第九話
俺はユウキとともにコンパスを頼りにゴブリン盗賊団の位置を探していた。しかし、コンパスは便利だな村とかの方向だけでなく依頼の方向まで指し示してくれるなんて、できれば距離もわかればいいんだが、さすがに針しかないコンパスでは無理なようだ。
「そういえば、シンヤ君はどんなスキルを買ったの?」
「色々買ったが魔術は今のところ生活魔術と下級火魔術だけだな」
ちなみに、俺が買った生活魔術のスキルは四つのルーンが記載されていた。
・ファイア 小さな火を熾す魔術・・・ライター代わりになりそうだ。
・アクア 水を作り出す魔術・・・一応飲めるがぬるくてまずい
・ウィンド 風を生む魔術・・・扇風機より強いぐらいの風を起こすことができる。
・アース 土を作る魔術・・・使い道がない。
この中で一番期待できるのはやはりウィンドだな・・・おもにスカート捲りの方向で。
「あっそれならボクも買ったよ。あれば旅に便利そうだから」
「後は、戦闘補助のスキルを幾つか買った程度だな・・・お前はどうなんだ?」
「えっボクは本当に色々買ったんだよ。魔術スキルとか剣のスキルとか・・・」
どうやらユウキは、特に考えもなくとにかく使ってみたいスキルを買ったようだ。方向性も無い様だが本人が楽しめればいいだろう・・・戦闘力は今のところ俺一人で足りているし。
ユウキとスキルについて話していると森の奥からゴブリンたちが顔を出してきた。奥に一回り大きいゴブリンも見えるのでこいつらが依頼のゴブリン盗賊団で間違いないだろう。
「それじゃ、ボクから行くね」
スキルを手に入れたからか、やる気になっているユウキはルーンを刻み魔術を発動させた。
「《サンダーボルト》」
ユウキが描いたルーンから雷撃が飛び出して前方のゴブリンを焼き払った。
「へ~、これが魔術か・・・使ってみてどんな感じ?」
「う~んどうだね。スキルを使うって思うと指が勝手に動いてルーンを刻んでいたから何か操られた感じがするかな」
会話の最中にゴブリンたちはこちらとの距離を詰めて襲いかかってきた。ユウキはすばやく剣を抜きゴブリンを迎え撃った。
「異伝天草流《繊月》」
俺が抜き放った刀からオーラの斬撃が伸びてそれが三日月の型をとり、俺に向かってきたゴブリンたちを両断した。
「うわ! 一撃でゴブリンたちを瞬殺した」
ユウキは俺があっさり複数のゴブリンを瞬殺したのに驚いていたが、ユウキも自分に向かってきたゴブリンたちを危なげなく対処できていた。最初に会った時とは雲泥の差だ。
「いや、ゴブリンは弱いじゃないか。それに、本命もきたようだしな」
森の奥から、ホブゴブリンが取り巻きとともに姿を現した。魔術も使ってみたかったし俺は先制攻撃として、ホブゴブリンに《ファイアボール》を使った。火球は高速で飛んでいきホブゴブリンに命中し爆発した。しかし、ホブゴブリンは命中する直前に持っていた盾を構えてダメージを軽減していた。
《ファイアボール》の爆炎でホブゴブリンは後方に吹き飛ばされ、俺とユウキは取り巻きのゴブリンたちの排除にかかった。俺は移動スキル《縮地》ですばやく近づきゴブリンたちを切り刻み、ユウキは剣を抜きゴブリンを一匹ずつ処理していた。
「《パワースラッシュ》」
「ようやくユウキもスキルを使って戦えるようになったか」
俺はユウキの成長ぶりに感心していた。
「いやいや、いきなりバンバン戦えているシンヤ君がおかしいんだよ。普通の人はシンヤ君みたいに武器とか持ったことも戦ったこともないから。このゲーム戦闘がすごくリアルだから絶対に躓く人がいると思うんだけど」
「ふむ、まだまだ甘いなユウキ」
たしかに、ユウキの疑問もこの世界を理解できてなかったときなら同意したが、今はよくできていると俺は思っている。なので、ユウキにこの世界について教えるため戦線に戻ってきたホブゴブリンの剣による攻撃をオーラを集中した掌で受け止めた。
「ちょっと!大丈夫シンヤ君」
攻撃をまともに受けたことにユウキは驚いていたが、現実ならば掌が切り落とされたはずの一撃はホブゴブリンの剣は俺の掌に軽く食い込んだだけであった。
「ほら、この通りにオーラさえ集中できればこの程度の攻撃はかなり威力を減衰することができるんだ。しかも危険を感じれば反射的にオーラを集中するからかなり死ににくいぞ。それこそ、ゴブリン程度ならオーラを纏えばごり押しでも余裕で倒せるし」
まぁ、その分不意打ちはオーラを集中できないから、かなり凶悪な威力なるだろうけど・・・いや、まてよ。別に不意打ちでなくてもうまくすればオーラを抜いて攻撃できるんじゃないか。
そう思い、俺は刀を収めてある技を作ってみることにした。
「異伝天草流《空蝉流破》」
次の瞬間、ホブゴブリンは俺の素手による一撃で体の一部がはじけ飛んだ・・・即席で作った技にしてはいい出来栄えだな。
「おわぁぁ、なにしたのシンヤ君」
いきなりはじけ飛んだホブゴブリンに驚いたユウキは俺に説明を求めてきた。
「ああ、さっきオーラの集中について話しただろ。それで思いついたんだけど、攻撃してオーラを一部に集中させたあとに、本命の一撃を別の場所に叩き込んでみたんだよ。そうすれば相手のオーラによる防御を最低限にできるだろうと思ってな」
「・・・それって、口で言うよりもかなり難易度が高いよね」
そうかもしれないが、古武術ではその手の虚実を交ぜる技術が普通にあるから、そこまで難しいとは思わなかったけどな。
ホブゴブリンたちを片づけたあとカードを確認すると、きちんと依頼は完了状態になっていた。
「よし! ゴブリンたちも片づけたし、ついでに封魔の指輪も試してみるか。ユウキ、準備ができたらこっちに向かってさっきの《サンダーボルト》を撃ってくれないか」
俺が指輪にマナを込めてみると、指輪の前方に魔法陣が出現した。
「いい? それじゃあいっくよ~~《サンダーボルト》」
ユウキが《サンダーボルト》を魔法陣向かって放ち、雷撃が魔法陣に吸い込まれるように向かい・・・魔法陣を貫通し俺に直撃した。
「うぎゃぁぁぁぁ」
「ほわぁぁ!! 大丈夫シンヤ君!!」
ゲームだから現実よりかなり軽減されているだろうが、意外とビリビリくるな・・・これ。
「あ~~ビックリした。しっかし、なんで魔法陣を貫通したんだ?」
「もしかして、使い方が違うんじゃないかな? もう一度魔法陣をだしてみて」
俺が言われた通りもう一度魔法陣を展開し、二人で観察してみた。
「ねぇこの魔法陣のココの部分不自然な空白がない? もしかしたらここにルーンを刻んで使うんじゃないかな?」
ユウキが試しにルーンを刻んでみると魔法陣がピカッと光、ルーンの光が指輪の中に吸い込まれていった。
「おっ! 成功か?! 試してみるぞユウキ」
俺が再び指輪にマナを込めてみると、瞬時に魔法陣が展開し魔法陣の中央から《サンダーボルト》が放たれた。
「成功したみたいだねシンヤ君」
「ああ、しかし魔法陣そのもので魔法を受けることができなかったのか。もしかしたら魔法に対する盾としても使えるかもっと思ったが・・・そんな都合のいい展開はなかったな」
「そうだね、しかも魔法を込めるのには魔法陣を展開して直接刻まないといけないから戦闘中に補充することは難しそうだね」
封魔の指輪が予想以上に癖が強かったが、他のスキルとかもあるので問題ない。
「それじゃあユウキ、依頼も完了したし、街に帰るか」
こうして俺たちの初めての依頼は終わった。




