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第三十七話




 クトーニアンを倒した後、俺たちは早速こいつの解体にとりかかった。


「おーいサブロー、何か良いのはとれたか?」


「ええ、コイツの殻からメテオタイトという物がとれました」


「へー、コイツの触手からはクトーニアンの皮と体液が剥ぎ取れたぞ」


 コイツはいい素材になるかもしれない、帰ったらギンガに渡してあげよう。そう思い、本体も解体するべく引っ張ると、にゅるんっとっ殻から引っ張り出すことができた。


「……なぁシンヤ、コイツの事はどう思う」


 剥ぎ取りに積極的に参加していなかったハルトがそんなことを聞いてきた。


「どうって、そうだな……隕石を被ったイカ?」


 引っ張りだした、本体は大量の触手を生やしたイカに似ていた。


「恐らくだけど、コイツのモデルになったのはクトゥルフ神話のモンスターだと思うんだ」


「クトゥルフっていえば、えっと……たしかあれだよな……日本人に見つかった結果萌え化した作品」


「間違ってはないけど違う!! 自分が言いたいのはこのクトーニアンはクトゥルフ神話で登場したモンスターってことでコイツの能力について言いたいことがあるんだよ」


「ふむ、それで」


「このクトーニアンっと奴はイカにも似た地中を掘る生物って書かれているんだけど、もう一つ重要な能力があるんだ」


「能力ってなんだ? もしかしてあの時体液を浴びたのは不味かったか」


「いや、そっちについては分からないけど、こいつはテレパシーの能力があるんだ、それで交信したり、人間を操ったりすることができるらしいんだけど、このテレパシー能力はさっき戦っていた時使ってこなかったよね」


 たしかに、そんな能力があるなら完全に操られるのはあれだけど、混乱効果ぐらいはもっていてもおかしくは無いな。


「単に製作者がその能力の事を忘れていただけじゃないのか?」


「そうだね、単に忘れただけか……それとも別の事に使っていたか」


「別のことって?」


 そう思った瞬間、俺たちに背筋に直接氷柱を差し込まれたかのような尋常じゃないほどの悪寒が走った。


「何……が……!?」


 口から何が起きたのか分からないような言葉が出たが、本能ではわかっていた。何かが頭上にある、吹き抜けからこちらをのぞき込んでいる!!


 そして、俺たちの誰もが無意識のうちに頭上を見上げていた。


 そして、岩盤をぶち抜いて生まれた穴からは、空を仰ぐことができた。見上げた空はいつの間にか時間が過ぎていたのだろう、既に夕暮れから夜に変わろうとする時間だった。普段だったら移り変わる空の色が綺麗だと思える光景だったはずだが、そこから這い出そうとしているモノを目撃瞬間俺たちは走り出していた。


「逃げろーーー!!!」


 言われるまでもなく、全員が逃げ出しただろう。迫りくる感覚から絶対に今は敵わないと思えたからだ。これほどの恐怖を感じさせるなんて、臆病な人間だったらちびっていそうなくらいの怖いぞ。


 広場の入り口に向かって逃げ出した俺たちだったが、這い出そうとしたナニかはこっちを逃がす気は無いようで、勢いよく俺に向かって触手を伸ばしてきた。


「っち《縮地》」


 触手は凄まじいスピードで俺に迫って来て、とっさに縮地で加速しながら身をひねり攻撃を躱そうとしたが、躱しきれず触手の一撃は掠めた俺の右腕を跡形もなく消し飛ばした。


「イってーーー、ヤバすぎだろアイツ」


 何とか、洞窟の中に滑り込むことができた俺の後から他の奴らは攻撃されなかったのか洞窟に逃げ込むことに成功していた。


「愚痴ってないで、もっと奥まで逃げるよ。追ってこられても面倒だし」


 こうして、探索はここまでにして街まで帰ることにした。


「おーいハルト、この右腕回復魔術で治せないか?」


 ハルトに肩から先が無くなった右腕を見せてみた。


「いや、流石にここまでの損傷だと自分の魔術ではまだ無理だね、街に戻ったら治療院で《リジェネレイション》を掛けてもらうしかないね」


「マジかーー、あれって結構高いんだよなーー」


 ギンガに作って貰っている装備代もあるから、お金に余裕がないんだけどな、宿に泊まると全快するようにならないかな~。


「ん? なぁシンヤ、ハルト」


「どうしたソースケ」


「アイツ、追ってきたみたいだけど、どうする戦うか」


「「え!?」」


 ソースケの台詞に後ろを振り向くと、得体も知れないナニかが複数背後から迫って来ていた。


「ギャーー逃げるに決まっているだろ」


 いつの間にか背後まで迫り、しかも数まで増やし追いかけてきたナニかから逃げ出すべく俺たちは全力で走り出し、様々な方向に枝分かれしている道をできる限りジグザグに駆け抜けていった。しかし、背後の奴はこちらの位置を正確に把握しているようで、ピッタリと背後から離れなかった。


「あんなに、ジグザグに駆け抜けても、どうして追ってかられるのよ、ちょっとアッシュ、アンタ囮になって時間を稼いでよ」


「嫌に決まっているだろ!! おい、シンヤ、アイツにとって目印になるようなものを付けてないか?」


 目印になるも、俺はアイツからは右腕を吹き飛ばされただけで何も付けてないぞ。俺が自分の体に何かついていないか確認していると、ハルトが何か思いついたのか、アッシュとカーミラに話しかけた。


「・・・もしかして、アッシュとカーミラさんちょっと武器をこれから進む道と反対方向に投げて貰ってもいいですか」


「はぁ、お前この状況で武器を手放せって言うのか!?」


「いいからやりなさい、コイツに何か心当たりがあるんでしょ」


 そして、ハルトの言う通り反対方向に武器を投げると、アイツらがその分岐に差し掛かった時、部隊を二手に分けて、武器だけの方向にもアイツらは進んでいった。


「やっぱり、返り血だ。あの時浴びた返り血を目印に追ってきているんだコイツらは」


 それが分かった瞬間、武器にクトーニアンの返り血が付いた奴らは武器をすて、ナタリアに至っては防具まで脱ぎ捨てて、その場に放置した。ただ、俺に関しては少し問題があった。


「なぁハルト・・・俺は最初の一撃の時全身に返り血を浴びてしまったんだが」


 ナタリアも体にかかっていたがナタリアは全身鎧を付けており、返り血を浴びたのは鎧だけだったので、鎧を外せば問題ないが、俺は体に直接浴びてしまったんだが。


「……いや、自分の仮説が間違っていたかもしれない、ちょっと実験したいからシンヤだけ別方向に走ってみてくれないか」


「ふざけんな! 俺を囮にするつもりだろうが、絶対に離れないからな」


 俺たちは、親友だろうが……絶対に逃がさないからな。


「ちょっと、くっつくな、走りづらいだろ」


「なぁ二人とも…他の奴らはもう別方向に走っていったぞ」


 ソースケの台詞で後ろを振り向いてみると、そこには得体のしれないナニかしかいなかった……アイツら俺たちを囮にしやがったな。


「ちくしょーーー、死んでたまるかーーー」


 俺たちの命を懸けた鬼ごっこはそれからしばらく続いた。



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