第四十四話
フーカ達が仲間になった日から、数日経過した。俺はこの日、ユウキと二人で街を歩いていた。
「なぁユウキ……金貸してくれないか」
「嫌だよ」
俺のお願いはユウキに即座に断られてしまった。
今の俺には金がない。新装備代にこの間壊れた防具代、新装備ができるまでの繋ぎとして買った武器は安物を買ったせいか次々と壊していき。気が付いたら新しい武器を買う金すら無くなってしまった。
「シンヤは無駄遣いしすぎなんだよ、露店で面白そうなアイテムまでよく考えずに買って結局は使わないし、それに新しい武器を買うお金まで使うなんてバカなの。買ったとしてもココのモンスターは硬いのが多いからすぐに刀は折れてしまうじゃないか」
確かにフェラーラ周囲はロックリザードなどロックとかメタルとか明らかに名前で硬いってわかるモンスターが多いんだよな。斬撃が効き難くて俺もフーカも戦い辛い場所だここは。
「それにシンヤは格闘もいけるんだから、ここでは素手でやった方がいいんじゃないかな」
まぁそれでもいいんだが、やっぱり刀が無いのは寂しく感じてしまう……ああ、早く新装備ができないかな。
「あっ!! ちょっと待っててシンヤ、少しこの店で買い物してくるから」
そう言い、ユウキは近くの店に入っていった。俺もついて行こうかと思ったが。どうやら服や帽子など戦闘には関係ない衣装を売っている店の様なのでついて行くのは止めた。服の感想とか聞かれても「いいんじゃないか」しか言えないからな。
しょうがなく、一人で店の前でユウキが出てくるのを待っていると複数の男たちが現れてこちらに絡んできてくれた……よっしゃーー暇つぶしができたぞ。
「おう兄ちゃん、こんな真昼間からデートとは良い御身分だな」
威勢がいいことを言っているのはエスターだ。後ろにコスタとディアスとフレッド、そして最後尾にネロがいる……一体どういう集まりなんだ?
「おう羨ましいか、それでどこでやる? ここかそれとも裏路地でも行くか?」
「「「「「………」」」」」
俺の返答が意外だったのか、男たちは一旦集まって話し始めた。
(なぁアカオニさんがえらく乗り気なんだが)
(ああ、数で囲めばビビるかと思ったが、むしろ戦意が沸き上がってないか)
(しかし、五対一でアカオニは武器すらないんですよ。この状況で勝てるとは思わないでしょう)
(いえ、アカオニはオーガの群れに単身飛び込むくらいだから一対多数は望むところなのではないでしょうか)
(とにかくこっちの方が数が多くて有利なんだ…やるぞ)
どうやら、覚悟を決めたらしい男たちが俺を取り囲み始めた……これは戦闘開始の合図とみていいだろうか。
次の瞬間、俺は手頃な位置にいたディアスの腹を貫手で貫いた。縮地による高速移動で反応することができなかったディアスはオーラによる防御すら出来ずに俺の渾身の一撃でその命を散らした。
こういう、一対多数の状況では受けに回ったらヤバいからな、徹底的に自分のペースに持ち込まないと。
「「「「はぁ!?」」」」
まさかの先制攻撃に開いた口が塞がらない男たちは隙だらけだったので、俺はさらなる追撃をかけた。
「へ? はぎゃぁ」
俺の拳を顔面に受けて、コスタの頭が吹き飛んだ。俺の左腕には鬼人の篭手が付けられており、その能力により爆発的に腕力が増大し、その拳の威力はオーガの拳を破裂させるほどだ。その一撃を無防備に顔面に受けたコスタの頭は……ふぅこのゲームがR18指定じゃなくて良かった~~危うく飯が不味くなる光景を見せられる所だった。
無くなった頭部から光の粒子を散らしつつ消えていくコスタの姿をみてようやく再起動した男たちは急いで戦闘態勢を整えようとしていた。
「やべぇ急いで構えろ!!」
そう叫ぶ、エスタの間合いに踏み込んで俺は拳を繰り出した。しかし、今度は流石に一撃で倒す事ができずに何度も打ち合うっていると後ろでフレッドが魔術を放とうとしていた。
「なんだよコイツは!! なんで素手でここまで戦えるんだよ!!」
日頃から鍛えてますから。
「エスター押さえてください…《フレアストライク》」
「任せろ…ふべし」
任せろと言いつつ俺に殴られ怯んでいるエスター、その背後からフレッドが放った人を丸ごと飲み込めそうな火球が迫っていた。だから俺は怯んでいるエスターの首を掴んで火球の盾にした。
「ぐへ、ちょっ待て」
しかし、待つわけはなく。そのままエスターの体を火球の盾にしてフレッドの所まで駆け抜けていった。エスターの体に当たり爆発した火球はエスターの体を焼き尽くしつつ、更にはエスターの影にいる俺の体までジリジリと焼いていったが…この程度なら耐えられる。
「なっエスターを盾にして」
エスターを盾に爆炎をかきわけて突き進んできた俺はフレッドを間合いに収めることに成功した。燃え尽きたエスターの死体投げ捨て、俺は次なる獲物であるフレッドに襲いかかった。
後日、フレッドはとある提示版で蛇に睨まれた蛙の気分が分かった。圧倒的捕食者と言うのはああいう存在のことを言うんだろう、そう語ってくれた。
「ふぅ……さてと、残りはネロ、お前一人だな。ちなみにこの襲撃はお前の仕込み?」
「いえ……どちらかと言うとエスターさんの仕込みです」
一歩一歩着実に距離を詰めていく俺に、ネロは完全に腰が引けているようだった。
「まぁそんなことはどうでもいいか……さぁ覚悟を決めろ!!」
「そうだね、覚悟を決めようかシンヤ」
最後の一人であるネロに止めを刺そうとしている俺の背後から、ユウキの声がした。
買い物を終えたらしいユウキの左手には袋が、右手には剣が、そして額に青筋を立てるほど怒りの形相を浮かべた顔があった。
「なにしてるんだよ!! お金が無いからって周囲の人間に襲いかかるって強盗と変わらないじゃないか!!」
「いや、からんできたのはアッチなんだが」
「言い訳しない!! ほら謝って」
そう言い、ユウキは剣の腹で俺の頭を叩いて土下座をさせようとしていた。それを眺めていたネロはユウキの剣幕に驚いたのか急いでその場から逃げ出してしまった。
「いえ、その……ごめんなさいーー」
「あれ、ネロ君? もしかして知り合いだからって絡んだんじゃないよねシンヤ」
「だから違うって」
俺はなんでもう誰もいない所に土下座をさせられているんだ。
そう思いつつもユウキの怒りが収まるまで俺は土下座を続けていた。




