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しろさんのゆくえ

 いつも誰かの視点で語られるお話。こんかいはしろさんです。猫です。作者は猫派です。不思議な少年、レンが織りなす話はちょっと悲しいお話が多いです。

 今回で少し、レンの容姿が分かります。

しろさんのゆくえ


「絶対、迎えにくるからね。ここで待っててね」

 ご主人さまは哀しそうにボクに言うと、パッと立ち上がって走り出した。

「みゃー」

 ボクは小さく鳴いてみる。ご主人さまは一瞬、立ち止まったけど次の瞬間には走り出していた。

 振り返らずに、ただ真っ直ぐに。

 ご主人さまの足音が、雨音に紛れて小さくなっていく。ご主人さまが置いていった傘の下。小さなダンボールの中でボクは大人しく待っていた。


 ずっと……


   ♪


 ぴちゃ、ぴちゃ……


 道を行く人は急ぎ足に、水を蹴飛ばしながら去って行く。

 道行く人たちの流れを見ながら、ボクはご主人さまを探す。

「……」

 ご主人さまは見つからず、ご主人さまが置いていった傘に雨があたって音楽を奏でる。


 ぴちゃぴちゃ、と……。


「ねぇ、キミ」

 ボクに声をかけたのは不思議な少年だった。そもそも少年なんだろうか。中学生、高校生ぐらいにも見えるけれど、二十代に見えないことも無い。女の子みたいに少し高い声からして、やっぱり若いんだろうな。

「ひとり?」

 見ればわかるだろう。どうして、そんな事を聞くんだろうか。

 ご主人さまがダンボールに張り付けた置手紙は、雨に滲んで、もともと汚い字がさらに汚くなって見えなくなっていた。小学一年生の習いたての字で拙く書いた文字だ。

 ボクに声をかけた少年はボクの隣にしゃがみ込んだ。ふと見ると頭に変な生命体を乗せている。

 うさぎ、なんだろうか。でも足がなく、足がある場所はふわふわになっている。おばけうさぎ、と言ったところだろう。

「キミはここで何、やってんの?」

 少年が、傘の隙間から空を見上げながらボクに尋ねてきた。

「みゃー、みゃ」

「そうか。待ってるんだね」

 何故ボクの言葉を分かるのか。それは聞かない方が良い事なのだろうか。

「でも、キミもう幽霊だよ? 知ってた?」

 この少年は一体何を言っているのだろう? ボクには理解できなかった。ボクが何も言わないでいると、少年は立ち上がって去って行った。

「ばいばい」

 と言い残して。

 なんとなく、本当になんとなくだけど、少年はまたここを通る気がしたんだ。


     ♪


 翌日はカラッと晴れて、秋にしてはあたたかな日だった。ボクは傘の隙間から、同じようにご主人さまを探す。

 道行く人たちは相変わらず急ぎ足で、せわしがない。

「みゃー」

 小さく鳴いてみるけれど、誰も振り返らない。

「やぁ、また会ったね」

 この前、会った少年がまた会いに来てくれた。……たまたま通りかかっただけなのかもしれない。

「君、名前は? 僕はレン」

「みゃー」

「そう、しろっていうの」

 白い猫だから、しろ。ご主人さまがつけてくれたんだ。どんな名前でも、初めてもらった名前なんだ。嬉しかった。そういえば、レンの髪は怖いくらい真っ黒だ。でもレンは「くろ」って名前じゃない。一体、誰に名付けてもらったんだろう?

「……しろはいつまで、ご主人さまを待ってるつもり?」

「みゃー」

「いつまでもは待っていられないよ。成仏する気はないの?」

「みゃ、みゃー」

「だって、この前も言ったけどもう死んじゃってるんだよ? このままだと地縛霊になってしまうよ」

 レンは正面にしゃがみ込んで、ボクを諭そうとする。……ボクは本当に死んじゃったの?

「みゃみゃー、みゃー」

「……そっか。それがしろの最後の願いなんだね。わかったよ」

 レンがボクを抱き上げる。

「みゃーみゃ」

「うん」

 ボクの要望通り、傘も閉じて持っていく。場所を知らないはずなのに、レンは目的をもってすたすたと歩く。テンポよく刻まれるリズムにボクは、うとうとしてきた。


     ♪


「しろ、ついたよ」

 レンの声でボクは寝てしまったことに気が付いた。レンを見上げると、頭の上のおばけうさぎが不機嫌そうに小さな牙を出している。

 レンはボクをそっとおろした。

 懐かしい。ご主人さまの家だ。たっと走り出したボクをレンは追ってこなかった。

 窓からリビングを覗くと、休日ということもあって、ご主人さまたちはリビングに集まって、楽しげに食事をしていた。

 ……そう、楽しそうに。

 ボクのことは忘れてしまったの?

 ボクのことは、もういいの?

 ボクのこと、嫌いになったから迎えに来てくれなかったの?

 ボクのこと……


 レンがいつの間にか後ろに立っていた。ぼろぼろと涙をこぼすボクを慰めるでもなく、ただじっと見ていた。

「みゃー、みゃみゃーみゃみゃ?」

 ボクの問いかけに、レンは静かに首を振った。

「そうじゃないよ。しろのご主人さまはしろを嫌いになったからしろを捨てたんじゃないよ。お父さんが許さなかったんだって。家で動物を飼うことを」

「みゃー」

「うん」

 ボクの最後の願いは叶った。

 もう、なんの心残りもないよ……。


 ご主人さま、どうか幸せに。


しろさんのゆくえ

 おしまい


 こんにちは、はじめまして。無月華旅です。

 前書きにも書いた通りで、私は大の猫好きです。でも、しろさんは結局救われない……。いや、幸せだったのかも知れないですね。

 今回からレンの容姿について語っていこうかなって思ってます。前回まではそれほどレンについて決まった容姿はなかったんです。でも物語を書いていくうちに、「レンってどんな子なんだろう」ってなりました。ただ「頭にオバケウサギを乗せてる不思議な少年」でも十分だとはおもったんですけどね……。

 前回からちょこちょこ言ってる、月に一回は更新しよう、ということなんですけど、毎月20日に何かしら更新することにしました。なので、20日には何か更新されてます。……えぇ、頑張ります。

 では、ここまで読んでくださってありがとうございます。

 また20日お会いできますことを。

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