第十四話
俺たちが盗賊のいる廃砦についた時には日が暮れており、取りあえず物陰に隠れて砦の様子を窺ってどのように攻めるか考えていた。
「見張り・・・結構いるね」
ユウキが言った通り、砦の塀の上に七、八人弓を装備した盗賊を見つけた。それだけでなく、門の前には槍を装備した盗賊がいて、門の向こう側にも歩いている盗賊がいた。娘さんを奪還しようとする冒険者を警戒しているのだろう。夜だというのに一向に警戒が弱まる気配がない。
このまま門に向かって突っ込むと上から矢で狙い撃ちされながら盗賊たちと戦う羽目になるな。俺は構わないが流石にユウキはもたないだろう。
「ユウキ、お前は盗賊を何体倒せる?」
「たぶん一対一で戦えるなら倒せると思うけど。この状況じゃあ無理だよね」
ユウキも大分戦うのにも慣れてきたな。初めはゴブリンにも手こずっていたのに、今では盗賊相手でもタイマンなら大丈夫ときたか。だけどここまで成長してくれたら、こっちとしても頼ることができそうだ。
「大丈夫だ、手は考えた」
そう言って、俺はユウキにポーチから取り出したかぎづめ付のロープを手渡した。
「こんなこともあろうかと思って買っておいたんだ」
「これで塀の外側から上るつもりなの? けど塀の周囲も警戒されてるから、見つからずに近づくのは無理だよ」
「そりゃ、今のまま近づいたらそうだろう。だからユウキには見張りが居なくなったら、それを使ってこっそり一人で砦に潜入して娘さんを救出してほしいんだ」
「えっ!? 居なくなるってどういうことぉぉぉ」
後ろでユウキが、いきなり砦に向かって駆け出した俺に驚いていたが、気にせずに盗賊たちに向かって叫んだ。
「ハッハー遊びに来てやったぜゴロツキども! 死にたい奴からかかってこい!」
俺の声を聞いた盗賊どもはすぐさま集まり矢を放ってきた。
「《縮地》」
塀の上から放たれた矢は、斜め上から俺に襲いかかるはずだったが、縮地により一気に砦までの距離を詰めた俺の上を通り過ぎ、地面を耕した。
「《翔翼》」
俺は縮地の勢いのまま地面から翔翼の力を借りながら走り幅跳びの様に飛び上がり、塀の半ばほどに着地した。
「《駆爪》」
壁面走行のスキルにより壁を足でつかみ、駆けあがっていった。そして、塀の上に出ると近くにいた手頃な盗賊に斬りかかった。
「オラオラ、食いついてやったぞ、さっさと次の奴出てこい」
塀の内側に入り込み、近くにいる盗賊を手あたり次第に倒し始めた俺に、盗賊は焦りはじめ、砦の内部から増援を呼び、俺の周囲を囲み始めた。さらに近くで切りかかる奴と遠くで矢を射る奴とで役割分担し、次々と攻めたててきた。
「《集中》」
集中のスキルは使うとほんの数秒間だけ時間の流れが遅くなり、あたりを観察しやすくなるスキルである。ただし、時間が遅くなるといっても、早く動けるわけではなく、自分の動きも同じ分だけ遅くなる。
その集中を使い、あたりを観察し、隙を探しては縮地や翔翼などのスキルを使い包囲網を抜け出して、盗賊を倒し続けた。二、三十人ほど盗賊を倒したらようやく増援がなくなり、一息つけるようになった。
「いつつ、流石に無傷とはいかなかったか。」
長い戦いを終え、体のあっちこっちに作った傷に薬を塗りながら少し休憩し、俺は砦の内部に入っていった。
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・ 〈ユウキside〉
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「うんしょ、よいしょ」
シンヤが殲滅という囮をしているとき、ボクは手薄になった所からロープで塀に上り砦の内部に潜入していた。
「うわぁ~、派手にやっているね」
砦の外壁付近は暴れまわるシンヤと倒そうとする盗賊たちとの喧騒が砦内部まで響いていた。そしてボクはシンヤを倒そうと集めっていく盗賊たちを隠れてやり過ごしつつ、コソコソと砦内部を探索していた。
シンヤを倒そうとする盗賊たちはかなりの数が集まっているけど、シンヤは強いから大丈夫だよね。
シンヤは一対一だけでなく一体多数の戦闘も得意みたいだし、シンヤ曰く、敵が多い場合は一人一人を見るのではなく全体を眺めるようにみて戦況を把握し、その場に応じて適切に行動するのが鉄則らしいけど・・・普通の人はそんなことできないよね!
シンヤは絶対に生まれる時代を間違ってるよ、戦国時代に生まれて本田忠勝や立花道雪とかの戦国武将と戦っているほうが合っていると思うんだけど。
まぁ、シンヤのことは置いといて、ボクは任せられた囚われたトリンブルさんの娘さんの救出に専念しないと。だけど、どこに囚われているかもわからない娘を探して盗賊のいる砦を探して回るわけにもいかないし、どうにか囚われている場所がわかる方法がないかな?
こういう場合はシンヤならどうするかな・・・何か盗賊を捕まえて人の悪い笑顔を浮かべつつ嬉々として拷問して居場所を聞き出している場面が思い浮かんだ・・・さすがにこのイメージはひどいよね。
思えばこの世界に来てから殆どの時間、シンヤの後ろについて回っていたな……そうだ、あれを使ってみよう。
ボクの脳裏に思い浮かんだのは、依頼を受け出かけるたびにコンパスを使って方向を確認しボクの前を歩くシンヤの姿だった。コンパスなら囚われている方向もさしてくれるかもしれない。
ボクは久しぶりに荷物からコンパスを出すと早速使ってみた。するとコンパスの針が斜め下を指した。
「斜め下ということは、もしかして地下かな?」
安易に地下牢というイメージが思い浮かび、ボクは見つからないように移動した。地下につくとイメージ道理の地下牢と見張りの盗賊が一人いた。さすがに見張りまで増援に行かなかったのか、移動することなくしっかりと牢の見張りをしていて見つからないように助けるのは無理そうだ。
見張りはまだボクに気付いてなく、ボクはばれないようにルーンを刻んだ。
(どうか、当たりますように)
ボクが放った《サンダーボルト》は見張りの盗賊に当たり、盗賊の体勢が崩れた。
「《クイックムーブ》」
ボクは《クイックムーブ》で瞬時に距離を詰め、剣による攻撃をくりだした。
「《パワースラッシュ》」
スキルにより、オーラが込められた剣を叩き付けられ見張りは地面に伏した。
「ふ~~、もう大丈夫だよ」
ボクは牢の中にいるトリンブルさんの娘に微笑みかけると牢を開けようとした。しかし、牢には当然の如く鍵がかけてあり扉を開くことができなかった。
「ごめん、ちょっと待って。鍵を探してくるから」
そう言い、周囲に鍵がないか探していると、背後に人の気配を感じた。
「誰!!」
背後を取られたことに焦ったボクは、その姿を確認することなく素早くルーンを刻み、《サンダーボルト》を解き放った。
飛んで行った雷光は、その人影に向かっていったが、そいつが振るった剣に散らされてしまった。
「てめーが俺の砦を荒らしている冒険者か!!」
先程までの名前のない盗賊と違い、名前にカルバンと表示されている。
「気を付けてください! その男はこの盗賊団のボスです」
後ろでトリンブルさんの娘さんが知りたくもない事実を教えてくれた。
うわーやっぱりボスだったか・・・ボク・・・ここで死ぬかも。




