第十五話
ボクは地下牢の部屋でカルバンと睨み合っていた・・・カルバンは片刃の剣を二刀流で構えていた。ボクみたいに軽い装備から見て手数で攻めてくると思うけど・・・情報でユニークスキル持ちであることがわかっているから、油断しないようにしよう。
「おい! 表にいる連中をやったのは嬢ちゃんか?」
どうやら、シンヤは表の見張りの倒したようだ。なら、耐えていればここまで来てくれるはず。
「っち、だんまりか・・・まぁいい、何人いようが皆殺しにしてやるからな」
ボクが盾を構えてひたすら守りを固めているとカルバンは焦れたように襲いかかってきた。
カルバンの攻めは嵐のように両手に持った剣を叩き付けてくる攻めだったが、攻撃は大振りでシンヤとの訓練では防御を重点的に練習してきたので何とか捌き切れるものだった。
シンヤには感謝しないと、防御を重点的に教えてくれたのは、これはゲームなので攻撃手段はスキルなどで豊富にあるので防御の方が重要になるっとシンヤは思ったらしいけど、そのおかげで何とか持ちこたえることができている。
「おい、防いでるだけじゃ勝てねぇ~ぞ」
カルバンが煽ってくるが無視する。このまま耐え続けたらシンヤがきて二対一に持ち込むことができるから、そうなれば僕たちの勝ちだ。
「よく耐えるじゃねぇか・・・しかたねぇ使うか」
カルバンがそう呟いた時、ボクの脇腹にナイフが刺さっていた。
「・・・え? なんで」
ボクの頭の中は疑問で一杯だった・・・わからない・・・ボクはカルバンから目を離していないし、アイツは何もしていないのにナイフをボクに刺すことができたんだ!?
たぶん、これがトリンブルさんが言っていたユニークスキルだろう。だけど攻撃の予兆が全くないなんて、どうすればいいんだ。
ボクがカルバンのユニークスキルについて考えている間にも、あいつは構わずどんどん攻めてきて、ボクは必死になって防ぐが・・・見えない攻撃を前にどんどん怪我が増えていった。そして、アイツがユニークスキルを使い始めてから五分も立たないうちにボクは身体のあっちこっちにナイフが刺さり、捌き切れなかった剣の攻撃で全身ボロボロになってしまった。
(ああ・・・ここまでかな)
そして、カルバンがボクに止めを刺そうと大きく剣を振りかぶったその時、一つの人影が僕たちの間に割って入った。
「わり~遅れたかユウキ」
そう、ようやくシンヤがボクのもとに来てくれた。
・
・(シンヤside)
・
俺はボロボロになるまで頑張ってくれたユウキをカルバンから守るように立ち、奴を見据えた。
「よう、お前がココのボスか? さっきまで戦っていたザコ共と見分けがつかないんだが」
「てめぇか! 俺の手下どもをやったのは」
カルバンが殺意を顕わにし俺に襲いかかってきたが、身のこなしからして下手くそだな~としか思えなかった。スピードこそそこいらの盗賊より断然早かったが、攻撃は大振りで余裕で対処できるものだった。
俺は奴の剣を流れるようにいなし、大振りのせいでがら空きになった所を斬りつけた。
「ふむ・・・なぁユウキ、あっさり斬れたんだがこの程度に苦戦したのか?」
「気を付けて! アイツのユニークスキルは全く予兆が無いから」
ユウキの言葉が合図だったかのように、俺の足に気付いたら鎧の隙間を縫うようにナイフが刺さっていた。
これがアイツのユニークスキルか・・・確かに全く分からなかったな。もしも、透明化なら投げる動作が必要なためにある程度軌道が読めていたんだが、アイツは両手に剣を持ったままそれらしい動作は一切せずに俺にナイフを突き刺した。
なら、アイツのユニークスキルは空間転移系の能力なのか? だとしたら条件はなんだ、ユウキの怪我を見た感じナイフだけ飛ばしてきたようだがトリンブルのおっさんの話では護衛を倒したのは槍だったそうだ。ならばなぜ、今は槍を飛ばさずにナイフばかり飛ばしてくるんだ? ユニークスキルの発動条件に何かあてはまるのだろうか。
疑問は消えないが、今は戦うしかない。
俺はカルバンと剣を交えるが、こっちが攻めようとしたタイミングでいつの間にかナイフが刺さっており、ビリリとした電流のような痛みで行動が阻害されてしまう。そのせいでうまく攻めることができずにいた。
(やれやれ、このままではユウキの二の舞だな・・・)
いったんカルバンと距離を取り、意識を切り替えることにした。俺はこの世界で初めてゲームとして楽しみながら戦うのではなく、純粋に敵に勝つために戦うことにした。
意識を研ぎ澄ましていくたびに、炎の如く揺らめいていたオーラは清流の如く静かにそして激しく身体を流れていき、俺は目を刃の如く細めて敵を睨んだ。
俺の雰囲気が変わったことにカルバンも気付いたようだが、気にせずに一気に駆け出した。
その一歩はまるで《縮地》の様に一気にカルバンとの距離を詰め、先程とは比べ物にならないほど鋭い斬撃を繰り出した。その攻撃をカルバンは慌てて回避したがその時、おそらくユニークスキルを使い、いつの間にか飛ばされたナイフが俺の鎧金属部分に当たり「キンッ」っと音を立てて弾かれた。
(ナイフを・・・弾いた・・・!?)
弾かれたナイフを見て、奴のユニークスキルについてわかることがあった。
奴のユニークスキルはおそらく透明化だろう。空間転移系の能力なら点座標で移動するから見えないのであって、弾かれたっということはナイフは飛んできたわけだ。しかし、それではナイフを投げる動作が必要なはずだが、アイツの両手には剣があり、ナイフが飛んでくるタイミングでもそれらしい動きはない。なので、まだ何か仕掛けがあるはずだ。
今、奴のユニークスキルで分かっていることは
触れれば透明化が解けナイフが見えるようになる。刺さったり鎧に弾かれただけで見えるようになったから触れるだけで解除できるのは確実だろう。
透明化した物体にはオーラは纏っていない。これはオーラまで透明にできないから、オーラを纏わせるとそこに何があるのかまるわかりになってしまうのだろう。
そして、今の状況では槍を飛ばすことができない。これまでの戦いで槍は一回も飛んできていない、理由は何だ? 透明化の条件に合っていないのか、それともただ単にナイフより重いからなのか・・・重かったら何か不都合があるのだろうか?
そもそも、俺が手を使わずに投げるとしたらどうするだろうか・・・足を使って飛ばしたとしても余計に動作が大きくなるだけだろうし、俺と同じ人間ではどうしようもないと思うのだが・・・いや、そもそも同じ人間なのか・・・。
そうか考えた瞬間、パズルのピースがピッタリ嵌った気がした。俺の考えが正しければ奴のユニークスキルの種は完全に解けた。
「わかったぞユウキ」
「えっ! わかったって何が?」
「相手の手品のタネだよ、つまりこういうことだ」
俺はカルバンに向かって距離を詰め、攻撃するフリをして、滑るように移動して、背後に回り込みながら、相手の腰を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたカルバンは勢いよく飛んで行った。そして、俺が触れたことによりあいつ自身にかけていたユニークスキルが解けたその姿をみてユウキはあっ! っと思わず声を上げていた。
「やっぱり、獣人だったか」
蹴り飛ばされた時に、狙い通りにカルバンの尻尾に触れることができたようだ。アイツはユニークスキルでナイフだけでなく尻尾まで透明にして隠していたようだ。ナイフしか投げなかったのは尻尾ではナイフのような軽いものしか投げれないのだろう。
「このクソガキがぁぁぁぁぁ」
カルバンが怒りに任せて突っ込んできたが、尻尾は既に見えているので、たとえナイフを透明にしようが尻尾の動きで投げる軌道とタイミングもしっかり確認できる。
「これで終わりだカルバン! 異伝天草流《光牙疾雷》」
カルバンの剣もナイフも見切った俺の必殺の一撃がカルバンの体を切り裂いた。




