第四話
俺はアッシュの形見を売った後、溜まったお金で装備を整え、日も暮れてきていたので、宿に泊まった。
そして夜が明け、宿から出た俺の姿は昨日までは違っていた。昨日までは制服に粗末な剣というある意味異世界転移の主人公にはありがちな格好だったが。今は、動きやすそうでそこそこの防御力のあるレザー系統の装備を身に纏い、そして、武器に刀を身に着けていた。そう、シンヤが欲しかった武器は刀だった。
シンヤは道場で格闘術とともに刀術も習っていたので。使いなれた武器が一番だと思ってこの武器にした。
「しかし、こんな辺鄙な村に刀まであるとはな~、誰かに作ってもらうか、和風の町までいかないと買えないと思っていたが。」
そう言いつつ俺は今日の予定として、この村の周辺のモンスターで刀の鍛錬をしつつ、最後にリザードマンの住処になっている、湖の探索することにして。村の出入り口に向かって歩いていた。
俺が森から出ようとしたとき、一人のプレイヤーが俺に話しかけてきた。
「あの、ボクも一緒に連れて行ってください」
そう言ったのは緊張しているのか妙にオドオドしている、金髪の美少女だった。
「(あっ、可愛い子だな)別にかまわないがどうしてだ」
俺は下心が顔に出ないように注意しながら少女の全身を眺めた。
少女は、透き通るような碧い瞳と肩先まであるセミロングのふわりとした金髪をしていて、まさしく金髪碧眼の美少女だった。服装は動きやすそうな服に皮の胸当て、下はスカートにオーバーニ―ソックスであった。足の絶対領域から覗く白い肌に目が釘付けにならないように俺は再度気を引き締めた。
「あの・・・ボクもこの世界でいろいろ冒険してみたかったんだけど、昨日は一人だと心細くって外に出られなかったんだ、だから誰でもいいからパーティーを組んでもらいたかったんだよ」
「なるほど、確かにこの広大な世界で村の中だけに引きこもっていてもつまらないよな。まぁ俺でよければパーティーを組むか。(む、ボクっ子か・・・OK)」
身近にボクっ子が居なくてわからなかったが俺にとってボクっ子はストライクゾーンにはいっているようだ。ボクっ子だからボーイッシュな感じがするかと思ったが、むしろオドオドした雰囲気から、むしろ守ってあげたくなる感じがこの子からした。
「ほんとにいいの! ボクからお願いしてなんだけど、ボク少し怖がりでしかも弱いから迷惑をかけてしまうかもしれないよ」
「大丈夫、これはゲームなんだから戦っていればアビリティとかでそのうち強くなれるし、何よりも楽しまないとな(ピンチになった時に助けたら、好感度が上がるかな)」
俺は下心しかない、心中を隠しつつどう、エスコートしようか考えていた。
「ありがと~、本当に助かるよ。初日は大変で、選んだ町から出発するかと思ったら、いきなり森の中だし、NPCには置いて行かれる、村を目指して全力で逃げていたら。ものすごい量のモンスターに追いかけられるし。本当に怖かったんだよ」
「ふ~ん、よく大量のモンスターに襲われて無事だったな(ん? 大量のモンスター)」
俺は大量のモンスターのくだりが気になり聞いてみると。
「うん、森の開けたところで囲まれて大きな木の根元まで追い詰められたけど、その木に木のうろみたいなのがあって、偶々そこに落ちてその先が洞窟につながっていたから逃げ出すことに成功したんだ」
「そうか、運が良かったな(初日のあれはお前のせいじゃないよな)」
初日のことは置いといて、俺はコイツとパーティーを組むことにした。
「まぁいいか、俺はシンヤだよろしく」
「うん、ボクの名前はユウキ。よろしくねシンヤ君」
俺とユウキはパーティ―を組み森の中を進んでいた。その途中でユウキの装備で気になったことを聞いてみた。
「そういえばユウキ、お前は怖くて外に冒険に行けなかったんだよな。それにしては、いい装備を身に着けていないか」
ユウキの装備はブロードソードにバックラ―に上記の防具、ただ、防具に使われている素材はここら辺でとれるものよりも少しいいものな気がする。
「うん、昨日は外にでる勇気が湧かなくて、村の中を探索していたんだ。そしたら、村人からいろんな依頼がきて、村の中でできそうなものを色々やって過ごしていたんだよ」
「ああそうか、あの村はチュートリアルの要素があるから、戦闘が苦手な人ようにクエストがあって当然か」
なければ、それこそ戦闘が苦手な人は詰んでしまう。
「この服も村に住むお婆ちゃんから受けた依頼でもらったんだ。なんでも亡くなった旦那さんが狩人だったみたいで、この狩人の服は動きやすい上にそこそこの防御力と隠密性も上がる効果もあるんだって」
「ふ~ん・・・っえ、今なんていった。」
俺は先程のユウキの台詞に聞き捨てならないことがありもう一度確認してみた。
「だから、これは村にいたお婆ちゃんの旦那さんが使っていた形見の物みたいだよ。すこし、お手伝いしただけで貰うには本当は気が引けていたんだけど。お婆ちゃんが倉庫で眠らせておくよりは誰かに使ってもらうほうがいいって言われて。本当にいいお婆ちゃんだったよ」
「・・・安心しろユウキ、たぶん形見の品は依頼を受けたプレイヤーの数だけ増えるだろうから」
「む~、わかっているけど、そんな風情のないこと言わなくてもいいじゃないか」
ちなみに、俺が気になったことは形見云々ではなく、お婆ちゃんの旦那が使っていたくだりである。ユウキの恰好をもう一度見てみると、動きやすそうな服に皮の胸当て、下はスカートにオーバーニ―ソックスである・・・クエスト報酬だからそうなったのはわかるのだが、旦那さんは女装癖でもあったんだろうか。そう思い、俺の頭の中にはスカートなびかせて森を駆けるお爺さんの姿が思い浮かんでいた。
二人が森の中を歩いていると当然モンスターとエンカウントする。最初はユウキは言っていたようにモンスターが現れるとビビって混乱し、シンヤがモンスターを倒すまでの間に何もできなかったが、しばらくしてモンスターの姿にも慣れたのか戦闘参加するようになった。今もゴブリンと戦っていた。
「ちょぉぉと、シンニャ君、助けてよ!!」
俺の名前はシンニャではありません。
まぁ、ユウキが慌てているのも無理はない。今ユウキの上にゴブリンが馬乗りになっている状態であった。これがエロゲ~だったら、18歳未満の方はご遠慮下さい状態だったのに、ユウキの上のゴブリンはユウキを倒そうとナイフを振り回している状態だ。ユウキは手に持ったバックラーで防ごうとしているが、切り傷が少しずつ増えてきていた。
「ああ、わかったわかった」
そう言い、俺は刀を一閃し、ゴブリンを真っ二つにし、ユウキを助けてあげた。
「はぁはぁ、も~~シンヤ君助けてくれたのは有難いけど。見てないでもう少し早く助けてほしかったよ」
「ハハ、意外と頑張っているようだったから、手助けするか迷っていたんだよ・・・ほら、傷口を見してみろ、薬を塗ってやるから」
俺はヒーリングポットから薬を指にとり、ユウキの傷口に塗ってあげた・・・別に合法的にボディタッチするために傷だらけになるまで放っておいたわけじゃないからね。
「頑張っていたって、絶対にボクが襲われていたのを面白がって見てたでしょ」
ユウキは頬を膨らませてすぐに助けなかったことを抗議した。
「いやいや、そんなことないって」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
ああ、本当にデータとは思えないほどのぷにぷに肌でした。
しばらくして、ユウキの傷も治り先へ進もうとしたがユウキは少し悩んでいるように聞いていた。
「ねぇ~シンヤ君、ボク・・・やっぱり戦うのに向いていないのかな」
確かに、ゴブリン程度なら少し運動神経がいい人なら苦も無く倒せる相手であそこまで苦戦するのは向いていないと言えるがそれもやり方次第だろう。
「う~~ん、そうだなユウキは何か武術は習っているか?」
「え~と、特に何も習っていないけど」
「それなら、簡単な戦い方を教えてやるか」
構えとか動き方を知れば少しは変わるだろう。
「えっ、戦い方っていうと?」
俺の武術は日本の頭のおかしな爺さんが運営している道場で習ったから西洋の武術はそこまで詳しくないが、そこまで深く教えるわけではないから趣味で調べた程度の知識で大丈夫だろう。
「まずは盾の使い方からだな、軽くて小さいバックラーは相手の攻撃を受けるのではなく自分から相手の武器に当てていく使い方をしたほうがいい」
「えっと、こんな感じ?」
そう言って、ユウキはバックラーを素振りし始めた。
「そうだな、あと構え方は女の構えがいいかな」
「女の構え?」
女の構えがわからないようでユウキは小首をかしげていた。
「女の構えは相手に左肩を見せるように横向きに立って、バックラーと剣は胸の前で肘を曲げて祈るように待つ構えだ。たしか、その姿がおびえている女性に見えるから女の構えって言われているらしい」
「へぇ~~」
「後は、攻撃が来たら裏拳で叩き込むようにバックラーで防御して、同時に剣で水平に切りつけるのが俺の知っている剣とバックラーの運用法だ」
俺の話を聞いたユウキは、さっそく素振りをし始めた。何度もぶんぶんと素振りをして納得がいったのか。ユウキは俺に練習相手になってくれないかっと言ってきた。
「いや、俺なんかよりもちょうどいい相手がいるぞ」
俺の指差す方向にショートソードを装備したゴブリンがいた。
「・・・もしかして、またボク一人で戦うの」
ユウキの疑問に対して、俺は最高の笑顔と親指を立ててユウキに合図した。
俺の返事に覚悟を決めたのかユウキは深呼吸して気合を入れた後に前にでた。
前にでたユウキを敵とみとめゴブリンはユウキに突撃していった。ユウキは先程のパニック振りが嘘の様に落ち着いて相手の待ち構えていた。そして、ゴブリンの振りかぶった剣の一撃をバックラーで叩き落としてがら空きになった胴体にカウンターの一撃を叩き込んだ。
「やった! やったよシンヤ君!」
こっちに向かって、うまく決まったことに喜びを表しているユウキだったが、ユウキの後ろでゴブリンはまだ生きていた。そして、隙だらけのユウキを後ろから攻撃しようとしていた。
「全く、詰めが甘いぞ、ユウキ」
そう言い、俺はユウキに不意打ちをくらわそうといていたゴブリンを叩き切った。
「あっごめん、けど、シンヤ君のおかげでボクも戦える様になれたよ。だからありがとう」
先程、上手く戦えたことが嬉しかったのかユウキはかなり興奮していた。
「そうだな、もう大丈夫だユウキ、お前はもう一人でも戦える。だから自信をもて」
俺が語り掛けると、ユウキはその台詞にパーティーを解散させられるかもしれないと思い。不安そうな表情になった。
「えっ、シンヤ君それってどういう意味。」
「ああ、だから片方は任せるという意味だ。」
ユウキがその台詞を疑問に思い前を見てみると、森が開け、綺麗な湖が顔を出していた。ついでにそこを住処にしているリザードマンも顔を出していた。