第5話 S(級)
突然だが文月さんは美少女だ。ゲームのヒロインという時点でそれは約束されたようなものだが、S級美少女とでも言ったほうがいいだろうか。いや、人にランク付けはよくないか。
とにかくそんな美少女に俺は今、謎の圧をかけられている。
「その本に書かれてることって何?」
「知りたいですか?」
果たして知ってしまっていいのだろうか……? なんだか二度と戻れなくなるような気がする。
「文月さんは小説を読むのが好きなんだね」
最初に質問したのは俺なので申し訳ないと思いつつも話題を変えた。
「そうですね。小説って書かれていることは同じでも、読む人の数だけ物語があると思うんです」
「そうだね、それぞれがイメージする情景は違うはずだから」
「はい。だから私もいろいろとイメージしてるんです」
人は好きなものの話をする時、自然と饒舌になる。どうやら控えめな文月さんも例外ではないらしい。
「でもね、階堂さん。いつもイメージばかりしてたらどうなると思いますか?」
「え? 憧れになる、とか?」
「分かってるじゃないですかぁ。そうなんです、試してみたくなるのが人情ですよね」
「小説を読んで『試したい』とはなかなかならないと思うんだけど」
「そうですか? 内容によると思いますよ」
「そうなんだ。俺も少しは本を読んだほうがいいのかな。なんだか楽しそうだから」
「そうですね、ぜひおすすめします。……ところで階堂さん、ひとつ質問いいでしょうか?」
俺が「どうぞ」と言うと文月さんが距離をつめて来た。実は文月さんは後輩ながらもヒロインの中でもっとも胸が大きい。何の規格なのかは分からないが、それはもう規格外なほどに。
なので俺が変に動くと当たってしまいそうだ。さすがに近すぎでは? 自らダイブはさすがにマズい。俺は少しだけ背中を反らした。
「どうしてこの本が小説だって知ってるんですか? 階堂さん」
「え?」
「だって読んでないって言ってましたよね? 階堂さん」
マジか……。そんなとこ引っかかる? 俺が口を滑らせたってことになるのか?
そりゃあ確かにゲームで知ってたから、ついポロッと言ってしまったけど、ミスというほどでもないと思うんだけど。
「大きさから小説かなって思っただけだよ」
「漫画なのかもしれませんよ? 階堂さん」
「そこは完全に俺個人のイメージだね。ブックカバーは小説につけるものだっていう」
「そうなんですね。確かにそんなイメージはあるのかもしれませんね、階堂さん」
「やっぱり俺ももう少し読書の習慣をつけようかなー」
「それがいいと思います。ところで、さっき私が言ったこと忘れないでくださいね、階堂さん」
「本に書かれてることを試す、だっけ……?」
「フフッ、覚えていてくれて嬉しいです。心配ありませんよ、イメージはバッチリですから。ね? 階堂さん?」
「語尾に俺の名前つけるのとりあえずやめてもらっていい?」
「フフッ、冗談ですよ。でもこの問い詰める感じ、なんだか気持ちが昂りましたよねぇ……? そうは思いませんかー? ねぇ?」
怖えぇよ……。それになんだか俺の名前を脳裏に刻みつけようとしてるみたいで。
そんなに気になるなら家で読めばいいのにと言いたいが、それは最も口に出してはいけない言葉のような気がした。
ハッキリした基準は分からないが、もう『S級美少女』から『級』の字だけ取ってもいいんじゃないか?
こんなことがあったからなのか、「好きな人のことを思うとつい手が伸びちゃう」なんて言ってた朝陽奈さんがなんだか恋しいよ。……ていうか想像してみると純粋でむしろ可愛いな。
(いかん。何考えてんだ、俺は。推しヒロインが一人でしてる場面を想像してどうすんだ)
それにしても全然違うじゃないか、R-18バージョン。ほとんどヒロイン達が。しかも何故か出会うし。
もしかして俺がイレギュラーだからこの世界に影響してるとかなのか? もしそうならどうしようもないじゃん。存在するだけでダメなんだったら俺、泣きます。
そんなある日の休日。俺はずっと抱いてたとある疑問を解消できそうな光景を目撃した。
それはこのゲームの主人公である江並と文月さんが一緒にいるところだった。




