第32話 姉妹
「江並からも誘われてるの?」
「うん……」
朝陽奈さんの表情は暗い。いつも明るく元気だからこそ、こういう時は何よりも心配に思える。
「じゃあもしかして江並と?」
「返事はまだなの。でもそれが先延ばしにしてるみたいで申し訳なくて……。せっかく誘ってくれたのに」
江並に先を越されていた。そうだ、あいつが朝陽奈さんに声をかけない保証なんて無い。
それなのに俺はどうして朝陽奈さんが喜んでくれるだなんて思ったのだろう。逆に困らせてしまってるじゃないか。
それにしても朝陽奈さん、江並から怖い思いをさせられたのに、それでも申し訳なく思ってるだなんて、本当に心が綺麗な子だ。
「だからね、三人で行くっていうのはどうかな? みんなで行ったほうがきっと楽しいと思うの」
「悪いけど俺は嫌だな。朝陽奈さんと二人がいい」
「あ……あぅ」
ここで三人で行くなんて選択をする意味はないし、曖昧な態度をとるのも違う。ここはハッキリと伝えるべきところだ。
朝陽奈さんは何かを言おうとしているみたいだが、その唇がわずかに動くだけで言葉にはなっていない。
俺はその様子を黙って見守る。きっと朝陽奈さんはすぐに返事ができないことに罪悪感のようなものを感じているのだろう。
彼女がそんなことを感じる必要なんて何一つとして無いというのに。
「あの、その……。階堂くんごめんなさい。ちょっとだけ考えさせてもらえないかな……?」
「もちろん。また何日か経ったら改めて聞くよ」
「ありがとう、本当にごめんね」
夏祭りまでにはまだ余裕がある。だから焦る必要なんてない。朝陽奈さんがどんな結論を出そうとも、俺はそれを尊重するだけだ。
【その日の夜。朝陽奈 陽香の自宅にて】
陽香は姉の詩恩の帰りを待っていた。
陽香にとって今回のようなことは経験が無いことであり、どちらを選んでも選ばなかった相手のことを思うと、とても決められなかった。
やがて詩恩が帰って来ると、陽香は相談するため部屋へと入った。
そしていつものようにベッドの上に並んで座り、事情を話した。
「そっか、蓮二君と階堂君、二人から同時に誘われてるというわけね。でも三人でという選択肢は無いと」
「うん……。先に誘ってくれたのは蓮二だったけど、どうしてもすぐには返事ができなかったの。だから先延ばしにしてるみたいで……。せっかく誘ってくれたのに」
「うーん、確かに先着順なら蓮二君になるけど、陽香は蓮二君と二人で行って楽しめそうだと思う?」
「今の蓮二はなんだか昔とは違うような気がするの。だから昔のようには楽しめないかも……」
「それなら階堂君とだったらどう?」
「楽しそうだなぁと思うよ。階堂くんと話してるとね、なんだか安心するんだ」
「答えはもうハッキリと出てるようね。きっと陽香も気がついてるんじゃないかな?」
「でも先に誘ってくれたのは蓮二なのに。いいのかな……?」
「デートは先着順じゃないのよ。誰としたいのかが一番大切だと私は思うわ。それにね、相手に気持ちが向いてないままデートをしても、陽香自身が楽しめない。それにそういうのって相手に伝わるものなの」
「そうなの?」
「そうよ。もしデート中に相手が浮かない顔をしていたらどう思う?」
「私といてもつまんないのかなって」
「そう思うわよね。相手を受け入れるだけじゃなくて、しっかりと断ることも優しさだとお姉ちゃんは思うな。それならお相手も先に進めるはずだから」
「そう……だよね。うん、私決めたよ」
「陽香、その気持ちを大切にね」
「ありがとうお姉ちゃん。私ってやっぱり遅れてるのかな? もう高校二年生なのに恋愛のことはよく分からないよ」
「それでいいのよ。何歳で絶対に恋愛しなさいなんて決まりは無いし、無理矢理に誰かを好きになる必要も無い。自然と好きだなと思える人が現れる時期は人それぞれだという違いだけよ。陽香ならきっと大丈夫」
「お姉ちゃん……!」
陽香は詩恩に抱きついた。詩恩もまた、陽香の頭を優しく撫でる。
頼る妹と頼られる姉。そこには家族の絆で満ちた美しい光景があった。
そして姉妹といえばもう一組、朝陽奈姉妹とはまた違った姉妹がいるのである。




