第二十七話
ドン!! 地面に物が叩き付けられた音が森に響いた。
「ガハッ!! なぜだ!!」
自分が投げ飛ばされたことが、信じられないのかアサドは地面から起き上がり、再び俺に向かって突進してきた。
俺はアサドの側面を触るように気を付けながら、先程の様に投げ飛ばした。 ドン!! っと激しい音を立てながら地面に叩き付けられたアサドは空気が詰まったような声を喉から発している。
奴の肉体は鉄の様に硬くなっているままだが、硬いだけの体では地面に叩き付けられる衝撃までは防げていない様で、投げ飛ばすたびに着実にダメージが入っているようだ。
「クソ!! どうなっていやがる!! テメー何しやがった!!」
アサドが俺が何かをしてユニークスキルを防いでいると思っているが俺は特別なことは何もしていない。ただ、触れる場所に気を付けているだけだ。奴のユニークスキル『剣闘獣』は剣を獣に変えるスキルであって。触れた物を斬るスキルではない。だからこそ、奴の体にも剣と同様に刃面があり、当然剣は刃でしか斬ることはできない。つまり、触るところを気を付ければ、奴の体に触れても斬られることはない。
奴の見た目は、獣の様になっていて、どこが刃か解かりづらかったが、先程のウィンドで大量の落ち葉や枯れ枝を叩き付けることにより、斬れるところと斬れないところは判別することができ、だからこそ、奴を投げ飛ばすことができた。
「なら!! こうすれば投げることはできねぇーだろ!!」
アサドは見た目通り、獣の様に四つ這いになって、こちらに向かってきた。確かに投げ技は相手が立っていることが前提になっている技がほとんどだが、その体勢はこっちも望むところだった。なぜなら、四つ這いの体勢だと頭が前に出てくる。つまりは殴りやすい。
「おらぁぁぁ!!」
俺は鬼の腕を生み出し、全力でアサドの顔面を殴りつけた。鬼の腕の力は鉄板も拳の形に凹ませることができるほどあり。アサドは顔面を歪ませて吹っ飛んでいった。
「・・・勝った」
ダメージがでかすぎるのか、ピクピクと痙攣しながら地面に転がっているアサドに近づき、止めを刺そうとしたが。
俺が近づくとアサドは人間の姿に戻り、命乞いをしてきた。
「待ってくれ! 捕らえた蝶たちは解放するから、命だけは助けてくれ」
そう言い、慌てて蝶たちを解放するアサドだったが、俺は見逃す気はなかった・・・だって倒さないとユニークアイテムが手に入らないから。
「悪いが見逃す気はないんでな・・・いだ!!」
俺は何かから奇襲を受けた。襲いかかったものを振り払うとそれは、『剣闘獣』で生み出された小さな獣だった。その獣も俺の体臭ですぐに気を失って元のナイフに戻っていったが、それに気を取られた隙にアサドは俺から逃げ出していた。
「しまっ・・・待て!!」
先程とは追う側と追われる側が入れ替わった鬼ごっこが開始された。
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(畜生、どうしてこうなった)
俺はカリムと共に夜光蝶を捕まえる仕事をしていた。ただ、綺麗なだけの虫を捕まえるだけの簡単な仕事だったはずだったが、仕事中に冒険者の小僧と出会い、口封じに殺すつもりだったが、そいつの予想外の強さで今は必死に逃げている最中だ。後ろから奴のくせー匂いが漂ってくるのでまだ追いかけてきているのだろう。兎に角今は逃げて対策を考えないと。
「も~~逃げちゃダメだよ。悪いことをして負けたなら覚悟を決めないと~」
俺の進行方向にやけにフリフリの衣装をきた小さな女の子が現れた。
「ガキが、俺の邪魔をするんじゃねーー」
(目障りだ!! どうしてガキが俺の邪魔をするだ!!)
流石に手負いの体であっても、目の前の小さなガキに負けるほど弱くはない。だからこそ俺は剣を抜き目の前の小さなガキに斬りかかった。その時、ガキが何やら金属製の筒がついている変なものを俺に向けてきたが気にする必要はない。
「死ね!!」
そう叫んだ瞬間、轟音と共に俺の意識は遠のいていった。
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「ん? これは・・・」
俺はアサドを追っている最中に森に響いてきた音に首を傾げた。
「銃声・・・?」
なんでこの世界で銃声がするんだ? そんな疑問と共に銃声のしたほうに向かうとそこにはモモがいた。
「あっ!! も~~シンに~さん、ちゃんと止めを刺さないと~」
モモの前には銃で頭を撃ち抜かれて死んでいるアサドの姿があった。そして、隣にはイヌがいた・・・もしかしてモモが『剣闘獣』を持っているのか。
「どうかしたの、シンに~さん(ニコニコ)」
まぁいいか、止めはモモがさしたようだし。どうせ手に入れても使わないだろうから。
「はぁはぁ、ねぇ二人ともさっき銃声がしなかった」
森の奥から銃声を聞いたユウキも走ってやってきて辺りをキョロキョロ見回していた・・・どうやらユウキも勝てたようだな。




