始まろうとしている戦の熱気に煽られて、少し不安がっているティアンナを安心させるべく絶対の自信をもって告げた。


「もちろんです姫様、この場には我が黒槍騎士団の総員がおります。たかが空を飛べる足を持っている程度で粋がっておるツェルマットなど我が黒槍騎士団が翼を穿ち、地に落ちた所を踏みつぶしてみせましょう」


 その言葉を聞いたティアンナは不安が晴れた様に顔に笑みを浮かべ「そうじゃの、そうじゃの」と呟いていた。


「ならばじぃや、わざわざあのうさんくさいれんちゅうをつれてくるひつようがあったのかの?」


 ティアンナが見つめる先には、漆黒のローブを身にまとい首から歯車の嵌った十字架を下げた男がいた。


「…確かに怪しい人物ではありますが、彼らが持ってきた物は役に立ちます。今しばらくは利用しておきましょう」


 様子からしてゼルギウス自身が全くローブの人物の事を信用していないことがわかった。


「それでは、儂は指揮をとるために前に出ます。リーゼロッテよ、姫様の護衛を頼んだぞ」


 ゼルギウスはティアンナの傍に立つ、金色の槍を持つ女性リーゼロッテに語りかけた。


「かしこまりました。姫様に害をなそうとする者がおりましたら、この神槍スコルの輝きを持って焼き払って見せましょう」


 リーゼロッテは槍を持つ手に一層力を込め、その意思を伝えた。


 その様子に満足したように肯くとゼルギウスは軍勢の前に立ち、声を張り上げた。


「いくぞーー!! 我らハイデラバードに宿る鉄の意志は何人たりとも止めることは不可能だと思い知らしめろーー!!」


 黒鉄の軍勢がついにチェスターに向けて進軍した。



「お~~ついに動き始めたぞあいつ等」


 シンヤが楽しそうに眺める先には、ようやく動き出したハイデラバードの軍勢がいた。


「そうだね、所でいつまでここにいるつもりだシンヤ、ユウキちゃんは既に自分の配置に着いたぞ」


 いつまでたっても、城塞上部に居座っているシンヤをハルトが呆れながら眺めているが、シンヤは気にした様子はなく。


「始まったって言っても、このままじゃ俺の出番がまだまだ先になってしまうからな。此処にいて序盤の戦いに参加しようと思ってな。いざとなったらヒエンに乗って移動すればいいし」


「何だよ、上部での戦いは俺に任せるんじゃねぇのかよ。折角一番槍は俺のが貰ったと思ったのに」


 シンヤの参戦にこの場を任せれているソースケが不満そうに告げたが。その言葉を否定するようにハルトが前にでた。


「いや、どのみち一番槍は自分がとることになるよ」


「ああ、そういえばお前はアイツらが来る前になんか仕込んでいたな」


「ああ、とっておきの魔術の準備をしておいたから期待していいよ」


 自分の魔術に自信があるのであろうハルトは、今まさにお互いを射程内に収めようと距離を縮めていく軍勢を眺めた。



 上部の指揮を任されたユッタは、敵が射程内に入った瞬間声を張り上げた。


「今だ、放てーー!!」


 その声を聞いた上部の部隊は一斉に攻撃を開始した。


 城塞上部から目の前の景色が変わるほどの濃密な攻撃にさらされながらも、大楯を持つ重装兵は微塵も揺らぐことなく自身の役割である攻撃を受け止めていた。多数の矢や炎弾に身を撃たれつつも、大楯から生じたオーラの壁は後ろの味方を守り通していた。守られている味方もただジッとしているわけでもなく。重装魔杖兵は手に持った杖からお返しとばかりに炎弾を放ち城塞上部を焼き、または空中で炎弾どうしがぶつかり合い激しい爆炎を空に刻んでいた。


 激しい攻撃にさらされ耐え切れずに炎に身を焼かれる兵、偶々バリスタの標的にされバリスタ用の槍の様な太い矢に串刺しにされる兵、次々と倒れていく味方の死体を乗り越えて、ハイデラバードの兵は一歩ずつ着実に距離を詰めていった。


 そして、いざ城塞上部へ乗り込むための鎖を放とうとしたその瞬間、変化が起きた。



「それじゃ、そろそろ始めようか」


 前に出たハルトの後ろからシンヤが決まったばかりのパーティー名を告げた。


「おう、お前が一番手なんだからしっかりと此処にいるすべての人間に見せつけてやれ。俺たち『ライジングスター』の力をな」


 ハルトは懐からルーンを刻んだ魔石を取り出し。それらを触媒に数多くのルーンで構成された巨大な魔法陣を生み出した。魔法陣は時がたつほど巨大になっていき最初は平面で構成されていた物が、次第に立体的に変わっていき、最後には幾何学模様の刻まれた一つの丸い球体になっていた。光輝く星の様な魔法陣は内包されたマナの影響で周囲に凄まじい圧力を生じさせ。ツェルマットの兵にはこれから起きるであろう奇跡を、ハイデラバードの兵にはこれから自信に降りかかるであろう災厄を感じさせるには十分であった。


 だからこそ、ハイデラバードの兵はハルトに向けて全ての攻撃を集中させていった。


「おっと邪魔はさせねぇぞ」


 大規模魔術に集中しているハルトを護るためにソースケがハルトの前に出た。


 ソースケは次々と降りかかる攻撃をオーラで強化したその身で受け止め、ハルトに一切のダメージを与えることなく護りきった。


「ありがとうソースケ、ようやく完成したよ…《スーパーノヴァ》」


 今、ハルトの魔術が解放された。






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