第四十九話
黒いペガサスに乗って空から舞い降りたシンヤは周りにペガサスがいない状況を見てフーカ達はテイムに失敗していることに気付いていた。
「シンヤさん…そのペガサスはもしかしてテイムすることができたんですか」
「ああ、俺たちの新しい仲間のヒエンだ、よろしく頼む」
どうやらシンヤは先程まで殴り合っていたペガサスを見事テイムすることができたようだ。
「しかし、お前らは上手くいかなかったようだな。ユウキに頼んでみればいいんじゃないか」
「ユウキさんにですか?」
フーカがユウキの方に目を向けるとそこには沢山のペガサスに囲まれたユウキの姿があった。
「どうやったんですかユウキさん!?」
「えっとね、シンヤが迷惑をかけたペガサスを撫でていたらいつの間にかこんなに集まってきたんだよ」
とりあえず、困惑しているユウキのそばに全員移動した。
「どうする、全部テイムするか?」
「いや、この子だけでいいよ」
ユウキが選んだのは、純白の体毛で毛先が金色に輝いてる、シンヤが飛びかかったペガサスだった。
「そうだね、名前は……アルビオン、君の名前はアルビオンだよ」
アルビオンは嘶くとユウキにすり寄ってきた。
「他のペガサスにも気に入られているのにそいつだけでいいのか? ほらそいつとかどうだ」
シンヤは執拗にユウキの尻に頭を擦り付けているペガサスを指差してみた。
「その子は……なんかヤダ」
その言葉にショックを受けたのか、そのペガサスはトボトボと去っていった。
「なら、残りの子はワタクシ達でもテイム出来るでしょうか」
フーカが試しにユウキの周りにいたペガサスに近づいてみたが、距離を取られるだけでテイム出来そうになかった。
「どうやら、テイムできるのはユウキだけのようだな」
それから、しばらくフーカ達はテイムに挑戦してみたが結局成果は得られなかった。
「それでもよかったよ~~、シンに~さんとユウね~さんがテイムすることが出来て。二頭いれば全員が乗れる天馬車を引くには十分だろうから」
モモの言う通り、シンヤ達の目的はあくまで移動用の天馬車なので、一人一頭ペガサスを持っていなくても問題なかった。
それから、シンヤ達はツェルマットに戻り天馬車を作って貰いに店に行った。幾つか既製品の天馬車が並んでいたが、どうせならオーダーメイドで作って貰おうってことになり、どのような物にするか話し合った結果。
内装は簡易キッチンが付いた、全員が寝泊まりできるぐらいの広々とした作りで、モンスターの攻撃にもある程度耐えられるように装甲を頑丈な金属板で補強し、さらに小型のバリスタ、スコーピウスを装着して戦闘までこなせるようにした。特注の天馬車は既製品の天馬車よりも大きくなり、重量も増え、それを補うために飛行石と呼ばれるフワフワと浮かぶ魔石も大型の物を幾つか使うことになった……つまり。
「見積もりとしては、そうですね……ざっと1200万Gですかね」
「高っ!!」
全然お金が足りませんでした。
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「ユウキ!! そっちに行ったぞ」
「任せて」
アルビオンに跨り空を駆けるユウキは、ボウガン形態にしたケイローンの小盾から矢を次々と眼下のワイバーンに向かって射出した。
「ガァァァァ」
ユウキの攻撃は致命傷には程遠いが、次々と突き刺さってくる矢を嫌がり、ワイバーンは無理矢理身体を捻らせた。だが、その先にヒエンに跨ったシンヤが先回りしており、無理に飛行したことにより生まれた隙を攻撃した。
「いくぜ、新技《鬼吼砲》!!」
その瞬間、シンヤの左腕から凝縮された赤黒いオーラ纏った衝撃弾がワイバーンを襲った。《鬼吼砲》に撃ち抜かれたワイバーンは錐もみ回転しながら墜落していった。
《鬼吼砲》はシンヤが持っていた封魔の指輪を鬼人の篭手に組み込むことにより使うことが出来る様になった技である。原理としては封魔の指輪をモモが改造しより多くのルーンを刻めるように強化した後にハルトが魔術を込め、それをシンヤがオーラを込めながら解き放つだけの技である。威力は高く射程は20メートル程で指輪を複数買い集めることにより、五指すべてに装備し、五発まで発射することができるようになった。ちなみに《鬼吼砲》と名付けたのもシンヤである。
そして、地面に墜落したワイバーンを待ち構えていた他のメンバーが集中攻撃しワイバーンを仕留めていった。
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「なぁユウキ、ワイバーンってどれくらいになった?」
「素材込で大体20万くらいかな」
天馬車の費用を稼ぐために冒険者ギルドで割のいい仕事であった、ワイバーンを討伐した後、街に戻り喫茶店でパーティーの資産管理を任されたユウキにどれぐらい儲けたか聞いたシンヤはその答えを聞いた後、テーブルにぐた~と倒れこんだ。
やってらんね~~、つまり最低でもワイバーンを後60回も討伐しないといけないじゃないか…何かドカンと稼げる話はね~かな……ギャンブルしかないか。
そんな、破産まっしぐらな事を考えていたシンヤ達の所に一人の男がやってきた。
「すまない、少しいいだろうか」
「ん? どうかしたか」
金銭に悩んでいたシンヤはおざなりな返事をしたが、ジークはそのまま言葉を続けた。
「天翼都市ツェルマットの一員として戦争に参加してもらえないだろうか」
「俺たちに任せろ!!」
「何かってに決めてるんだよ!!」
バコン!!
勝手に即決したシンヤの頭をユウキがはたき倒した。




