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セカイのナゾを

不思議な少年、レンとオバケウサギが巻き起こすちょっと変わっていて悲しいお話。今回は『セカイのオワリを』の男の子視点の物語。もちろん、前の話を知らなくても、分かる内容になってます。

『セカイのナゾを』


死んだ人というのは、どこに逝くのだろう?

これは人類の永遠の謎なのだろう。でも、俺は「霊が見える」と言った少女っぽい少年に会ったことがある。二十歳くらいに見えないこともないけれど、声は高く

声変わりする前の少年みたいだった。背もちっこくて高校生の俺にも敵わない。

そんな彼が「霊に会わせてあげる」と言うんだ。


ウソみたいなホントの話。


彼女との思い出は決して多くはない。無いに等しいくらいで、その思い出の場所は決まって近所の公園だった。

 俺、大西悠太おおにしゆうたと彼女、中山悠なかやまはるかが出会ったのは、ただ単に近所だったから。

「ユウくん遊ぶ?」

 俺の母親と、ハルカの母親が公園で立ち話をしている時だ。話に花が咲いて根を下ろしてしまったせいで俺たちは待ちぼうけだ。

「うん」

 俺とハルカ、八歳の時だ。

「あら、はるちゃんの『はるか』ってこんな字を書くの? ウチの悠太の悠と一緒ねぇ~」

「本当にねぇ~」

 アハハハと笑い声を遠くに聞きながら俺たちは公園の遊具と戯れた。



     ♪



その一年後ハルカの両親が死んだ。ハルカが小学校に行った後、何を思ったか知る術もないが、二人で自殺したそうだ。ハルカはこれまた近所の祖父母の家に預けられることになった。

「ハルカ、何やってんの?」

 黒い服を着させられたハルカはいつものように休日の公園で遊んでいた。

「何って?」

「だから……その」

「抜けてきたの」

俺はソーシキについて何も言えなかったが、ハルカは応えてくれた

「ソーシキ、抜けてきた」

再度、ハルカは言う。

「良いのかよ」

「うん。別に良いんだ」

ハルカは手元の砂山に目を据えたまま、良いはずないのにたんたんと何でもないことのように言う。俺は砂のお山を作る手伝いをするため向かいにしゃがんだ。

一心不乱に砂山を作っては壊し、また創成と破壊を繰り返すハルカに俺は何も言えなかった。



    ♪



その一年後、両親が死んだのと同じ日にハルカも自殺した。

高層ビルの屋上から飛び降りたのだ。

俺は不思議と泣かなかった。

あぁきっとハルカも両親が死んだ時、こんな気持ちだったのかな。小学四年生にもなって砂遊びなんて、と思ったけれど、俺はあのときのハルカと同じことをしていた。

 キィキィと小さな音をたてながらブランコが揺れていることに気が付いたのは少ししてからだった。

 平日の、子供なら学校に行っている時間に何をしているのだろうと俺は顔をあげる。

「こんにちは」

 いつの間にか彼は目の前にいて

「うわぁっ」

 驚いた俺は砂場に尻餅をついてしまった。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫……です」

 見た目は大人びているのに声は女の子そのものだ。これで髪が長ければ女の子なんだが……いやボブカットの女の子なのかもしれない。それにしても、髪が黒い……。いや、黒いのは普通なんだけど、なんていうか普通の黒じゃない黒だ。外国人かな、瞳の色もなんだか違うみたいだ。

「こんなところで何してるんですか? 学校は?」

「え? うーん……そういう君は? 学校に行かなくて良いの?」

「俺は……まぁ」

 彼(彼女?)は俺の前にしゃがんで、あのときの俺みたいに砂山と戯れる手伝いをした。

 でも、それにすぐに飽きてしまったのか棒を持ってきて砂に絵を描き始める。

「それ、何ですか?」

 うさぎ、のように見えるけど足があるはずの所には足がなくふわふわとまるでオバケのようだ。

「ん? オバケウサギだよ。知らない?」

 彼は答えた後すぐに「痛いよぉ」とおどけながら頭を撫でた。その行動ははたの俺から見るととても奇妙だった。

「はぁ知らないですね」

 これは知り合ってはいけない系のアブナイ人なのではないかと俺は察した。

「オバケウサギはね、願いを叶えてくれるんだよ。僕はその代弁者。オバケウサギって、ほら見えないから」

 なにを言ってるんだ。きっとアブナイ人の戯言なのだろうと思う。でも……でも、もし、本当に願いが叶うとしたら?

「君の願いは?」

 彼か彼女か、わからないけれど、彼はまっすぐと俺を見てくる。その瞳に、嘘はついちゃいけない気がした。

「俺は……ハルカに会いたいです。会って、なんで死んだのか、聞きたいです」

「うーん……霊の呼び出しかぁ」

 彼は「うーむ」というと考え込んでしまった。アブナイ系の人なのだろう、関わってはいけないのだろう、とわかってはいても願わずにはいられなかった。

 ハルカ……なんで死んじゃったんだよ。俺を置いて。俺じゃハルカの力になれなかったのかな。俺はそんなに頼りないのかな……。

「よし、決めた!」

 突然の彼の大きな声に、びっくりしてしまった。考え込んでしまっていたのがよくわかった。

「裁判が終わるまで、待って?」

「は?」

 いや、なんの?

 意味が分からない。死後に行うという地獄の裁判のことだろうか? 詳しくは知らない。

「裁判が終わってからだったら会わせてあげられる。でも、その前だと、ちゃんと成仏ができなくなっちゃうかもしれないんだ。成仏できない理由がはっきりしてれば、成仏できる可能性もあるんだけど……」

 彼は説明する気があるのか、独り言なのか、わからないことをずっとしゃべっている。

「七年かな」

「七年?」

「そう。七年後に、またここに来て。ハルカに合わせるから」



     ♪



 あれ以来、彼には会っていない。彼の名前すらわからない。

 そう、わからない。

 俺にはあまりにもわからないことが多い。ハルカのこともそうだ。世の中のこともそうだ。でも、人の一生でわかることなんて、限られてるんだろうな。

 高校二年生になった俺は、彼に言われた通り、またこの場所に来ている。

 近所の公園……だった場所。

 今は公園がなくなって家が建っている。周りも家だらけだ。ここも随分、にぎやかになってしまった。

 彼は、現れないだろうか。所詮、子供の見た夢に過ぎないのだろうか。

「こんにちはぁ」

 どこか間延びした声。大人っぽいのに、声変りをしていない少年のような声。

「こんにちは」

 彼は相変わらず、女か男かわからない。俺よりも背が低い。あの時は彼の方が高かった。黒髪も、変わった瞳の色も何も変わらない。

 彼の時は進んでいない……?

「約束通り、ハルカに会わせるよ。でも、ハルカ本人じゃないよ」

「なんで?」

 彼と会っているのは、夢……。起きながらにして見る夢、白昼夢なんだろう。それなら、俺の願いが叶うまで、とことん付き合ってやろう。

「だって君には霊が見えないから。だからハルカに僕の体を貸す。それでいいかな?」

「あぁ」

 俺の返答を聞いて、彼はにっこり笑った。どこか怪しい笑顔だ。

 それから、がっくりと項垂れたかと思うとむっくりと起き上がる。

 瞳の色が少し、違うような……。

「こんにちは、ユウくん」

 声までハルカそっくりになっている。これがハルカの霊がのりうつっている状態なのか。

 俺はハルカと目線を合わせようと、屈んだ。

「こんにちは」

 俺が答えるとハルカが笑う。

 あぁ、あの時のままのハルカだ。

 ……俺だけ時を刻んでしまった。

「……ハルカ、なんで死んじゃったんだ?」

 うまく言葉にできない俺は、率直な言葉で尋ねる。ハルカは困ったような顔をしている。でも、一生懸命に答えようと、言葉を紡ぐ。

「あたしは世界の崩壊を願ったの。だから、レン君が叶えてくれたんだよ。あたしの願いはあたしの世界の崩壊。それと空を飛びたかったの。だから飛び降りた。世界の崩壊と空を飛ぶために」

「なんで、世界の崩壊なんて願ったんだよ」

「ユウくんにはわからないよ」

「そうだ。俺にはわからない。わからないことが多いから教えて欲しいんだ。ハルカの気持ちや考えを」

 ハルカは俯いてしまった。なにを考えているんだろう……。

「……絶望したの。この世界に。まだ子供のあたしが何を言ってるのって思うでしょ? だって……お父さんもお母さんも死んじゃって、おじいちゃんもおばあちゃんも優しいけど、どこか冷たくて、どこにもあたしの居場所がなかったの!」

 ポツリとしたつぶやきだったのが、徐々にハルカの本心を暴き出した。

 わぁーんと大きな声を上げて泣き始めたハルカを俺は優しく抱きしめる。するとハルカは俺に縋り付いてきて、さらに大きく泣き始めた。

「どこにもあたしが居て良い場所なんでながったの! ざみじがったのぉー」

 鼻声になって、泣きながら、それでも思いを必死に伝えてきてくれる。

「俺に言ってよ。そんなつらい気持ち、全部俺にぶつけてよ。なんでも受け止めたかったのに。ハルカのことなら、なんでも……。だって俺、ハルカのことが――――」

 しんと静まり返る一瞬。

「好きなんだよ」

 音が戻る世界。ハルカは泣いている。大きな声を上げて、俺の腕の中で。でも、それもずっとは続かない。

「……ありがとう」

 ハルカは言った。そういって、彼の体から離れてしまったのが、俺にもわかった。だから、俺は彼の体を俺から離した。

「終わったのか?」

 確認のために問いかける。彼はそっと頷くと紅い瞳をこすった。たくさん泣いたから眠たくなったのだろう。

 ハルカの言っていた「レン君」とは彼のことだろう。彼もハルカに会っていたんだ。そしてハルカの願いを叶えたんだ。

「ハルカを救えなかった自分が憎いよ」

 ふるふると首を振る。

「ハルカは救いを求めていなかった。あの時は、ただ世界の終りを願っていたんだよ。だから僕が叶えた。今、ハルカが救われたのは君のおかげだよ。僕は何もしてない」

「……そうか。それでも、ありがとう。ハルカが世話になった」

「救ってくれて、ありがとう。僕は願いがなければ救ってあげることが出来ないから」

 レン君はにっこりと笑った。その笑顔は、やっぱり怖いけれど、無邪気さもはらんでいた。

「君、名前は? 僕はレン」

「俺は大西悠太」

 レン君は頷いて、ばいばいと小さく手を振った。



     ♪



 それ以来、レンには会っていない。むしろ、会うべき存在ではないのだろう。

 人はそれぞれに願いを持っている。けれど、それは自分で叶えられるものが大半だ。


 俺の本当の願いは叶った。

 ハルカのことを忘れたいわけではない。でも、これで乗り越えていけるんだ。

 新たな一歩が踏み出せる。


 ハルカ、俺は生きていくよ。わからないことが多い、この世界で。


セカイのナゾを

おしまい



 こんにちは、はじめまして。無月華旅です。毎月20日更新なのを、昨日思い出して慌てて投稿しました。

 今回は前述した通り『セカイのオワリを』のアナザーストーリー的なものになってます。前々から「悠」で「ユウ」と「ハルカ」の話を書きたいな、とは思ってたのですがなかな手につかなかった作品でもあります。『セカイのオワリを』を書いているときは、実はなにも考えてなかったです。今回の話、前の設定でレン君が白髪、灰色瞳が出てきていました。ちゃんと修正したつもりですが、まだ直ってなかったら申し訳ないです。

 最後になりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございます!また次話、あえますことを。

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