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E2-2:異形ノ腕持ツ茨姫

 バスの運転手がなぜか鬼で。

 その鬼を退治したのがなぜかクラスメイトの瑞葉で。

 その瑞葉はなぜかこんな感じに口が悪い。


「……俺もしかして夢とか見てるんじゃね?」

 ちょっとばかり頬をつねってみたが、やっぱり痛い。

「何度も馬鹿やってんじゃねーよ、馬鹿」

 瑞葉はそんな暴言を吐きながら、どこからともなく包帯らしきものを取り出して慣れた手つきで腕に巻き始めた。

 と、いうか。

「ちょ、あの鬼いなくなってんぞ!?」

 さっきまで地面に突っ伏していたはずの鬼2匹の姿がない。

「消えたんだろ。表に出てきても所詮、心鬼じんきだ」

 瑞葉はこちらに目もくれずただそう言った。

「は? じんき?」

「説明めんどい。パス」

 なんじゃそりゃ!?


「私としてはここでハイ、サヨナラといきたいとこなんだが」

 こっちだってもう帰って寝てえよ。

 そして全てを忘れたい。

「まだ終わりじゃないんだよな、今日は」

 ……は?

 と、俺が首を傾げたと同時に、ネクタイごとものすごい力で引き寄せられた。

「ぐふっ!?」


 ありえない、怪力だった。

 嘘じゃない。

 細い腕でネクタイを掴まれただけなのに、俺はそれだけで完全に拘束されてしまっていた。


 けど。

 なによりも、俺は彼女のその眼に釘付けになっていた。

 ――澄んだ闇。

 野生的で、それでいて怠惰で、でもなぜか綺麗な漆黒。


 緊張すら気まずさに変わる至近距離で、彼女は俺に言い放つ。


「ちょっとツラ貸せ、久城」






 夜の繁華街を、彼女はつかつかと歩いていく。

 ところで、瑞葉はいつもの地味な制服姿じゃない。

 デニム地のミニパンツに紺色の薄いパーカーを羽織った、アクティブな私服姿だ。

 が。

 ミニはミニでも、細過ぎる感じがあって色気もへったくれもない。

 俺はそんな彼女の背中(というか尻)をしぶしぶ追いかけていた。

「なあ、どこ行くんだよ」

「アパート」

「!?」

 え、アパートって、誰の!?

 この状況からしてまさか瑞葉の!?

 いや、何それどういう展開!?

 俺まだ女子の部屋に足を踏み入れたことすらな

「おいクソ馬鹿。変な妄想しなかったか」

 射るように睨まれて思わず足がすくんだ。

「してません」

「嘘つけ、タコ」


 ……さっきから聞いてりゃ人のことボケだのクソだのタコだのと!

 一体お前は何様だッ!!


「大体お前は昼間っからアホ面しすぎなんだよ。合コンだかなんだか知んねーけどフラフラしてっから巻き込まれるんだ」


 ……ほんと、何様なんだろう。

 まるで俺のことを見ていたかのような口ぶりだ。


「なあ、お前……」

 それを尋ねようとしたら、急に彼女が立ち止まってタイミングを逃した。

「着いた」


 いつの間にか辿り着いたのは、繁華街から2本ほど奥の道に入ったところにあるちょっとボロい感じのアパート。

 全部で8部屋くらいしかない、小さな建物だ。

 もう夜だというのにベランダに洗濯物が干しっぱなしの部屋もある。

 あ、しかもあれよく見たらブラジャ……


「おいエロ坊主、とっととついて来い」

「俺エロくないもん!!」

 そんななけなしの意地すら鼻で笑われて、俺はとぼとぼとアパートの敷地に足を踏み入れた。

 すると。


「!?」

 途端、アパートの各部屋が音を立てて一斉に開いた。


 思わず彼女の後ろに隠れる。

「ちょ、ななななんだよこれ! 心霊現象か!?」

「隠れんなヘタレ、よく見ろ」

 そう言われて、彼女の肩越しにそっと扉のほうを見た。

 すると、そこにいたのは。

「やっぱ鬼じゃねえかよ!!」

 まるでゲームに出てくるゾンビのように、各部屋から鬼がわらわらと出てきた。

「あいつらも心鬼だ。目一杯殴れば消える。つーことで後は任せた」

 瑞葉はそう言って、さっと横に退避した。

「ちょ!?」

 瑞葉という盾がなくなった途端、鬼の視線は一気に俺に集中しだした。

「おおおお前、これ全部俺にやらせる気か!? ふざけんなッ!!」

 いつの間にやら隣の家のブロック塀の上に足を組んで座っていやがる瑞葉に叫ぶ。

「るせーな。こっちは制限つきなんだよ」

「は!?」

 こっちが訊き返しても彼女は何も語らない。

 が

「お前、喧嘩に強いのだけが取り柄なんだろ?」

 なぜか彼女はそう言った。

「え……」


 なんで俺が喧嘩に強いなんてこと、あいつが知ってるんだ?


「って思ってる間に来たぁッ」

 1階の部屋から出てきた鬼が俺の元に飛び掛かってくる。

 けど、なんだろう。

 さっきのバスに乗ってた奴より動きがとろい。


 思い切って一発殴ると、そいつはすぐに霧散した。

「へ?」

 はっきり言って、手ごたえない。


「ひゅー、やるー」

 全くもって感情の篭っていない棒読みの歓声が隣から飛んでくる。

 けどそんな超適当な野次すら、今の俺を調子に乗らせるには十分だった。


「はっはっは! 神木町のオオカミとは俺のことさ!!」

 調子に乗った俺は次々と鬼どもを殴っていった。




 数分後。

「はっはっは……。どうだ、俺、強いだろう……」

 久しぶりの乱舞に息が上がってしまった。

「つーかなんだよ『神木町のオオカミ』って。ドウテイのくせして生意気名乗ってんじゃねえっつーの」

「ど……!?」

「さて、トリにいくか」

 瑞葉はそう言ってアパートの階段を登っていく。

「ちょっと待て! トリってなんだよ!?」

 あとなんで俺が童貞だって知ってるんだよ!?




 アパートの2階に上がってから気がついた。

 1番奥の部屋だけ、まだ扉が開いていないのだ。

「……なんだよ、あの部屋」

「あそこがバスの運転手の部屋なんだよ。今頃本人とそのガキは布団の中で夢でも見てんだろうが……」

 瑞葉はそう言って、ドアノブに手をかけた。

「元凶が残ってりゃ、また同じことの繰り返しだかんな」


 彼女がドアを引いた途端、勢いよく何かが部屋から飛び出した。

「うおあっつ!?」

 次の瞬間、感じたのは熱気。


「これが今回の元凶ってわけだ」


 宙に浮いているのは、炎に包まれた『何か』。

 いや、これもよく見たら鬼だ。


「火鬼、か。未練の念に惹かれたか」

 瑞葉はそうこぼしたかと思うと、右腕を宙に伸ばした。

 すると、あのときと同じように、彼女の腕は異形のそれへと変化する。

 そしてその腕が真っ赤な鬼へと伸ばされたそのとき。


「!!」

 鬼はその腕から逃れるように俺のほうへ飛んできた。


「ぅッ!?」

 鬼が俺の首にまとわりつく。

「……ッ!!」

 首が、またしても絞まっている。

 しかも今回は熱い。火傷しそうだ。


「久城!!」

 このとき初めて切羽詰った瑞葉の声を聞いた気がする。

 ……ひどい奴だと思ったけど、一応は人の血が通ってるんだな……。


「お前今なんか失礼なこと考えなかったかッ!?」

 瑞葉はそう叫びつつ、腕をこちらに伸ばした。


 水音が聞こえる。

 瑞葉の異形の腕が、水を纏っているのだ。

 それはまるで蛇のようにその腕に絡んでいて、そして俺の首にまとわりついていた赤鬼を取り込んだ。


『ーーーーッ!!!!』

 鬼の悲鳴だろうか。

 なんとも言えない声が聞こえたかと思うと、俺の首から熱がさっぱり消えた。

 と同時に狭まっていた気道が元に戻って肺に一気に空気が入る。


「ごほッごほっ」


 ……今日は2度も死にかけた……。


「還れ、餓鬼が」

 瑞葉がそうこぼした途端、その手の中で炎を纏った鬼は蒸発するように消えた。


「…………」

 嘘みたいに訪れる静寂。

 彼女の腕が、また人間のそれにすっと戻った。

 戻ったかと思うと、彼女は扉が開いたままになっていたアパートの一室へと踏み込んだ。

「え!? ちょ、そこ人ん家だろ!?」

 慌てて止めようと部屋を覗き込むと。


「……え?」


 明かりの灯っていない真っ暗な部屋に、不自然な光があった。

 部屋の奥。

 床に敷かれた布団の上に、男と幼い少年が横たわってすやすやと寝息を立てている。どうやら親子らしい。

 そしてその枕元。

 そこに座っているのは、白い光を放つ女。

 悲しげな、それでいて優しい瞳で、眠る親子を見守っていた。


「もういいだろ。あんたがここにいるとまた別の鬼が呼び寄せられる」

 瑞葉はその女にそう言った。

 すると彼女は、深く頭を下げた。

『ご迷惑を、お掛けしました』


 薄い声。

 肉声じゃ、ない。

 これは…………


『退治してくれてありがとう。ちゃんと、行きます』


 眠る2人に口付けを落としてから、女は光の粉となって消えた。


「……さっきのって、」

「霊に決まってんだろ」

 やっぱり!?

「詳しくは知らねーけど、夫と子供を残して先に逝っちまったみたいだな。でもこの2人が心配でここに留まってた、と」

「で、なんでそれがあの鬼と関係あるんだよ!?」

「ちったあ自分で考えろ。いちいち説明すんのタルいんだよ」

「巻き込んだくせに説明くらいしろよ!」

「勝手に巻き込まれたのはお前だろうが」


 彼女はそう言って踵を返し、つかつかとアパートの階段を降りていく。


「おい瑞葉!」

 その背中を追いかけて、階段を降りきると。


「……どうせ今説明しても、お前は明日忘れるんだ」

 彼女はぽつりと、そうこぼした。


「は?」

 その言葉の意味が分からなくて、首をかしげると。


「――小夜サヨ、仕事だ」

 その一声と共に、突然俺の目の前に白い何かが現れた。


「あーめんど。雑用で呼び出さないでくれる?」


 白い何か。

 それは女だった。

 薄く青みがかった銀の髪に、蛇のような金色の眼。

 病的なほど白い肌に、白が基調のヘンテコな着物を纏っていて、どうにも人ならざる者の香りがぷんぷんする。


「ていうかまたこのガキ? あんたも相当ついてないわね」

 俺に言っているのか瑞葉に言っているのか、ともかくも女は皮肉げにそう一笑したかと思うと。

「ばあーい」

 白い人差し指を銃口のように俺に向けて、何かを放った。


「!!」


 胸に、身体に、衝撃が走る。

 謎の光に撃ちぬかれた瞬間、俺の身体は一切言うことを効かなくなった。

「……ん、だ、これ」

 そのまま、倒れる身体。


 視界が狭まっていく。

 意識が飛ぶその寸前に、瑞葉が近づいてくるのが分かった。


「――オヤスミ」


 ……その言葉、前にも、聞いた……?


ヒロインがものくさなためいろんなことを説明していませんが後々ちゃんと説明が入りますので今は意味が分からなくても大丈夫です。すみません不親切で・・・・・・。


読んでくださっている数少ない読者の方々、ありがとうございます。

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