第6話 まさかとは思うが
ずっと気になってはいたんだ。このゲームの主人公である江並 蓮二は今、いったいどのヒロインのルートを進んでいるのだろう? と。
今は高校二年生としての生活が始まったばかり。そして俺はこの世界ではそれ以前の記憶がない。
つまり、江並がこれまでどんな行動を取ってきたのか全く分からないということだ。
メインヒロインである朝陽奈さんの話によると、彼女はいなさそうではある。
まぁ遅めに出会うヒロインもいるし、まさかバッドエンド一直線というわけじゃないだろう。
原作のバッドエンドとは、誰とも恋人になれず、卒業式の日に男数人でカラオケに行きバカ騒ぎをするというもの。
彼女ができなかったという意味ではバッドエンドだが、「彼女はいなくとも男友達がいるからいいじゃん」という、前向きなメッセージが込められていると俺は思ってる。
そして今、その答えになりそうな場面を俺は目撃している。
江並と文月さん。この二人が一緒にいるんだ。ということは、文月さんルートに入っている可能性がある。
俺が今いる場所は書店。確かに原作でもこのシーンはある。文学少女である文月さんが喜んでくれそうな行き先だ。
(そういえば文月さんが好きそうな本って、店で売ってるんだろうか?)
文月さんとのことがあった後、ふと気になった俺は少し調べてみた。
するとどうだろう、いかにもなタイトルの他に、ラノベみたいなタイトルもズラーッと並んでいるじゃないか。
うん、これなら高校生でも親しみやすい! 表紙も可愛い女の子が飾っててラノベっぽいし、普通に間違えて買ってもおかしくはないね。
しかもネットですぐに買えるみたいだし、きっと文月さんも間違って買ったに違いない。……そう思うことにした。
そして平日。俺は江並とよく話すようになったので、文月さんとのことを聞いてみることにした。
「なぁ江並。お前彼女っているのか?」
「いきなりどうした?」
話の流れも何もない、確かにいきなりの質問だが、俺に会話の流れをコントロールする力は残念ながら無い。
「そういえば聞いたことなかったと思ってな」
「彼女はいないが気になる女の子ならいるな」
意外にも江並はあっさりと答えてくれた。原作では選択肢によって性格が良くも悪くもなるから、正直なところ腹の中はまだ分からない。
だが今のところはいい奴だと思っている。
「そうなのか。何かアクションを起こしたりしてるのか?」
「俺が誘って二人で出かけたことならあるな」
「マジか。デートってことだよな? それってかなりいい感じなんじゃないか」
「まぁ正直言って俺もそう思ってんだ。だからあとはもう一押しってところかもしれねぇな」
「お前すごいな。どんな子なんだ?」
「一年なんだけどさ、可愛いんだよ。まさに美少女って感じ」
「他には?」
「そうだな……、巨乳。マジでデカい」
「外見ばっかりじゃねえか」
きっと文月さんのことだろう。まぁさっきの情報量だけで予想できてしまう俺も同じ印象を抱いてるってことだけど。あくまで見た目だけなら。
今の文月さんが江並に対してどんな対応なのかはもの凄く知りたいが、さすがに細かく聞きすぎるのはやめておこう。
(そうか、やはり文月さんルートか)
となると、俺はなるべく文月さんと関わるべきじゃない。人の恋路の邪魔はしたくないからな。
その翌日の放課後。ほとんどのクラスメイトが教室から出ていく中、朝陽奈さんが近づいて来て俺の前にある江並の席に座った。
「階堂くん、聞いて聞いて! 蓮二からデートに誘われちゃった!」
「え……?」
笑顔。朝陽奈さんは今その名の通り太陽のように明るい笑顔で話している。
朝陽奈さんと江並は幼馴染で、朝陽奈さんの好きな人は江並で間違いない。そこは原作通りだ。
「しかもお休みの日にだよっ!」
「変なこと聞くけどその日は一緒に過ごすってことだよね?」
「うん。蓮二がそう言ってくれたんだ」
どういうことだ? 文月さんルートに入ってるんじゃないのか?
江並は文月さんを自分から誘ったと言っていた。そして実現した。でも朝陽奈さんも誘ってる。しかもまた休みの日に。
意味が分からない。学校帰りに一緒にちょっとコンビニに行くとかなら分かるが、どちらも休日となるとどうだろう?
まさか江並はやってはいけないことをしようとしてるんじゃないだろうな……?




