第三十八話
ヒュ!!
茂みの奥から放たれた矢が幻獣ハギスの頭部に突き刺さった。ハギスは体中が毛で覆われているカモノハシを丸くしたような獣だ。ちなみにスコットランドではハギスハントというハギスの捜索イベントがあるそうです。
「わ~、狙うの上手になったねユウね~さん」
「モモちゃんが台座を作ってくれたおかげだよ。これのおかげでかなり狙いやすくなったから」
ボクのケイローンの小盾は今、台座に備え付けられており、盾ではなくボウガンに近い形になっている。この細工により、両手で構えしっかりと狙いをつけられるようになった。
これを使い、ボクはいまフェラーラ近くの森で幻獣たちを狙った狩りをしている。最初は要領がつかめずに、獲物によく逃げられてしまったが、モモちゃんと協力することで安定した狩りを行えるよになった。
狩りの方法は、まずウサギのアニマルドロップでモモちゃんが音を頼りに獲物を探し、位置が分かったら、風下からばれない様に慎重に近づき、矢による一撃で倒していた。
「それで、モモちゃんの方はどう? いいものは見つかった?」
ボクが幻獣にコッソリと近づいている間にモモちゃんは付近に薬草などが無いか探しているようだった。
「色々見つかったよ~~、ハイ、ユウね~さん、あ~~ん」
そう言って、モモちゃんはキイチゴの実をボクに差し出してきた。
「何? キイチゴ? あ~ん」
モモちゃんがボクの口の中にキイチゴの実を放り込んできた。それを噛むと甘酸っぱい味が口の中に広がっていった。
「うん、おいしーよモモちゃん」
「そっか~~、よし毒ではないっと」
「モモちゃん!!」
この子は平然と人に毒見をさせたの!?
「アハハ、大丈夫だよ。イチゴに毒はないから」
「……モモちゃん、毒苺って知ってる?」
「うん、知ってるよ。蛇苺のことだよね、毒苺って言われてるけどあれにも毒はないはずだよね……不味いらしいけど」
……この子は、気付いていてボクにキイチゴを食べさせてな、毒があるかではなく、美味しいキイチゴであるかどうかは食べてみないとわからなかったから。
「も~~モモちゃんは……まぁいいか、それより次の獲物が居そうな方角はどっち?」
モモちゃんは「ちょっと待ってね~~」と言い、ウサ耳をピコピコさせ始めた。
「う~~ん、こっちかな」
モモちゃんがある方角に指差した。
「こっちだね、それじゃあ行こうか」
こうして、モモちゃんが指差した方角にボクは進んでいった。
しばらく進んでいると、何やら争っているような声がしてきた。
「あれ? 誰かいるのかな?」
あんまり騒がないで欲しいな、声に驚いて幻獣たちが逃げてしまうから……あれ、ボクに聞こえているってことはウサギのアニマルドロップっで
聴覚が強化されているモモちゃんが聞こえていないわけがないよね。そう思い、モモちゃんの方をみると、モモちゃんはすごくいい笑顔でこちらを見た。
「えへ☆ 面白そうなことが起きてるね」
やっぱりわざとか?! じゃあこっちの方角には幻獣はいなくて、モモちゃんが興味をひかれたイベントがあるってことだね。
「はぁ~~それで何が起きてるの?」
今のモモちゃんならボクより多くの声が聞こえていて状況が良く分かっているだろうし。
「あのね、どうやら女の人達を男の人達が追い回しているようなの」
「…なんで?」
「男達が女の人達に自分たちのパーティーに入れって強引に誘っているみたいだね。それを女の人達が断ったら、女の癖に生意気だーーって男達がわめいているって状況だね」
シンヤがこの場に居たら速攻飛び出して行って、男達を斬り捨てそうな状況だね。それはもう、圧倒的な実力で男達を叩き伏せその屍の上で笑う悪鬼如きシンヤ姿が思い浮かんだ。
「それで、どうするのユウね~さん?」
ニヤニヤしつつ、モモちゃんはカバンから銃を取り出していた……この子はボクがどういう答えを出すかわかっていて聞いてきているな。
「もちろん、女の人達が困っているなら助けるよ」
「モモたちはまだばれていないから、このまま戻れば厄介ごとに巻き込まれないで済むよ」
確かに、そうかもしれない、ただボクの脳裏にいつも楽しそうにしているシンヤの姿が思い浮かび、その答えを選ぶ気にはならなかった。
「それでも行くよ、だってシンヤがよく言っていたからね。この世界はゲームなんだって」
そう、シンヤが教えてくれた、当たり前のこと…ゲームは楽しむためにやっていることを。
「えっ? それってどういう事?」
「シンヤはどんな強敵でも本当に楽しそうに戦うんだよ。それはきっと強敵だから逃げるよりもその強敵を倒した方が楽しいから、だからシンヤ戦うんだよ、ゲームだから楽しめる答えを選ぶ方がいいってことだね」
(現在シンヤは、得体のしれないナニかから逃亡中です)
「ボクの出す答えは、関係ないから女の人が困っているのを見捨てるではなくて助ける。その方がボクはこの世界を楽しめると思うんだ」
そう、見捨てたって気持ちより助けたって気持ちの方が断然いい、だから助けに行こう。そう決意し、ボクは争っている方角に進んだ。




