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記憶の欠片

 不思議な少年、レンが織りなす物語。この物語はレン自身の話です。なので、誰かの視点からの話から少しずれています。レン自身の過去のお話。それは、まだオバケウサギと出会う前のこと。

『記憶の欠片』


 僕がまだ〝人間〟だった頃のことだ。僕はいわゆる「視える人」で、そのことが原因で周りからは相当浮いた存在だった。僕は相手が〝オバケ〟なのか〝人間〟なのかすら見分けがつかない。だから僕は彼女が〝オバケ〟とは知らずに公園で遊んでいたんだ。今ではもう、彼女の名前を思い出せない。ただ、「廉、廉」と繰り返し僕の名前を呼ぶ彼女の声は、よく覚えている。とても澄んだ、綺麗な声だったんだ。



     ♪



 小学校からの帰り道、小学二年生の廉はまだ日が高い内にそこを歩いていた。友人と遊ぶでもなく、塾や習い事に行くでもなく、ただとぼとぼと歩いていた。

 「視える人」である廉は、奇妙な言動によって周りから孤立していた。

「こんにちは、君ひとり?」

 ふらりと立ち寄った公園で、廉に話しかける少女がいた。「あいつに話しかけたら呪われる」と噂されているので、廉に話しかける人なんて最近では滅多にいない。

 廉は話しかけられたことに少なからず驚いた。

「う、うん。一人」

 同い年くらいの少女に廉は戸惑いながらも返事をする。

 キィキィと軋んだ音を立てるブランコをこぎながら廉は彼女を見ていた。

 彼女は少し色素が抜けてしまったのか、栗色の髪をしていて瞳の色も薄く感じた。彼女の目に廉が映っている。廉は真っ黒の髪に灰色の瞳をしていた。

 何を話すでもなく、ただ夕陽に染まるまで公園で、ただ二人だけでブランコをこいでいた。



     ♪



 廉は、廉ではない。この時の廉は、自分の名前を「はじめ」だと勘違いをしていた。

「はじめ! どこに行ってたの、こんな時間まで。心配してたのよ」

 それもそのはず。「廉」と呼ばれることなど、生まれてこの方、一度もないのだから。

「ご、ごめんね。お母さん」

 ごくごく一般的な家庭だ。子を心配する母親、何も不思議はない。だが廉は母親との間に何か、距離を感じていた。

 ……まるで自分ではなく、別の誰かを見ているような。

 廉が「視える人」であることを母親は当然知っている。知っているはずなのだが、それは母親にとって思い出したくもない記憶。変な言動をする息子を母親はどんな気持ちで接していいかわからなくなった。そして母親がとった行動は、記憶を消すこと。そうすることで、母親は廉に普通に接してくれるようになったのだ。

 父親は、出て行ってしまった。無理もない。奇異な息子を見るに見かねてしまったのだろう。そして、そんな息子を産んだ母親も、父親は変な生物を見るような目で見降ろしていた。

 いつものように、晩御飯を食べて、風呂に入り、廉は自室にこもる。少しゲームをしたが、すぐに飽きてしまった。ごろんとベッドに転がれば自然と眠たくなる。

 寝る前に廉は思った。

 明日も、あの子に会いに行こう。



     ♪



それから数週間。廉と彼女は二人で遊んでいた。何か話をしたりするときもあるし、ただ会って遊ぶ時もあった。

寒い冬のことだ。冬は日が落ちるのが早いということをすっかり忘れていた廉は、夕方になってもまだ彼女と遊んでいた。

「はじめー?」

 母の呼ぶ声が聞こえて、廉はドキリとした。気が付いて周りを見回すと、もう日が暮れて真っ暗だった。

「はじめ! こんなところで何してるの? こんなに暗くなるまで」

「ごめんなさい……」

 母親に手を引かれながら、ちらりと廉は彼女を振り返る。彼女は申し訳なさそうに小さくなってうつむいていた。そんな彼女に廉は小さく手を振って、バイバイをした。彼女は当然、見てはいないだろう。

「ほら、行くわよ」

 母親が廉の手を引いていく。

 彼女はただ、見送るだけだった。



     ♪



 次の日も何事もなかったかのように、いつもの公園で廉と彼女は遊んでいた。

「そういえば、私の名前まだ言ってなかったね……」

 ポツリと彼女がブランコをこぎながらつぶやいた。廉は彼女がいつもより元気がないことに気が付いた。

(きっと昨日のことを気にしてるんだろうなぁ)

「私の名前はね……」

「うん」

 彼女が間を取ったので、廉は待つ。ブランコをこぐ度にキィとブランコが不平を言う。行ったり来たりする彼女を見つめながら廉は待つ。

「はじめ!」

 彼女の声と廉の母親の声が重なったような気がした。

「え?」

 廉は彼女に聞き返すが、母親がずんずんと近づいてくる。彼女はただ、悲しそうに俯いている。

「ねぇ、なんて言ったの?」

「はじめ、何言ってるの? こんなところで一人で遊んで」

「お母さん? 僕は一人じゃないよぉ?」

「もういいわ。こんな所にいたら風邪を引くじゃない。帰って温まりましょ」

 そう言うと母親は廉に有無を言わせずに手を引く。廉は少しよろめきながらも振り返って彼女を見た。彼女は一人でブランコを小さく揺らしているだけで、こちらを見なかった。



     ♪



 母親の言った通り廉は風邪を引いてしまい、しばらく家から出られなかった。学校は冬休みに入ってるので、問題はない。しかし、廉はずっと彼女のことを考えていて居ても立っても居られなかった。

 彼女は何を言おうとしたのか。ずっと考えていても答えは出なかった。ずっとずっと高熱にうなされながら彼女のことだけを考える。

 そしてふっと気が付いた。

「あぁ、恋をするってこういうことなんだ」

 相手の言動、一つ一つが気になる。相手のことならすべてを知り、全てを受け入れたくなる。

(熱が下がったら、ちゃんと彼女の話を聞きに行こう。ちゃんと彼女のことを知ろう)

 そう思いながら廉はまどろみに落ちた。



     ♪



 初雪の降る日。廉は母親の目を盗んでいつもの公園に来ていた。

「ねぇ!」

 彼女は寂しそうにブランコをこいでいる。そこに廉は駆け寄って行った。

「ずっと来られなくてごめんね。熱が下がらなくて……」

「うん。大丈夫。……間に合ってよかった」

「ん? 何に?」

 彼女の隣のブランコに廉は勢いよく座った。ギィと一際大きな音を立てるブランコにかまわず、廉は少しこいだ。それと比例するように彼女が立ち上がる。彼女が座って居た所には、うっすらと初雪が積もっていた。

「私の話、聞いてね」

「うん」

「私ね……幽霊だよ」

「……」

 なんとなく、そんな感じはしていた。彼女が幽霊なのだと感じるようになったのは、いつの頃からだったのか、分からないけれど、自分とは違うのだ、ということは廉にもわかっていた。だから廉は黙ったまま頷いた。

「私の名前はね…………はじめっていうの」

「はじめ?」

「そう」

 それは母親が廉のことを呼ぶときの名前。廉はまだ、廉ではなくはじめだった。

「どういうこと? それは僕の名前だよ」

「うん。君のことでもあって、私のことでもあるんだよ」

「それは……? それじゃ僕も本当は幽霊ってこと?」

「そうじゃないの。私は死んでしまったけど、君は生きてる。私は君を生かすために生きることをやめたの。私たちは双子だったんだよ」

 双子、というのはリスクがある。二人ともが健康な体で産まれてくることは希であった。だから片方を生かすか、二人とも諦めるか、この選択を迫られる親は少なくはない。廉とはじめの両親もそうであった。

「でも、私だって死にたくて生きるのをやめたんじゃないの。私だって生きたかった。そうした強い願いが私をこの場に引き止めた。私の願いは、生きて遊びたかった。君と。そして君の笑顔が見たかった。それだけ。私が命を託した君のことを、ずっと想ってたの」

 廉は彼女、はじめの話にただ惚けていた。

「はじめ! はじめ!」

 母親が廉のことを探しにやってきた。

「はじめ?」

 廉が彼女の名前を呼ぶ。彼女は振り返って母親を真っすぐに見つめて、首を振った。

「違うよ、お母さん。この子は、はじめじゃない」

 母親は廉を見つけて、廉に近寄る。もちろんはじめの声は届いていない。はじめは悲しそうに目を伏せたが、意を決したのか、廉にスタスタと近づいた。

「ごめんね」

 小さくはじめが呟いたかと思うと、廉の体に乗り移っていた。

「はじめ、病み上がりなだから家でおとなしくしてないといけないでしょ?」

 母親が廉の手を引く。しかし廉、いやはじめは母親の手を振りほどいた。

「はじめ?」

「私ははじめじゃない。はじめはもう死んでしまったの。お母さん、思い出して」

「何を言ってるの? まだ熱があるのね。早く家に帰りましょ」

「お母さん! ごまかさないで。嫌なことだって、ちゃんと記憶しておかなきゃ」

「なにを、言ってるの……?」

 母親は廉に乗り移ってるはじめの言葉に衝撃を受けているようで、茫然と立ち尽くしている。

「はじめは死んだの。お母さん、この子の名前を思い出して」

「はじめは、しんだ?」

 何も思考することが出来なくなっているのか、母親はただはじめの言葉を繰り返す。

「いいえ。死んだのは出来損ないの弟の方よ。そう、今ここにはじめはいるじゃない。死んだのは、そうね、確か廉の方よ」

 ぶつぶつと母親が呟く。それを聞いたはじめは廉の体から離れた。

 突然のことで廉は前に倒れそうになって、慌ててバランスをとった。

「はじめ?」

「よかった。名前、やっと聞けたよ。廉、だって」

「お母さんは……?」

 見ると母親は突っ立ったままぶつぶつと何事か呟いていた。意味をなしていない言葉の羅列が母親の口から紡がれている。

「廉、かぁ。物事のけじめって意味だね。私が始まりで、廉が終わり。双子の名前にぴったりだよね」

 そんなことに気が付いていないのか、はじめは嬉しそうに廉に話す。

「これで私はもう思い残すことはないよ」

「何言っての、はじめ。僕はどうしたらいいの? お母さん、変だよ?」

「大好きだよ、廉」

「はじめ!」

 廉ははじめの名前を叫ぶ。しかしはじめは初雪に溶けるように消えて行ってしまった。

 後には人形のような母親と廉だけが残された。

「廉……」

 廉は自分の名前を呟いた。

「廉、か……。物事のけじめ。……終わり」

 廉は振り返らずに走り出した。目的地なんてなかった。ただ、走っていた。

 薄く積もった初雪の上に廉の足跡は残らなかった。




 記憶の欠片  終わり


 こんにちは、はじめまして。無月華旅です。毎月、20日に更新する予定だったので、今回もオバケウサギを更新しました。今回はレン自身の話になります。レンのことが少しわかっていきたのかなっていう話になっていると良いなって思います。

 他の作品も更新していきたいんですけど、なかなか筆が乗らなくて……。でも、頭の中で構成は出来ているので、春休みになったことですし、じゃんじゃん書いていく予定ではあります。

 最後になりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございます。また次回、お会いできますことを祈ります。

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