第3話 カバーの向こう側
男子高校生が同年代の女の子からしてもらうと喜ぶこととは何か? 朝陽奈さんを目の前にして俺は今、そんなことを考えている。それはもう真剣に。
普通のことか、それともR-18か。それを間違えるわけにはいかない。だったらそんなの一択じゃないか。
「うーん、完全に俺の個人的な意見だから参考にならないかもしれないけど、こうやって気さくに話しかけてくれると嬉しいかな」
そう言った直後、「しまった」と思った。話しかけてくれるだけで嬉しいだなんて、それはつまり裏を返せば、普段から女の子と話す機会がありませんと言ってるようなものだから。
いやまぁ別にバレてもいいんだけど、おそらく朝陽奈さんとしてはほんの世間話のつもりで俺に話しかけたに違いない。
それを嬉しいとか言われると、恐いとすら思われてしまうかも。恐がらせてはいけない。
とはいえ言ってしまったことは仕方ない。俺にできることはもはや、朝陽奈さんの次の言葉が「キモ……」じゃないことを祈るのみとなった。
「そっかぁ。私はてっきり触りたいとか触ってほしいとかそういうことかと思ってたよー」
嗚呼……、俺はなんて小さなことで祈っていたのだろう。さすがメインヒロインは次元が違った。そもそもが俺の想像の斜め上をいっている。
……そうか、きっと朝陽奈さんはどうすれば好きな人に振り向いてもらえるかを、ただ純粋に考えているんだ。
だから特に恥ずかしがる様子もなく、こういう話をしている。たまたま江並の後ろの席になっただけの俺に意見を求めるほどに。
(よく考えるとそれって危険だよな)
俺は聖人でもなんでもないが、いろいろと弁えているつもりだ。この機会を悪用して朝陽奈さんに変な要求をしたり、変なことを教えようとする奴がいないとも限らない。
「確かに健全な高校生男子なら誰もが考えたことあるんじゃないかな、きっと」
「うんうん、やっぱりそうだよね」
「女の子の場合はどう——」
俺はそこまで口に出した後、ギリギリのところでとめた。
(危ねぇ、さすがに「女の子の場合はどうなの?」なんて聞いたらドン引きされる)
それにわざわざそんなことを聞かなくても、ここまでの朝陽奈さんの行動と言動を考えれば分かることじゃないか。朝陽奈さんは想像しながらつい手を伸ばしちゃうことがあるんだなと。
それを癖というのかは分からないが、それは全然悪いことじゃない……と思う。多分。きっと。人前でなければ。
(しかしなんだか放っておけない子だなぁ)
それからも少しだけ雑談をして、さすがに帰ろうということになった。
なんだかずいぶんと長かったように思えるけど、ほんの十数分くらいの時間だった。
「階堂くん、今日はお話に付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ。俺でよければまたいつでも話し相手になるよ」
「ホント!? だったらお言葉に甘えようかな」
こうして俺は推しヒロインの、よく分からない相談役になったのだった。
俺はそれでも満足している。確かに推しヒロインと特別な関係になりたいとも思うが、最優先はその子の幸せなのだから。
そして翌日。廊下を歩いていると、向こうから一人の女の子が近づいて来ている様子が目に映った。
それだけなら特に気にすることもないが、ヒロインの一人だ。でもだからって何がどうなるわけでもない。俺はただの通行人として通り過ぎようとした。
ところがすれ違いざまにバサッという音がしたので足元を見ると、一冊の本が落ちている。
さっきのヒロインは文学少女で、いつも小さな本を持ち歩いてるという設定だ。
(いったい何を読んでるのだろう?)
ゲームではブックカバーに阻まれそのタイトルは分からない。まぁゲームでそんなとこ気にしないしな。
(どんな文豪の作品なのかな?)
俺はアニメのキャラクターにまでなるような文豪達を思い浮かべながら本を拾い上げ、悪いとは思いつつも好奇心に負けて少しだけ読んでみた。
(えっと、『全身で絡み合う二人』・『お互いが激しく求め合う』……?)
ほんのチラッと見ただけだが、他にも怪しい表現がたくさん。
(こういうことかぁ……)
俺はそっと本を閉じた。




