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02話 俺勇者じゃないの?

 高校のことと告げられた渉は、戸惑いながらも従うしかなかったように思えた。


「……わかりました。じゃあちょっと行ってくるね、母さん」


 見送る透花は心配そうな声で渉に声をかけた。


「わかったわ、気をつけてね」


 それに渉は「うん」と頷き、家の扉を開けてくれた近藤と家を後にし、パトカーに乗った。

 今回のことで初めてパトカーに乗った渉は、じわりと手汗をかいていた。


「あのー……やっぱ警察署にむかってるんですよね?」

「うん、そうだね。大丈夫、事情聴取するだけだからそんなに緊張しなくていいよ」


 警察官だというのに、渉は彼女を優しそうな人だと思った。


「……なら、そうします」


 現在時刻は昼の12時。

 パトカーに乗ってから数十分が経ったくらいで警察署に到着した。

 近藤が車のドアを開けて降り、それに合わせるように渉も車を降りた。


「ついてきてちょうだい」

「……どこに行くんですか?」

「取調室よ」

「あっ……わかりました」


 予想通りの返答に「ですよねー」と渉は思い、腑抜けた返事をした。

 渉は言われるがまま近藤について行き、取調室に着いた。


「ここに座って。いきなりだけど、君の高校で何があったか聞かせほしい」


 そのことだったのかと言わんばかりの顔をした渉は、悪いことをして連れてこられたわけじゃなくてよかったとホッとして、警官の問いに自分に起きたことには触れず、簡潔に話した。


「実は俺、教室じゃなくてトイレ行ってたんです。だから教室で何が起きたかわかんないんですよ……」

「そうなのね……ならいつ頃から異変に気づいたの?」


 強面のもう一人の警官が渉に視線を送っている。

 その視線が気になっていたが、難なく渉は返事をした。


「二限の途中で、教室に戻ったら誰もいなくなってたんすよ。授業終わるまで様子見たんすけど、教室に戻ってくる気配かなくて……」


 渉の話を聞いて、次の質問をした。


「その後どうしたの?」

「職員室に行って先生にそのことを話してた後に家に帰ってから、近藤さんに連れてこられて今ここにいますね」


「あはは……」と笑って返答した近藤は、その後もこと細やかに質問してきたが、似たり寄ったりなことを返事した。


「……質問は以上、受付近くの椅子に座ってちょうだい。ちょうど一条さん家の近くに用があるからついでに送ろうか?」

「いいですか?なら、お願いします」


 手ぶらのまま家を出てきたから財布を忘れ、スマホも持っていない。肝心のここはその言葉に甘え、乗せてもらうことにした。

 渉は取調室までの来た道を戻り、警察署の受付についたところで、椅子が並んでいたところの一つに座って、近藤さんを待った。

 近藤さんは俺との取り調べの処理をしているのだろうかと思った。それから数分待った後に取調室があるところから近藤さんが向かってきた。


「待たせてごめんね。一条くんも早く帰りたいでしょう?」

「そうっすね。腹も減ったし……」


 警察署内の時計を見ると12時、いつも昼ごはんを食べるくらいの時刻。

 警察署を出るととある言葉をとっさに思い出し、立ち止まって渉は言い放った。


「ふぅ……やっぱ、しゃばの空気はうまいぜ」

「……え?どうしたの?」

「これ、一度言ってみたかったんですよね」

「そうなの、よかったね……」


 近藤は驚いていたようだったが、適当に返答した。

 再び車にむかって歩き出した時、渉は視線を感じたところふりかって見た。

 すると、歩道で通行していた親子がこちらを見ていて、距離があるにも関わらず話し声が聞こえてきた。


「ママー、あの人何してるの?」

「見ちゃダメよ、早く行きましょう!」


 子供の声が上がり、すぐに母親が慌てたようにそれを止めた。

 ……なんか、ラノベとかでよく見るセリフだな。ていうか、俺に言ってるんだよな。

 聞き耳を立てなくとも、誰のことかはわかっていた。

 すると渉のお腹が空いて鳴りだし、近藤の車に向かって歩いた。その時にはもう親子の話は気にしてはいなかった。


「行くよ、早く乗りな」

「うっす、お願いします」

「任せなさい!」


 モタモタ歩いていた渉に早く車に乗るよう促し、自慢げに近藤は車を走らせた。


「——そういえば近藤さんって、お昼何食べるですか?」

「そうね、特に決めてなかったけど、何かおすすめある?」


 悩む。こう言う時、何て言えば正解かわからん……渉の気分はうどん。ちょうどこの近くにもうどん屋があるが、どうしたものか。

 渉は少しの間「う〜ん」と考えていると、思い切って言うことにした。


「うどんなんてどうですか?」

「うどんか〜」


 近藤はどうするか迷い、微妙な反応をした。


「うどん嫌いなんですか?」

「ちがうちがう!最近うどん食べてなかったなーって思っただけだよ。久しぶりに食べてみようかな、何うどんにしよう?」


 渉は少し悩み、最後まで言うことを渋っていたが、自信満々に結論を出した。


「やっぱり『冷やし焼き豚チョモランマ盛りうどん』ですかね」

「なにそれ、食べてみようかな」


 渉は名前からして量が多いうどんをおすすめした。するとクスッと笑い声が聞こえ、少し食べたそうにしていた。


「口にあうといいですね」

「そうね、私は好き嫌いなんてないからきっとおいしいと思うわ」


 他愛もない話で盛り盛り上がったところで数十分が経ち、家に着いた。


「はい到着」

「送っていただき、ありがとうございました」


 しっかりとお礼を言った渉は車を降りた。


「気にしなくていいよ。おいしそうなうどん屋教えてくれたし」

「お気に召したようで何よりです」


 ふざけて返答した渉は近藤さんの車を見送ってから家に入った。


「あ、やっと帰ってきた!昼ごはん一緒に食べるのに待ってたんだから〜」

「昼ごはんって何食べるの?」


 そう母の透花に聞くと、「パスタだけど」と返ってきた。

 つくづく運がないらしい、高校の件もそうだけど、気分はうどんなのに、麺類違いって……でもまぁパスタもおいしいから渉は良しとした。

 冷めたらまずいからってパスタだから待ってくれたんですね、ありがたい話です。と渉は思っていると、キッチンで透花はカルボナーラを作っていた。

 それから盛り付けられたパスタを、渉はテーブルに持ってきた。


『いただきます』と二人同時に言った。

 それから一口、二口食べていると渉は思ったことを口にした。


「めっちゃ美味しいよ!これ」

「そりゃあ、私が作ったからね」と、透花は自慢げに話した。


 その後も、高校と警察署で何があったかを話したりし、カルボナーラを完食した。

 そして渉は、透花に昼食を作ってもらったのもあり、食器洗いをやることにした。


「ご馳走様〜。食器後で洗うから、置いといて」

「うん、よろしくね!」


 「やってくれるの?」と考えていそうな透花だったが、嬉しそうにそう言った。

 すると母の返事を聞いた渉は、食器洗いを後でやろうと思い、自分の部屋に戻った。


「ふ〜、食った食った。まぁ……食器洗うのは後でやるとして、時間もできたことだし、やってみるか?!」


「ステータス」と呟き、視界にホログラムのようなものが出現し、自分の能力のある項目を注視した。

ステータス画面も出し入れするのに意識するとなると、能力も意識でできるとか?と渉は考えると、好奇心が抑えきれなかった。


「これもしかしたら、異世界転移できるってことか?……ファンタジー好きなら、試すしかないよな……!」


 異世界転移するわけないだろうと渉は思ったのか、「異世界転移」と唱えた。

 するとたちまち部屋が光に包まれ、「まじか……」と渉がポロッと発した言葉とともに、出現した魔法陣に吸い込まれていった。


「う……ここは——?!」


 渉が思ったよりもあたりは明るかった。

 突然の光に、渉は思わず目を細くした。

 眩しさに慣れたところで、渉は恐る恐る周囲を見渡した。


「異世界……なのか?!」

 

 見渡した限り、天井が高く、装飾が煌びやかだった。

 間違いなくそれは王城だと分かった。

 しかも、渉と同じように周りを見ている奴が四人いた。

 

「これ異世界転移してるな」と渉は考えていると次の瞬間、明らかに王座に座り、王様としか思えない人物が声を上げた。

「我が名はエラルド・ド・ゴールである。よくぞ我が国の召喚に応じてくれた!……ま、待て!?どう言うことだ?!……我が召喚をしたのは四人であるぞ!なぜ、一人多いのだ?!」

 

 王は、この国の勇者召喚は四人だと言う。

 それなのにここには今、5人いた。

 なぜ一人多いのか……多分、原因は俺だ……。

 異世界転移を使って勇者召喚に割り込んでしまった。

 そう悟った瞬間、渉に鳥肌がたった。

 ラノベあるある展開を待ち侘びていた渉にとっては好奇だった。しかし何が起きるかわからないと思った渉は、わざわざ自分から「勇者じゃありません!」と言うつもりはなく、ただ様子を伺うことにした。


 すると王座のある広間は大騒ぎ。

 貴族と思われる人たちも、あることないこと話していた。

 奥から宰相みたいな人が王に進言していた。


「聞け!!……たった今、宰相モチモチ・モッコリーニからある提案を受けた。勇者諸君、『ステイタス』と唱えてみてくれ」


 渉は言うしかないと思い、他の四人の勇者に合わせて『ステイタス』と唱えた


「……名前しか、表示されてない?」


 ……いや、そんなはずないだろ。

 しかしそれは、紛れも無い事実だった。

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