第五十一話
あのまま喫茶店で話し合いを続けるのも迷惑が掛かりそうなので、ジークの案内で城の一室を貸してもらえることになった。
全員が集まった後に状況を説明した後、シンヤは皆に宣言した。
「だから俺たちは、これから起きるツェルマットとハイデラバードの戦争で圧倒的不利なツェルマット側で1200万G分の働きをしないといけないわけだ……これはもうツェルマットを俺たちの力で勝利に導くしかないな」
「つまり、俺たちで圧倒的不利を覆す逆転劇を作り出そうってわけだな、熱い展開じゃねぇか」
「うん、そうだね~。シンに~さんについて行くと退屈しないよ~~」
やる気に満ち溢れているソースケとモモを除いた、他のメンバーの一部から何厄介ごとを抱え込んでいるんだっという視線を向けられているシンヤだったが、シンヤがその視線を気にしている様子が無いので、諦めて話を次に進めることにした。
「それで、このような難題を引き受けたのですから、何か考えがあるのですか」
「ない!! だからこれからみんなで考えよう」
シンヤの考えなしの行動に慣れ親しんだユウキとハルトは「ああ、やっぱりか…」とつぶやいていてが、すぐに気を取り直してこれからの行動に関して話し合い始めた。
「はぁ……そうだな、取りあえず情報をもっと詳しく調べてみようか。ユウキさん悪いがシンヤを連れて城塞チェスターまで行ってくれないか。二人ならペガサスに乗っていけるからすぐにつけるはず」
シンヤとユウキはおそらく戦場になる城塞チェスターの調査。
「次に、ソースケとフーカさんはツェルマットの兵の錬度と相手の兵について詳しく調べてくれないか。具体的に言うと、都市の兵の実力と構成、基本戦術などだね。ハイデラバードとはこの都市は二度戦っているみたいだから向こうの戦力についてもそれなりに情報があると思うよ」
ソースケとフーカはツェルマットとハイデラバードの兵力の調査。
「ギンガちゃんとカオルさんはこの都市が運用している兵が身に着ける装備や防衛兵器について調べてみてくれないか。おそらくカタパルトやバリスタなどの兵器があるはずだから」
ギンガとカオルは装備や防衛兵器についての調査。
「自分とモモちゃんは一旦ログアウトして、ネットで今回の戦争について調べてみるよ。戦争イベントなら結構話題になっているだろうし、人の口には戸が立てられないっというから色々と調べることが出来ると思うよ」
ハルトとモモは現実での情報調査。
「こんな所かな……それじゃ、各班に分かれて行動しようか、自分たちは現実で行動するから結構時間がかかってしまうと思うからそのつもりで。モモちゃん悪いけど連絡先を教えてもらっていいかな、こっちだけで連絡を取っていると時差が酷いから」
そういえばこのゲームでは、中の一日は現実の一時間だったな、だからハルトはモモの連絡先を聞いたのか……そう思ったシンヤはハルトにこう言った。
「ハルトお前……モモは可愛いけどまだ小学生だぞ、小学生を狙うなんてロリコンか!!」
そう告げられて、ハルトは心外だと叫んだ。
「ちょっと待てシンヤ、こっちにはそんな気少しも無いぞ、どうしてそんなことになるんだよ」
「だって、言葉巧みにモモの連絡先を聞き出そうとしているからな」
そのやり取りを見ていたモモは、体をクネクネさせながら困っているフリをしていた。
「え~~~、いきなりそんなこと言われても、モモ困っちゃうよ~~。残念だけどモモはもっと頼りがいのある人が好みなんだ~~」
「別に告白してないのに振られた!! しかもなんだよ、頼りがいがある方がいいって自分は頼りにならないっていう事かい」
「だって、ハルに~さん……シンに~さんとソーに~さんより弱いじゃないか。この間の模擬戦でも負けてたし」
あ~~あの時の事かっとシンヤはその時の事を思い出していた。
男三人で話していた時、誰が一番強いかって話になったんだよな。刀と体術による攻撃一辺倒な近接戦闘が得意な俺、トンファーによる防御寄りの近接戦闘が得意なソースケ、多彩な魔術を使った戦闘が得意なハルト。
それぞれ得意分野が違うから、誰が一番だなんて簡単には決められないけど、最終的に実際に戦ってみようとなったから、戦ってみたんだよな。結果はハルトは全敗で、ソースケは一勝一敗、俺は全勝という結果になった。
「自分は後衛職なの、炎弾どころか高速の雷撃すらも見切ってあっさり躱す異常な眼力の持ち主と、魔術が当たっても気にせずに突っ込んでくる頑丈さだけが取り柄のバカな二人とは相性が悪いんだよ。時間は少し掛かるけど最大火力は魔術師の自分が一番のはずだよ」
ハルトが魔術の有用性を説いているが、話が脱線していることに気付いたユウキが無理矢理流れを戻した。
「ほら、話がそれているよ。ボク達はここから移動しないといけないから、早く出発するよシンヤ」
「ん、そうだな」
ユウキに促されてシンヤ達が出発すると、他のメンバーも各班に分かれて行動し始めた。
「はい、ハルに~さん、これがモモの連絡先だよ」
ようやくモモの連絡先を手に入れたハルトは自分の連絡先も渡して、二人でログアウトした。




