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E4-2:波乱のミッドナイトⅡ

「…………ってー」

 肩がじんじんする。

 痛いというより痺れる感じ。

 まあ、女子の腕力じゃこれくらいか。


「…………」

 すぐ目の前の瑞葉は、目を丸くしていた。

 何が起こったのかまだ理解できていないような顔だ。


「……ぁ」

 カランと、鉄パイプが地に落ちる音がした。

 と同時に、

「マミ! なんてことするんだ!」

 ぴしゃりと、金髪ヘッドの怒声が響いた。

「……う、だって、姐様が負けるなんて……許せなかったから……」

「負けは負けだよ! 相手の油断を狙って鉄パイプで殴りつけるなんて言語道断!」

「……ぅううう」

「泣いても駄目!! 今度やったら出てってもらうよ!」

「うわああああんそれだけは嫌ですぅううううう」


 ……なんだあれ。


 俺が呆けていると、金髪ヘッドが俺と瑞葉の前に正座した。

「……すまなかった。うちのもんが卑怯な真似をして」

 そして、頭を下げる。

 完全に土下座だった。


「……いや、別に。怪我は特にないし……な?」

 俺が瑞葉のほうを振り返ると。

「…………」

 なぜか、彼女はすごく不機嫌な顔をしていた。

 それこそ世界が終わりそうなくらい。


「……当然か。自分の男が殴られていい気になる女なんていないからね」

 金髪ヘッドは勝手にそう悟っているが

「誰が、誰の、男で女だ」

 瑞葉はより一層不機嫌にそう吐き捨てて立ち上がった。

 俺も慌てて立ち上がる。


「あ! ちょっと待ってくれよ!」

 するとやっぱり、金髪ヘッドが呼び止めた。


「まだ何かあるのか?」

 出来ればさっさとこの場を離れたい。

 結構な爆音だったから、下手すると警察が来るかもしれないのだ。


 が、彼女はどこか切羽詰った顔で俺たちを見つめていた。

 そして。

「お前達に、頼みがあるんだ」




 * * *

 娯楽施設が極端に少ないこの街にも、昔はカラオケボックスというものが存在していたのだ。

 けどそれも3年ほど前に潰れた。

 確か1年と持たなかったと記憶している。


 その潰れたカラオケの建物が未だ取り壊されずに放置されていたのは知っていたが、まさかそこがレディースのたまり場になっていたとは。


「まあ座りなよ」

 旧カラオケのフロントにあるソファーに、言われるまま俺は腰掛けた。瑞葉はというと腰は下ろさずソファーのへりにもたれて腕を組んでいる。

 金髪ヘッドは一瞬苦笑したが、すぐに本題に入った。


「実はね、今うちのもんが1人悪い男に引っかかってんだよ。それをどうにかしたいんだが……」

「ってなんだよそれ。めっちゃ内輪ごとじゃないか」

 思わず手も入れてつっこむと、いやいやと金髪ヘッドは頭を振った。

「私だって普通ならこの程度のこと、直接出向いて何とかするさ。けど今回のは相手がね……」

 ……?

「相手が相当強いのか?」

「……ん、まあそれもあるんだが……それだけじゃなくて……」

 金髪ヘッドはどこか言葉を濁す。

 言うのを躊躇っているような、照れているような、なんとも言えない表情だ。

「なんなんだよ?」

 促すと、彼女の後ろにいた子分の女が顔を赤くして言い放った。


「あいつ、ヤバいくらいイケメンなんだって!!」


 …………は?


 呆気にとられている俺をよそに、口々に喋りだす女たち。

「ほんと、チョーやばいんだって! 見られただけで子供できそうなくらい!」

 いや、出来ないだろ。

「あいつの周りいっつも女がゴロゴロしてんだよ! 何人も侍らしやがってムカつくっつーかそれを通り越して混ざりたいっつーか」

「ちょ、ミユキてめえ何言ってやがんだよ抜け駆けする気か!?」

「るせっ! アンタこそ前からメグのこと羨ましがってたじゃねーかよ!」


 ……。

 …………。


「…………てなわけさ。女だとどいつもこいつもこんな風になっちまうから困ってるんだ」

 金髪ヘッドは溜め息混じりにそうこぼした。するとどこからか例の鉄パイプ女がモップを持って現れた。

「大丈夫ですわ姐様! マミは男に興味なんてありません! 姐様だけを想って生きてますわ!」

「……マミ、罰のトイレ掃除まだ終わってないだろ?」

「……はいぃ」

 しょんぼりとした背中で戻っていく鉄パイプ女。

 ってかさっきのはさっきので何か問題なかったか?


「とまあ真面目な話、私とマミくらいしかまともに動けないわけだよ。あの優男、腕も相当立つみたいでね、過去に女を寝取られた男共が何人も挑んだらしいんだが、どいつもこいつも返り討ちにされたとか」


 ……ま、まじか。

 ひでえ。まじでひどいなそれ。


「分かった、俺でいいなら協力するぜ」


 ていうかどれくらいイケメンなのかいっぺん見てみたい。

 そして一発殴りたい。

 三次元にハーレムなんて存在してたまるかコンチクショォー!


「ほんとか!? ありがたいよ」

 金髪ヘッドの顔が綻ぶ。

 ……意外だが、笑うと結構幼い顔になる奴だ。厚化粧なせいか年齢が読めないが、もしかしたら俺たちとそんなに変わらないのかもしれない。

「あんたはどうだい?」

 金髪ヘッドは期待の眼差しで瑞葉の答えを促した。

 が

「――パス」

 彼女はただ一言そう言って、踵を返した。


「え、ちょ、瑞葉!? 殴りたくないかそのハーレム男! 女として!」

「知るか。大体な、相手がどんな奴だろうが溺れるのはそいつの自由だろ。他人がとやかく言う筋合いはない」

 瑞葉はそっけなく、しかし諌めるようにそう言った。

 が

「……確かにそうかもしれない。けど私は、ダチが悪い男にひっかかって弄ばれるのは我慢ならないんだよ」

 金髪ヘッドはそう言い切った。


 両者、しばしにらみ合う。

 まるで虎と龍みたいだ。

 ちなみに虎は金髪のほうね。黄色いから。


「お、俺も金髪の意見に賛成……」

「馬鹿なガキは黙ってろ」

「馬鹿なガキ!?」

「他人の色恋沙汰に踏み込めるほど経験ねえだろ」

「あ、あるし! あるもん!」

 しかしやっぱり瑞葉には鼻で嗤われて。

「もう1度言うぞ、金髪。ダチだかなんだか知らねえけど、要するにそいつはお前らをほっぽらかしてその男に走ってんだろ? そんな奴を連れ戻す価値があるのか?」

 瑞葉は金髪に問う。

 金髪は一瞬、顔をこわばらせた。

 ――が、すぐに口元を緩める。

「……あんた、ダチがいないタイプだね」

 ……うっわー、すごいこと言うなー。

 まあ確かに瑞葉ってクラスでも浮いてるけどさー。

「私は最初から、羅武危機ラブクライシスのメンバーとしてあの子を連れ戻すつもりはない。メグは中学ん時からの親友なんだ。それだけだよ」

 それを聞いた瑞葉は

「……勝手にしろ」

 それだけ言って、建物から出て行った。



「悪かったね、オオカミ。私は別にあんたを拘束するつもりはないよ。あいつみたいにパスしたっていい」

「い、いや! 男に二言はない! 俺は手伝う」

 すると、金髪はほっとした笑みを見せた。

「そうかい。……正直ちょっと不安だったんだ。あんたがいてくれて助かるよ」

 俺のことを信頼しきってる、そんな笑み。

「お、おう」

 ……なんか照れるじゃねえかよくそぅ。

 こいつのスマイル、木村先生と案外良い勝負かもしれん。


 照れ隠しに、瑞葉が出て行った出口のほうをふと眺める。

「……瑞葉の奴、きびしーよな」

「そういう奴なんだろ? あいつの言うことも筋は通ってるから、別に恨みはしないけどさ」


 でも、何か少し引っかかった。

 あいつなら、手伝ってくれそうな気がしたんだ。

 なんでそう思ったのかは、自分でも分からないけど。




 * * *

「おかえりなさい! 茨乃姫さま!」

 深夜――それも明け方近く、そんな時間に帰宅した主人を、それでも彼は笑顔で出迎えた。

「まだ起きてたのか、闇里アンリ

「はい! 僕はここから動けないので、せめて姫さまがお戻りになるまでは起きていようと、姉さんと一緒に深夜番組を鑑賞しながらお帰りをお待ちしてました!」

 闇里と呼ばれた青白い髪の少年は、眠気を全く感じさせないハツラツとした表情で答えた。

 おそらくは教育上よろしくない目の冴えるような番組でも見ていたのだろうが、茨乃はあえてそこには触れず、

「なら小夜も起きてるんだな」

「え、あ、はい。リビングにいますけど……」

 それだけ聞いて、彼女は真っ直ぐリビングへと向かった。


「おい、このクソ馬鹿女」

 部屋に入るなり、彼女はそんな言葉を吐き捨てる。

「あんたさー、仮にも瑞葉のお嬢なんだからさー、その言葉遣いなんとかなんないわけー?」

 そう返す女も女で床にだらしなく寝転がっていた。

 寝転がっているだけならまだしも女の服は妙ちくりんながらも和装だ。そんな格好でだらだらと床に寝転がれば着崩れるのは当然で、脚はおろか胸まで大いにはだけてしまっているが本人はとんと気にしていない。

「なんで命令を守らない」

「だって別に私、あんたの守護精霊でもなんでもないしー」

「お前達の本体は瑞葉の家にあるんだぞ」

 茨乃が低い声でそう言うと、小夜は薄く嗤った。

「脅そうったって無駄よ? あんたの父親は中途半端なところで私たちを壊せない。私には役目があるもの」

 茨乃は溜め息をつく。

「……お前にとったら今の状況のほうが好都合なんだろうな」

 再びごろりと転がって、小夜は茨乃を見上げた。

「苦しい?」

 無邪気な顔で、彼女は尋ねる。

「…………痛いよ」

 茨乃はそのまま自室へと足を向けた。



「あ、あの! 茨乃姫様!!」

 自室に戻ろうとした彼女を、闇里が呼び止めた。

「あの……姉さんが勝手なことしたならすみません。僕が謝ります」

「謝るくらいならお前の馬鹿姉を私の言うとおりに動くよう説得してくれ」

 半ば諦観が篭もった溜め息を吐きつつ茨乃が言うと

「それは、無理です」

 遠慮がちながら、しかしはっきりと彼は答えた。

「姉さんと意図は違うかもしれないけど、僕も彼の記憶は置いておいてほしい、です」

「…………なんで」

「きっと、そのほうがいいからです」

「答えになってない」

 会話を打ち切るように、茨乃はバタンと扉を閉めた。



 やれやれと、茨乃はベッドに横になる。


 今日はもううんざりだ。

 無理はしたし、ずぶ濡れるし、変な女と乱闘になるし。

 それに。


「……いちいち厄介なことに巻き込まれてんじゃねーよ、馬鹿」


 ここにいない相手に、彼女は秘かに毒づいた。


更新遅くてすみません(←いつも言ってる気がする)

もうちょいスピードアップできるよう頑張ります(当社比)。

いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。

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