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E6-2:不器用アフタースクール

「へ? 直接教えてくれるのは木村先生なの?」

 放課後、例のプレハブに呼ばれた俺はそこでそんな告知を受けた。

「前にも言ったがお前と私じゃ根本が違いすぎる。保健医ならお前と同じ木の属だし、何にもないところから始めた境遇も似てるだろ」

 瑞葉の言葉に木村先生はおずおずと俺に言う。

「私じゃ不満だろうけどしばらくは我慢してね」

「え!? いや、不満なんて! む、むしろ光栄っす!」

「あらそう? そう言ってもらえると嬉しいわ」

 天使の微笑を返す先生。

 そうだぞ俺! ちょっと前まで雲の上だった木村先生に教えてもらえるなんてすごいラッキーじゃないか!

 ……なんか引っかかってるのは、ちょっと意外だったからで……。

 そこにコホンと瑞葉が割って入った。

「悪いが実戦に関しては私が監督する。もともと保健医はそっち向きじゃないからな」

 え。ああ、そういうことか。

「ははっ、なら最初からそう言えよ」

「……、順を追って説明しただけだ」

 不自然に瑞葉がそっぽを向いた。

「?」

 そこでなぜか先生が楽しそうに笑いを上げる。

「とりあえず、しばらくの間久城君は身体を休めておきなさい。基礎はそれからね」

「ういっす!」

「じゃあ私、まだ仕事残ってるから保健室に戻るわね。暗くならないうちに帰るのよー」

 ひらひらと手を振って木村先生は出て行った。


「あ、そうだ。俺タローさん捜そうと思ってたんだ。瑞葉、タローさんの居場所分かんない?」

 他力本願だが瑞葉に聞くのが1番早い。

「タローなら今ここにはいねーよ」

「え?」

「ハナコと旅行に出かけてった。仲直りを兼ねてるんだと」

 瑞葉の呆れ気味の返事に、脳内でなんとなくのイメージが沸いた。


 プールのトイレで、ボロボロになって倒れているタローさんをハナコさんが発見。

「タロー!? タロー! 一体どうしちまったんだよ!? 目を開けてくれよタロー!」

「……ああ、ハナコか……。ごめんよハナコ、こんなことになっちまって……。でもよ、お前の腕の中で死ねるなんて、俺は幸せだぜ……」

「馬鹿言ってんじゃないよ! 前に約束したじゃないか! 2人で隣町のトイレ巡りに行こうって! 忘れたのかい!?」

「……ハナコぉ……うう、覚えててくれたんだな……。俺はお前一筋だよぅ……う、嘘じゃないんだぁ」

「タロー……!」

「ハナコぉ……!」

 そしてハグ。アメリカ映画ならここでチュー。


「……みたいな?」

「どんだけベタな想像してんだよ。……あながち嘘じゃなさそうなのが怖いけどよ」

「だろ?」

 しかしそうなるとセキの妹の話が聞けなくなっちまった。

 後日改めるか……。


「そういえばさ」

「なんだようざいな早く帰れよ」

 ソファーにどっかりと座ってしっしと手を振る瑞葉。

「そう邪険にすんなよ。それともここでなんかすんの?」

「は?」

「いや、だって休みの日にまでここに来てたからさ。ここになんかあんのかと思って」

 そう考えるのは妥当だろう。部活ならともかく好き好んで土日にわざわざ学校に来る奴なんて……

「別に何もねーよ。家に居場所がないだけだ」

「……え……!?」

 家に居場所が……ない?

「…………あーー、お前今なんかこしょばゆいホームドラマ的な複雑な家庭環境思い描いただろ。ベタ過ぎ」

「なんだよ、違うのか?」

 瑞葉は面倒くさげに溜め息をついた。

「まあ、うちが普通じゃないのは否定しないけどよ、居場所がないってのはそういう意味じゃなくてガチでそのままの意味だよ。辛気臭い父親がいないのはいいが代わりに金食い虫の精霊が2人もいるんだぞ? しかもあの隠れアニヲタ馬鹿精霊、やたらテレビ占領するから目はチカチカするし歌回るしテラとかユスとか意味不明な単語連発されるし最悪だぞあの空間」

 ……瑞葉、饒舌だなあ。相当キテんのな。

「じゃあなんでここに来んの?」

「他にアテもねーし。『ダチがいないタイプ』だし?」

 ……こいつ、もしかして金髪ヘッドに言われたこと気にしてたのかな。ちょっと意外。

「アテがないんならいいとこ教えてやろうか? ぶらっと行けてぶらっと遊べるぞ」

「……なんだその言い回し。ローカル線の売り出し文句みたいでじじくさい。却下」

「じ、じじ!? 行く前から決め付けんなよ!」

「……そこまで言うなら行ってやっても構わねーけど、くだらなかったら殴るからな」

 瑞葉はそう言いつつ腰を上げてくれた。

「……ぐーはなしな? せめて平手な?」

「鬼で殴る」

「いやそれ死ぬって!?」




 ……と、言ってもまあこんな田舎じゃぶらつくような場所もそんなにない。

 学校帰りに徒歩で辿り着けるのはこの小さなショッピングモールくらいだ。

 以前は神木町商店街と呼ばれた場所だが、今はこの隣にあるスーパーの専門店街と化している。

 まあ、ぶっちゃけ中身は変わらないので並んでいる店はじいさんばあさんが営む老舗ばかり。駄菓子屋目当ての小学生ならともかく、今時の高校生が立ち寄るような場所でもないのだが、たまに掘り出し物が見つかったりするので俺は今でも好んでここに来る。


「…………おいこら久城。これのどこがじじくさくねえんだよてめえの目は節穴かそれともおつむが大正昭和か」

 そう言いながらゆらりと右腕を掲げる瑞葉。

「し、失礼だな! 見た目で判断すんなって! 意外とマジで楽しいんだぞ!?」

「どのへんが」

「ほらほらっ、見ろあの店! あの雑多で意味わかんねえ品揃え、最高だろ!?」

「ただの雑貨屋だろ。しかも店頭にでかでかと女もんの下着ぶら下げてんじゃねえよ」

「じゃあほら! あの古着屋! 古着以外にも中古CDとかゲームとか、果てはちょいレアな玩具類まで揃えてるんだぜマジすごくね!? ナウくね!?」

「どこのお宝市場だよしかも死語だぞ」

「!? お前なんでそんな都会にしかねえような店知ってんだ!?」

「知ってて悪いかようちの馬鹿精霊が私の貯金で勝手にネットで通販すんだよあの品揃えマジでムカつく死ねばいいのに」


 …………ちーん。


 そんな雑多な店店を前に、立ち尽くす俺と腕組の瑞葉。

 客の入りはちらほらだが、店の明かりはやっぱり明るい。

「……瑞葉ってああいうごちゃっとしたの嫌い系?」

「――強いて言えばな。そういうお前は好きそうだな」

「おう! だって見てて飽きないじゃん? 知らないもんがいっぱいあるんだぜ? わくわくするだろ!?」

 俺が握りこぶしでそう言うと、

「……お前のほうが見てて飽きねえよ」

 彼女は俺のガキっぽさを嗤うように、でも優しく、つまり、笑った。


 ――え。


「……なんだよ、間抜け面して」

「え!? いや、」


 あ、あれ?

 さっき笑った? あの瑞葉が?


「その、」


 あれ、なんか俺動転してる?

 だって、こいつが笑うとか相当レアっつーか今まで見たことないっつーかその。

 ……悔しいけど、なんか、こう……ぐ


 ――ぐう。きゅるるる。


「腹減ったな! たこ焼き食おうぜたこ焼き! たこ焼きサイコーッ!」

 あまりに豪快に鳴った腹の音と、呆けてしまった間を誤魔化すように、わざとでかい声でソースの香りが漂う屋台をビシリと指差す。

「……何でお前そんなテンション高いんだよ」

「そ、そんなことないぞ! おばちゃんたこ焼き2つ!」

 顔馴染みの屋台のおばちゃんに注文すると、

「はい、2つねー。あらま! 兄ちゃん、今日は女の子連れてるやん! もしかしてカノジョさん?」

 え……!?

「えらいべっぴんさんやんかあ! 兄ちゃんも隅に置けへんわあ。でもうちの店に若いアベックが来るなんて何年ぶりやろ。なんや嬉しいわあ」

 あ、あべっく!?

「嬉しいからちょっとおまけしとくわ。また来てや!」

 おばさんは始終にこにこしてたこ焼きを2包み渡してくれた。




 とりあえず適当なベンチに腰掛けて落ち着いてみる。

「なんか盛大に勘違いされたけどおまけしてもらえたのはラッキーだったな。な?」

 瑞葉の機嫌を損ねていないかどきどきしつつ横を見ると、瑞葉は案外普通に「そうだな」と返した。

「ほい、たこ焼き」

 ほっとしつつ1パックを差し出すと

「お前両方食えよ。私あんまりお腹減ってない」

「ええ!? もう18時だぞ? 普通減るだろ?」

「お前と一緒にすんな。それともまた口に押し込んでほしいのか?」

 瑞葉がどこか意地悪げに言う。

「い、いや、それは遠慮シマス」

「ならさっさと食え。冷めるぞ」

 ……そう言われてもなあ。


「おい瑞葉」

 向かい側の店舗を眺めはじめていた瑞葉に声をかける。

「なんだよ……」

 彼女が面倒くさげに振り返ったところで

「む!?」


 ……へっへっへ、たこ焼き1個押し込んでやったぜ。


「……っ、……」

 瑞葉はたこ焼きの熱さにやられたのか若干涙目で俺をにらみつつ、とりあえず飲み込んでから

「……いい度胸してんなコラ、私が猫舌だと知っての暴挙か、アぁ?」

 ……ものすごい黒いオーラで怒ってますよォ!?

「あ、いやワリ、猫舌ってのは初情報ですよね? いや全然悪気があったわけじゃなく全部俺が食べるのも申し訳ないかなーとか昼の仕返し……じゃなかった御礼というか!?」

「あー、そう? じゃあこっちも返してやるよ、貸せ」

「ひい!?」

 ひったくられるたこ焼き2パック。

 そしてぶすぶすと爪楊枝に刺されていく串刺しだんごのようなたこ焼きだんご。

「さあほら食わせてやるから口を開けろ、あアん!?」

「いやあのちょっとその量一気に入らないっつーかそこ『あアん』じゃなくて『あーん』だよ普通ってか多分口内火傷で死ぬってらめええええええぐぼほ!?」




 マジで昇天しかけたとき、俺の聴覚は一時的に研ぎ澄まされたらしい。

 こんなたこ焼き屋のおばちゃんの声が聞こえた。

「ちょっと見てえや父ちゃん! あのアベックたこ焼き食べさせあいっこしてるで! ラブラブやん!」

「ほんまやあ! ええもん見せてもろたなあ〜。ヒュウヒュウ〜〜!」

「父ちゃん、ヒュウヒュウ〜は死語やで、多分」

「そんなこというたらアベックも死語じゃい!」

「あっはっは!」

「あっはっは!」



 ……あっはっは。楽しそうっすね。

 なんて思いながら、涙でふやけた視界の中に


 ――――あ……。


 俺の昇天顔を見て、少し申し訳なさそうに、けれど可笑しそうに笑う瑞葉がいた。


 ……あー、いやほんと。

 参るな、その顔。


また遅筆ですみません。

いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。

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