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E4-5:白昼ナイトメア

 目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。

「……あ、やべ」

 まだ重い瞼をこする。


 時刻はもう午後7時。

 教室には当然、誰もいない。

 昨日は徹夜だったから、日中眠気に耐えられなくて、結局教室掃除が終わった後からずっと自分の席で居眠っていたことになる。


 ほとんど1日寝ていたというのにどうも頭がすっきりしない。

 さっさと家に帰ってちゃんとベッドで寝よう。

 そう思って横にかかっている鞄に手をかけたその時――


 カラリと、教室の扉が開いた。

「あ」

 暗い室内でも、入ってきた人物が誰なのか俺にはすぐ分かった。

「瑞葉?」

 彼女は返事はせず、その代わりこちらに歩いてきて俺の前の席に座った。

「お前こんな時間まで寝てたわけ?」

 頬杖をついて、呆れたように尋ねてくる。

 彼女から話しかけてくるなんて、今日は機嫌がいいんだろうか?

「気付いたらこんな時間だった」

「授業中も散々居眠って怒られてたくせに」

「だって睡魔には勝てねーしさー」

「んな眠いなら学校休めよ」

「サボりはしないって月子先生との約束だから」

「? んな教師いたか?」

「あ、中学のときの先生な」

「ふーん……」

 会話がそこでなぜか途切れた。

 なんとなくだが瑞葉の機嫌が悪くなった気がして俺は慌てて話題を替えた。

「瑞葉はなんでまだ学校にいるんだ? お前部活入ってなかったよな?」

「いたら悪いかよ」

 ……う。やっぱ機嫌悪い?

 俺なんかまずいこと言ったかなー……

「――ウソ」

「へ?」

「お前が起きるの待ってた」

 彼女の不意打ち発言に、思わず胸が高鳴った。

「え、なん、でィっ?」

 額に軽く手刀が飛んでくる。

「言わせるか? フツー」

 瑞葉の指先はそのまま俺の喉元まで下りた。


 まるで喉元に銃口を突きつけられてるみたいな感覚。

 けど覚えるのは恐怖じゃなくて、もっと別の、そう、どこか期待が入り混じった、そんな複雑な感情だった。


 思わず喉が鳴ると、瑞葉はそれを見透かして艶やかに笑う。

 そして、まるで猫でもじゃらすように俺の喉をくすぐり始めた。

「あの、ちょ……」

 困惑半分、気持ちよさ半分の声を上げる。

「ん?」

 瑞葉は適当に流すだけで、手を動かすのをやめない。

 そして、その指は着実に下に下がっていって、

「ッ」

 俺のウィークポイントである鎖骨に至った。

「――お前ほんとに弱いのな、ここ」

 瑞葉はからかうように言う。

 思わず目を瞑ってしまった自分が恥ずかしい。

「み、瑞葉だって弱いとこの1つや2つあるだろ!」

 俺が躍起になって言い返すと、

「なら探してみるか?」

 彼女はあくまで挑発的に、そう言い放った。


 え。え。

 探してみるかって……


「ってこら! 何制服に手かけてんだ!」

 目の前の光景を見て思わず眠気が吹っ飛んだ。

 瑞葉が制服の上着を脱ぎ始めたのだ。

「だって服の上からじゃ分かりにくいだろ?」

 さも当然とばかりに瑞葉はさっと上着を脱いで、さらに

「ちょ! ちょっと待った!!」

 白いシャツのボタンにまで手をかけ始めたので思わず彼女の手を掴んで止めた。

 ……のだが


「!」

 …………や、わらかい……


 って! 勢い余って胸タッチになってる場合じゃねーよ!!


「な、なんか、変だぞ! これ夢!? 夢だろ! そうだ! 夢だ!!」

 だとしたらこの変な状況に説明がつく。

「? お前何寝ぼけたこと……」

「寝ぼけてない!! 瑞葉はこんなことしない!!」

 俺は掴んだ手を強引に引き上げた。

「っ」


 そして、彼女の形をしたそれを睨む。

「お前、誰だよ」


 眼を丸くしたそいつは、しばし動きを止めた。

 そして。


「…………君も単純には堕ちないねえ」

 目の前のそいつは、一瞬で顔を変えた。

 白い服の妖艶な女――あの夢魔だ。


「仕方がない、君もしばらく調教してあげよう」

「!」

 今度は女が俺の腕を強く引いた。

 想像以上の怪力になす術もなく転ばされる。


「ッ!」

 って馬乗りすんなこのふたなり悪魔がーーー!!


「さてどこから攻めようかな? 男性を相手にするのは実に久しぶりでなんだか心が躍るねえ」

 勝手に踊ってんじゃねー!!


 抵抗しようと拳を突き出すが、奴には避けられてもいないのに拳が届かなかった。

「!?」

「無駄無駄。だってここは私が支配する夢の世界なんだよ? 君の自由は最初から叶わない」

 なんだとーーーー!!


 ちょっと待て!

 じゃあなんだ!? 俺はこんなとこでこんな奴のいいようにされるのか!?

 例え夢でもそんなの絶対嫌だ!!


 ……って、ちょっと待て。

 じゃあ、瑞葉も同じ状況なのか?


「…………」


 …………あ、やばい。

 目の前が真っ暗だ。


 前にも、こんなことがあった。

 神経が、視界にいかないんだ。

 代わりに別のところに、エネルギーが回りはじめる。


『私の――……、だから』


 触れさせるわけにはいかない。

 侵させてはならない。


 だって、俺は――


『私が死ぬまで、私のものになってくれ。久城』


 彼女と、そう、約束した。



「――――ッ!!」

 手を伸ばす。

 決して届かないはずの奴の喉もとに、今度はしっかりとそれは届いた。

「な」

 女は苦悶の表情を見せる。

「ここがお前の支配する夢の世界ってのは嘘だよな」

 逆に馬乗りになって、俺は吐き捨てた。

「ここは俺の夢の中で、お前はただの幻覚だ」


 要するに、奴に攻撃が効かないなんていうのは、暗示だったんだ。


 そう言った途端、辺りの景色は一転した。



 * * *

「――まさか、一般人に破られるとは思わなかったね」

 そこは元の屋敷の一室。

 目の前にはやや引きつった笑みを浮かべる妖艶な女が立っていた。


 変な術は破った。

 けど奴を仕留めるにはどうしたらいい?


「どうやって私を消そうかと考えているね? しかし無理だよ君には。異形には異形を以って挑まなくては」

 奴は俺の考えを見透かすように言った。

「確かに君は、ただの人間とは一線を画す何かを持っているようだが、何も知らなさ過ぎる。そんな状態でここに乗り込むのは自殺行為だと思わなかった?」

 ……何も言えない。

 同じことを木村先生に言われたが、それを押し切ってここまで来たんだ。

「まあ、今更悔やんでも仕方のないことだろう。申し訳ないが君は口封じさせてもらうよ。私は少し余計なことを喋ってしまった」

 女はそう嗤うと、ゆっくりと一歩、歩み出た。


 ――殺気。殺気だ。

 痛いというよりも、ヒヤリと冷たい静かな殺気。

 奴は確実に俺を殺すつもりだ。


 じり、と一歩足を引いた瞬間、奴の手が俺に向かって伸びて


「――――!!」



 刹那、奴は横殴りに吹っ飛んだ。


「――――あ」


 奴を容赦なく吹っ飛ばしたのは紛れもない異形の腕。

 瑞葉だった。


 派手に壁にぶつかった夢魔はきっ、と彼女をにらんだ。

「最近は暴力的な女が多いことで」

「黙れ淫乱。殴り殺すぞ」


 ……異形は異形を以ってって……殴り殺すのはアリなんだ?


 そう考えている間に瑞葉は容赦なく腕を伸ばし奴の首を掴んだ。

「……ッ」

 そのまま凶行に移るのかと思いきや

「――答えろ。貴様は誰の命令で動いていた」

 瑞葉は夢魔に、そんなことを問うた。


 しかし奴は、嗤うだけ。

「……重要なのは、そこじゃない」


 私にとっては、快楽に浸ることこそが、存在意義だったのだ。


 それが夢魔の、最期の言葉だった。




 * * *

「瑞葉、大丈夫だったか?」

 俺の言葉に、彼女は『はあ?』とでも言いたげに怪訝な顔をした。

「お前こそ足手まといのくせに丸腰で乗り込んでくんなこのマヌケ」

「丸腰で乗り込んでよく無事だったなって言いたいんだよな?」

「……!?」

 瑞葉が目をぱちぱちしている。

 何か俺、切り返し方を覚えてきたぞ。

 ……いや、思い出してきた、のか?


「なあ、瑞葉」

「んだよ」

「夢魔に変なことされなかったか?」

「!?」

 ごふッ!?

 なんで俺が殴られる!?

「いきなり変なこと訊くなこの変態ッ」

「し、心配して訊いただけだろ! なんで変態呼ばわりされなきゃなんねーんだよ!」

「訊かれて私が一部始終をきめこまやかに答えるとでも思ってんのかあァ!?」

 ……た、確かにそれは、ない、な。

 ……ん? いや待てよ。その言い方だと。

「……あったのか、一部始終……」

「!? あるわけないだろッ! あんなちゃちな幻覚、すぐ偽物だって分かったっつーの!」

 瑞葉にしてはなんだか妙に動揺している気がするが、まあ俺程度で見破れた幻覚だ。瑞葉に破れないことはないだろう。


「なあ、瑞葉」

「今度はなんだよしつこいな」

「いや、あのさ。俺、前にお前と……」

 そう尋ねかけたその時。


「オオカミぃぃぃぃーーーー!!」


 そんな怒声と共に、金髪が部屋に入ってきた。

 入ってきたかと思うとズカズカと俺ににじり寄る。

「!? な、なんだよ!?」

 金髪は、それこそ怒った顔だったが、さらに口を開こうとして急に躊躇いがちに伏目になった。

「な、なんだよ? あの男なら瑞葉がやっつけてくれたからもう解決だぞ?」

「そ、その話じゃない!」

「? だったら何の……」

「と! とぼけたって無駄だよ!」

「? ?」


「わ、私を口説いた責任! とってもらうよ!!」


 ……。

 …………。

 ……………はいいいいいいいい!?



そろそろ私も必死です色んな意味で。

このあたりから話を転がして行けたらなと思っております。


いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。

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