止まった時間
事故は、一瞬だった。
でも、止まったのは一瞬じゃなかった。
病室の時計は、動いている。
秒針は、規則正しく音を刻んでいる。
それなのに、その部屋だけ、時間が凍りついたようだった。
ベッドに横たわる体は、もう動かない。
機械の音もない。
呼吸もない。
「さっきまで、元気だったんです」
そう話す家族の声は、現実感を失っていた。
買い物に行くだけだった。
横断歩道を渡るだけだった。
それだけで、帰ってこなくなった。
医師は丁寧に説明する。
警察は淡々と手続きを進める。
周囲は、次へ進んでいく。
でも、家族だけが取り残される。
なぜ、今日だったのか。
なぜ、この道だったのか。
なぜ、相手は酒を飲んでいたのか。
答えの出ない問いが、何度も繰り返される。
一方で、加害者は生きている。
眠れない夜を過ごし、
食事の味がしなくなり、
日常が壊れただけだ。
生きている。
それが、さらに残酷だった。
「反省しています」
「二度としません」
そう言われても、
失われた命は戻らない。
免許停止。
免許取消。
それを聞いても、
家族の時間は動き出さない。
社会は、線を引く。
「ここまでが許される」
「ここからは越えてはいけない」
その線の向こう側に、
命が落ちているからだ。
自転車でも。
キックボードでも。
自動車でも。
奪われた側から見れば、
違いなんてない。
「軽かったから」
「少しだったから」
そんな言葉は、
棺の前では、何の意味も持たない。




