E4-4:特攻ホーンテッドハウス
俺が全力疾走でイケメン男の屋敷前に辿り着くと、そこには既に金髪ヘッドと鉄パイプ女がいた。
「なんでお前らここにいるんだ!?」
「それはこっちの台詞だよ! まだ昼間じゃないか」
俺がこの時間に来るとは思っていなかったのだろう、金髪は目を丸くしているが、それとは別にどこかそわそわしているのが分かった。
「何かあったのか?」
「いや、ちょっと前屋敷の中から変な音が聞こえてさ」
「変な音?」
「がしゃーんって感じの派手な音でしたよ」
――瑞葉の奴、もう乗り込んでるんだ。
「お前らここに残ってろよ、俺、中見てくるから!」
「え、ちょっとオオカミ!?」
屋敷の門に鍵はかかっていない。
何を考えることもなく、正面から入ることにした。
色んな意味で趣味サイアクな玄関扉を開け放つ。
広がったのは無人のロビー。
「おーい! 瑞葉ー!!」
呼んでも彼女は返事などしないだろうが、それでもこの屋敷の中にいれば俺が来たことが分かるだろう。
「……て」
分かったところで何がどうなるんだ!?
ていうか俺は何をしたらいいんだ!?
「やっべ考えてなかった!」
思わず入ってきた扉のほうを振り返ると
「何を考えてなかったって?」
「まさか作戦もなしに乗り込んだんですかー? 頭わるーい」
金髪ヘッドと鉄パイプ女がそこにいた。
「ちょ、お前ら入ってくんなよ!」
「はあ? 昨日の段取りじゃあ3人でリンチかけようって話だったじゃないか」
「フルボッコの練習だってしてきたんですよ?」
確かにそうだったけど!
「だから! 事情が変わったんだって! いいか、よく聞けよ……」
2人を説き伏せようと言葉を探すが、気の利いた嘘が思いつかない。
相手は人間じゃないなんて言ったって、こいつら絶対信じないだろうし……。
「どういうことさ?」
「はっきり言ってくださいよ」
2人が段々と痺れを切らしてきたのが空気で分かる。
「だから――」
俺がもたもたしていると。
「今日は客人が多いな」
静かなロビーに、低い男の声が響いた。
「!!」
正面の階段からゆったりとした足取りで降りてきたのは白いスーツ姿の優男。
キザったらしい格好だが、それを着こなせるだけのプロポーションを十分に兼ね備えている。
時代錯誤なオールバックのくせにそれがこの上なくカッチリと似合っているものだから何も言えない。顔もこれまた憎たらしいくらいに整ったパーツが貼り付いていて、正直絵画かなにかを見ている気分になる。
――要するに。
「確かにイケメンって言われるのもわかりますけどー」
オトコニキョウミナイ発言をしていた鉄パイプ女ですらも悔しげにそうこぼしたほどなのだ。
「お褒めに預かり光栄だよ、レイディ?」
れ、れいでぃ?
「ほ、褒めてないですー! 姐さまこいつきもいー!!」
鉄パイプ女は逃げるように金髪ヘッドの後ろに隠れた。
「ちょっとあんた! 町中の女をたぶらかして何のつもりだい?」
金髪ヘッドは一歩前に踏み出して叫んだ。
「たぶらかす、とは人聞きの悪い。私はただこの町の女性の満たされない心を埋めているだけなんだけどね」
男はわざとらしく肩をすくめた。
「は!? とにかくうちのメグを返してもらうよ! どこにいるんだい!!」
「メグ……ああ、あの子か。あの子なら今頃夢の中かな。けど駄目だよブロンドのレイディ。彼女達にはまだやってもらわないといけないことがあるんだ」
「なんの話を……」
話が読めずに困惑する金髪に、男は優しくこう言った。
「君達にも手伝ってもらおうかな。何、悪いことなんて1つもない話さ。君達はただ、夢を見ているだけでいいんだからさ」
「――!!」
途端、空気が張り詰めた。
「やる気かい!? 上等だ!!」
金髪ヘッドが臆せず飛び出す。
「ちょっとま」
俺の制止なんてあいつは聞いちゃいない。
「食らいなッ!」
金髪が男に向かって球状の何かを投げつけた。
「?」
男は軽く横に動いただけでそれをかわしたが、地面に当たって爆ぜたその玉の内容物は思いのほか派手に飛び散って
「!」
男の靴と地面をくっつけた。
「……接着剤、だと?」
男の動きを止めた金髪はにやりと笑って男に拳を振るう。
「ッ」
一発、メキっと決まってしまった。
……意外といけるんじゃね?
そう、思いかけたのもつかの間。
「!」
奴の、動かせないはずの足がバリっと音を立てて剥がれたのが分かった。
そのままその脚は宙に上がる。
「危ない!」
思わず両者の間に入る。
「――ッ」
間もなく、容赦ない男の蹴りが腹に直撃。
その勢いで金髪を巻き込んでふっとばされた。
「――――ごふっ」
肺から空気がどっとこぼれる。
……あの野郎、本気で蹴りやがった。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫かい?」
「……へーきへーき」
「全然平気そうじゃないよ! 顔色悪いじゃないか!」
確かにちょっと肋骨いったかもしれないが、心配そうに声を掛ける金髪のほうこそ顔が蒼い。
蹴りひとつでここまで破壊力があるとは思わなかったのだろう。
「おや失敬。どうも加減が出来なくてね」
いけしゃあしゃあと奴は言うが、あれは絶対顔を殴られて一瞬本気で怒ったに違いない。多分そうだ。
「……ッ、やってくれるじゃないか」
金髪が再び立ち上がる。
が、その手は微かに、本当に微かに震えていた。
「君のほうこそ仕掛けまで用意して会いに来てくれたとは光栄だよ? それに拳もなかなかだった」
男は殴られた頬をさすりつつ嗤った。
「けどそろそろ眠りの時間だね」
「!?」
次の瞬間、金髪ヘッドは前触れもなくその場に倒れた。
「――な」
何をされたわけでもない。
ただ、奴と目を合わせただけなのだ。
「姐様!?」
鉄パイプ女が金髪ヘッドを慌てて揺さぶるが、彼女は深い眠りに陥っているようで目を覚まさない。
「てめえッ! 姐様に何をしたァッ!!」
冗談抜きに鬼のような形相で男を睨み付ける鉄パイプ。
「おっと、可愛い顔が台無しだよレイディ」
男はしれっとそう言って再びその視線を彼女と合わせた。
が、
「――ああ、この手の娘は少し難しいな」
ものの数秒でふと残念そうにそうこぼした。
……あれってつまりあの怪しげな術はこの子には効かないってことだよな?
理由はともかく。
「おい鉄パイプ! そいつ背負って外に出ろ!」
「ハァ!? 馬鹿言ってんじゃねーよ姐様の仇前にして尻尾巻いて逃げろってのか!?」
「その大事な姐様の安全が第一だろ!? いいから外に出ろ!!」
「……ッ!」
俺の言葉に一応は納得したのか、鉄パイプ女は悔しげな形相のまま金髪ヘッドを抱え始めた。
半ばのろのろと、それでも外に出て行った2人を確認して、俺は奴と向かい合う。
「おい。瑞葉はどこだ」
「瑞葉? さてどの子だったかな」
「今朝乗り込んできただろ!!」
俺が声を荒げると、奴はああと納得したように頷いた。
「あの鬼の腕の子だね。上にいるよ。どうも堕ちるのに抵抗してるみたいで調教中だけどね」
……!?
「ちょ、なんだよそのちょ、調教って!」
俺の頭が馬鹿なせいかもしれないがその言葉を聞いたらなんだかアブナイことしか思いつかない。
「知りたい? だったら君にも特別、教えてあげようか」
「ッ、いらねーよこんちくしょー!!」
そのまま駆け出す。
俺は金髪みたいに小道具も何も用意してない。
ただ無防備に、馬鹿みたいに前に向かって走る。
「無駄なことを」
男は怖気ず堂々と立ったまま。
俺は拳を固めて――
「!?」
奴の脇をかいくぐった。
一目散に階段を駆け上がって、2階へ上がる。
2階はまるでホテルのフロアのように似たような扉が並んでいた。
瑞葉がどの部屋にいるかなんてわからない。
が、1つだけ扉が半開きになっている部屋があって、俺は何も考えずにそこを目指した。
「瑞葉ッ!!」
部屋に入ると、そこには何か機械的なものの残骸と、その傍らで壁にもたれかかるように倒れている少女の姿が目に入った。
ここからじゃ顔は見えないがあのセミロングの髪は間違いなく瑞葉だった。
「瑞葉っ」
彼女に駆け寄ろうとしたら
「そこまで、だ」
いつの間に追い越されたのか、俺の目の前に白いスーツのあの男が現れた。
「ッ」
ガシリと首元を掴まれる。
「彼女にはあの装置を壊された分、しっかり補ってもらわないと困るんだ。調教が終わるまで起こしてもらっては困るなあ」
「なに、を、おぎな……」
「言ってみれば生命力、かな。あちらの都合で女性のもの限定だったんだが、しかし君もなかなかいいものを持っていそうだ。試しに搾取してみたい」
次の瞬間、俺は目を見張った。
男の顔が、一瞬で変化したのだ。
いや、顔だけじゃない。腕も、身体も全部、女のものに。
妖艶な女は、その妖しい眼で俺を射抜いた。
「――!」
途端、がくんと崩れる身体。
意識が上に引き剥がされるように消えていく。
「――良い夢を、坊や」
女は優しくそう言った。
なんか意識断絶で話が切れる話が多い気がするのは私の気のせいではないのでしょう(←)。
なんかまだ迷走してる感ありありですが更新頑張ります。
いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。