悪役イメージのある三匹の動物、イメージ払拭に動きます
「俺らってさ……悪役イメージあるよな」
三匹のうち、蛇が言った。
「まあな……」
狼がうなずく。
「その通りなんだけど、意識するとなんかへこむな」
ハイエナはため息をついた。
どんよりとした空気が漂う中、蛇が切り出す。
「俺なんて、アダムとイブの頃から悪役よ? 二人をそそのかして知恵の実を食わせて……って、下手すりゃ世界最古の悪役じゃねえかな……」
狼も話に乗る。
「オレだって童話じゃ悪役の常連だぜ。子豚を食おうとしたり、ヤギの子供を食おうとしたり、赤ずきんちゃんを食おうとしたり……」
ハイエナも不満を口にする。
「おれもすっかり“横取り”の代名詞みたいにされちまって……ちゃんと自分で獲物を狩ってるっつーの! ライオンのがよっぽど横取り野郎だわ!」
蛇が舌をチロチロ動かす。
「でもま、蛇や蛇モチーフのキャラがいい役与えられてる作品も多いんだけどな。蛇って神秘的なイメージも強いし」
狼も得意げな顔になる。
「まあな。狼だって“一匹狼”みたいなキャラは人気出るし、最近じゃ“もふもふ”な需要もあるみたいだ」
しかし、ハイエナは――
「いいよな、お前ら。ハイエナなんてマジでそういうのねえぞ。だいたい狡猾なキャラか卑怯なキャラにされて……ハイエナがいい役やってる作品あるなら教えて欲しいわ」
蛇と狼は声を揃える。
「ドンマイ」
「少しは励ませよ! そんなことないよ、とか!」
ハイエナが吠えるが、二匹はただただ憐みの視線を向けるのだった。
「……まあ、悪役のイメージがついたままってのはやっぱり面白くねえ。俺たちで街に繰り出して、人助けでもしないか?」
蛇の言葉に、狼とハイエナはうなずく。
「賛成だ!」
「異議なし!」
こうして三匹は人間たちがいる街に向かうことにした。
***
蛇が街中でニョロニョロしていると、さっそく若い女性が財布を落とすところを見つける。
(おいおい、いきなりチャンス到来じゃねえか)
蛇は財布を口にくわえつつ、器用に女性に話しかけた。
「お嬢さん、財布を落としましたぜ」
ところが――
「キャーッ! ヘビーッ! こわーい!」
若い女性は蛇から財布をひったくるように受け取ると、そのまま猛ダッシュで逃げていった。
蛇は顔をしかめつつ、その背中を見つめた。
「くそっ……これじゃ全然悪役イメージ払拭にならねえじゃん……」
続いて狼は、泣いている少年を発見した。
「ママ……どこ、どこぉ~!」
(しめしめ、あの子を親のところまで連れていけばイメージアップ間違いなしだ!)
さっそく話しかける。
「坊や、鼻のきくオレが一緒にお母さんを探してあげよう」
「ひっ、ママァ~! 狼が出たよぉ~!」
少年はさらに泣き出してしまう。
(やべえ、オレがこの子を食おうとしてると誤解されるかも!)
狼は少年から離れるしかなかった。ちなみに少年は、この大泣きが功を奏して、母親に見つけてもらうことができた。
残るハイエナも、なにやら困っていそうな青年を見つける。
が、近づくだけで――
「ゲッ、ハイエナ!? 近づくんじゃねえよ! この横取り死肉漁り漁夫の利大泥棒野郎!」
「いくらなんでも言いすぎじゃね!?」
もちろん青年は逃げていき、ハイエナはそっと涙を流した。
結果は、三匹とも大失敗。
これに落胆した三匹は、ついに人間に背を向けることに決める。
「人間どもめ……。こうなったら俺たちで、とことん悪いことをしようじゃねえか!」
「そうしよう! オレらの強さと悪さを見せてやろう! だけど、何をする?」
「銀行強盗なんてどうだ?」
ハイエナのアイディアに他二匹も賛成し、三匹はある銀行に狙いを定めた。
***
「オラオラ、金出せやァ!!!」
三匹が銀行に入ると、マスクにサングラス、黒いパーカーという出で立ちの男が、窓口の銀行員に拳銃を向けながらこう叫んでいた。
銀行員も、利用客も震え上がっている。
これを見た三匹は、ついにフラストレーションが頂点に達した。
――いいことをしようとしても上手くいかず、悪いことをしようとしたら、なんで邪魔が入るんだ!
蛇、狼、ハイエナの三匹は恐れずに強盗に近づく。
強盗もそれに気づき「なんだてめえら!?」と怯む。この一瞬の隙が命取りだった。
「巻きついてやる!」
蛇が強盗の首に巻きつく。
「ぐえっ!」
「噛みついてやる!」
狼が強盗の右足に噛みつく。
「ぎゃあっ!」
蛇と狼がハイエナに叫ぶ。
「ハイエナ、トドメを刺してやれ!」
「ただし、攻撃手段はオレたちと被らないようにな!」
ハイエナは焦る。
「うう……おれも噛みつきが得意なのに……ええい、こうなったら!」
四肢に力を込め、ハイエナは全速力で突っ込んだ。
「ハイエナアターック!!!」
「ぐほあっ!」
ようするにただの体当たりだが、これで強盗はノックアウトとなった。
三匹は白目をむいた強盗を見つめながら、つぶやく。
「強盗しようと思ったら、俺たちで強盗をやっつけちまったな……」
「ああ、オレたちってとことんツイてないな」
「まあ、おれたちらしいんじゃねえの」
すると三匹に、眼鏡をかけた青年が話しかけてきた。
「いやぁ、今の見てたよ! 素晴らしいコンビネーションだった!」
三匹は揃って怪訝な表情をする。
「実は僕は漫画家をやっていてね! 今の戦いを見ていたら、インスピレーションが湧いてきた! よかったら、君たちをモデルにした漫画を描かせてくれないかな!?」
突然の提案に、三匹は戸惑うが――
***
年月が経ち、蛇、狼、ハイエナの三匹はとあるタワーマンションの最上階でリッチな暮らしを満喫していた。
「ふぅ、今日も酒が美味いぜ」
美酒に酔いしれる蛇。
「高級肉も食い放題だ。まさか、こんなことになるなんてな」
狼も美食を楽しんでいる。
「見ろよこの王冠。おれに似合ってるだろ?」
ハイエナは黄金で作った王冠でお洒落をしている。
「いや、あんまり似合ってないぞ」
「やっぱり王冠はライオンや虎が被るべきじゃ……」
二匹から酷評されたので、ハイエナは黙って王冠を外した。
あれから、眼鏡の青年による三匹をモデルとした漫画が大ヒット。今やアニメ化、ドラマ化、ゲーム化、映画化するほどの人気になっている。
彼らにもお金が舞い込む仕組みになっており、それで大金持ちになれたというわけ。
ふと、蛇は初心を思い出す。
「これで、俺たちの悪役イメージもずいぶん払拭されただろうな」
狼はうなずく。
「ああ、街をうろついたらキャーキャー言われるんじゃないか?」
ハイエナが提案する。
「だったらさっそくうろついてみようぜ!」
三匹は意気揚々と街に出る。
ところが、聞こえてくるのは――
「キャーッ!」
「うわ……あの三匹だ!」
「こわ~い!」
どうも様子がおかしい。確かにキャーキャー言われるが明らかに悲鳴であり、以前のように怖がられたままだ。漫画の大ヒットでイメージは回復したはずなのに……。
「そういやおれたち、あの漫画家が描いた漫画を読んだことなかったよな。読んでみないか?」
ハイエナの意見で、三匹は書店で自分たちをモデルにした漫画を買ってみた。
そのまま自宅で読んでみる。
漫画のタイトルは『三匹の悪意』。
この時点で嫌な予感がしたのだが、内容としては蛇、狼、ハイエナのダークな三匹が、動物裏社会で成り上がっていくというピカレスク物だった。
単行本はすでに10巻以上出ており、今では三匹が人間のマフィアや独裁国家と戦うようなところまで物語は発展している。むろん、正義のためなどではなく、己の利益のために。
三匹は大騒ぎする。
「こんな漫画出てたら、俺らの悪役イメージはむしろ強化されちゃうじゃん!」
「だよなぁ! 今からでもあの漫画家にオレらを正義の味方にしろって言うか!?」
「いや、もう遅いだろ……。確かおれたち『金を貰える代わりに物語に口出しするな』みたいな契約書にサインしちゃったし」
しばらく考え込む。
「……ま、いいんじゃないか?」と蛇。
「そうだな。おかげでいい暮らしできてるわけだし」狼も笑う。
「おれたちは昔から悪役、これからも悪役だ! だったら悪役として楽しくやろうぜ!」
ハイエナの呼びかけに他二匹もうなずき、三匹は仲良く高級ワインで乾杯をした。
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。




