01話 転移されてねぇよ
なんてことのない日常。
いつもどおり朝6時に目覚め、朝食を食って学校に行く支度をし、登校する。そんな日常を送っていたが、今日だけは普段とは違う。
なぜなら俺が好きなラノベ「君は手のひらの下」の新刊が発売されるからである!!
それから学校に着き、一限目の国語の授業が終わった。しばしゆったりと休み時間を過ごしていたら、急に「ギュルルルル」とお腹から鳴り出し、直後ダムが決壊したかのように便意が込み上げてきた。
「漏れる……!」と思った渉は休み時間が残り少ないにも関わらず、トイレに駆け込んで行った。
「今日一危ないところだったぜ……」
諸行無常。人一人のお花摘みなんて、時は待ってくれないのである。
だからこそ教室に一名不在のまま、二限の授業開始のチャイムが学校中に鳴り響く。
今年で16歳、一条 渉はトイレで大便をしていた。
「っ‼︎……はぁ。授業始まっちゃったなー……」
渉は苦しそうに踏ん張っていたが、無性に目の前にあるチラシを眺めていた。
するとだんだんと視界に青みがかったものが出現した。それは、ゲームやアニメによく登場するステータス画面のようなものだった。
「なんだこれ?」
しかし踏ん張りすぎで、視界がはっきりとしなかった渉に再び腹痛が込み上げ、それどころではなかった。
「くっ——‼︎」
授業が始まって学校中のざわつきが少なくなった。すると、トイレの窓から木の葉の揺れる音が聞こえ、踏ん張っているからか少しながら心音も聞こえた。
そして数秒が経ち、その時が来た。
「っは‼︎きた!踏ん張れ──!」
ポチャン〜という音とともに奴は旅立った。
息を整えた後、渉は目の前を見たが、力みすぎたせいか視界が少し混濁していて、ステータス画面が出現していることに気がついていなかった。
「はぁ……まじで疲れたー。やべ、こんなことしてる場合じゃない!早く教室戻らないと」
そのままトイレットぺーパーで尻を拭き、水を流した。
渉は扉を開けて、手洗い場で手を洗っていると、ぼやけていた視界が徐々に鮮明に見えるようになった。
それゆえ渉は、さっきまでうっすらとしか見れていなかったステータス画面が、はっきりと見えるようになった。
「え……なんだこれ、もしかしてステータス画面的なやつか?!」
一条 渉 16歳 人種
能力: 魔法理解(・感覚強化 ・魔力循環 ・魔素吸収)
転移魔法(・異世界転移 ・____)
「なんか、よくアニメで見るような能力が……あれ、でもレベルとか無いし、筋力とか知能とか数値で書かれてはないのか。ていうか知能は結構見たかったなぁ」
とはいえ、渉はファンタジーなこの状況で内心好奇心でいっぱいだった。
「うふふ。ふはぁっはっはっは!これが俺の力だ‼︎——みたいな?一度はやってみたかったんだよな…………いったい俺はこんなとこで何やってんだ」
一瞬厨二病を発症した渉は、我に返ったところで手を洗い、自分の教室に戻った。
「あれ、移動教室だっけ? でも今、二限の授業って数学だろ?まさか異世界転移?! だとしたら、この邪魔な画面の存在にも納得するが……
——って、俺、転移されてねぇけど?脱糞してて転移に置いていかれるとか、さすがにないだろ……」
戻った教室には誰もいなかった。
考えることが多過ぎて渉は何をすればいいかわからなくなった。
が、待ってたら戻ってくるという可能性があるんじゃないか?ということで教室にある自分の席に座って、授業が終わるのを待つことにした。
その間、渉はステータス画面を探ってみることにした。
「どうやら意識することで見えたり、見えなかったりすることができるみたいだな。で、ステータス画面に表示されてるのは魔法理解と転移魔法か。もしかして俺、魔法使えるのか?!しかも転移魔法まで?!よっしゃあー!転移置いていかれたけど、これで俺も異世界行けるのか?!いや、落ち着くんだ……」
冷静に考えると、ある問題が浮かび上がった。
「俺が異世界行ったらアニメ見れなくなんじゃん———」
しかし考えた末に渉は、魔法も使いたいし、異世界にも行きたいという気持ちもあったが、保留することにした。
それから少し経ち、授業が終わるチャイムが鳴っても、だれも帰ってこなかった。
「誰もこねぇじゃん!?やっぱ異世界転移なのか?ずっと教室で一人いるのもつまんないから職員室行って、先生に言うか?……俺以外のクラスみんなが居なくなったなんてことをわかってもらえるのか……?」
渉はラノベでありきたりな現象を疑いつつも荷物を背負って、職員室に向かった。
一年生の教室は三階にある。
渉は廊下を歩き、階段を下った。
一階に着くと、通りすがりの教室をチラ見し、「やっぱ人いるよな」と渉は思いつつも、歩き続けた。
そうして職員室に着いた渉は扉をノックして担任の先生を呼んだ。
「失礼します、一年五組の一条渉です。芹沢先生いらっしゃいますか?」
「……今確認したけど、見当たらないな。何かあったんかい?」
渉の声に応じて別の先生である柴崎が返事をしてくれたが、芹沢先生は居なかった。すると柴崎は芹沢の代わりに話を聞いてくれた。
この際、渉は何があったか説明したが、先生は難しい顔をしていた。
「だ〜か〜ら!先生、俺がトイレして教室戻ったら、誰もいなかったんですよ!」
「ん〜わかった、わかった……今確認するから。一条が言う、クラスのみんなが消えたのなら、ここにいてもしょうがないだろ。少し経っても俺がここに戻らなかったら帰っていいよ。」
「いいんすか?!わかりました!」
勢い良く返事をして数十秒は待った後、渉はいつも通りの下校をした。
早歩きで下駄箱に向かい、素早く靴を履き替え、あっという間に駐輪場に着き、そそくさと自転車の鍵を外し、サドルに乗ると同時にペダルを勢い良く漕いだ。
気分は最高、体はウキウキ、渉は帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「よっしゃ帰れる——!」
十数分が経ち、渉は家に到着した。
家の扉を開けて、リビングに向かうと母の透花が居た。
「あ、おかえり〜ていうか帰り早くない?。」
「ただいま〜先生に帰っていいよって言われたんだよね」
そう言い返すと透花は何があったのか聞きはしなかったが心配そうな目で渉を見ていた。すると、休憩がてら冷蔵庫にある牛乳を取り出した渉は、コップに注ぐとあっという間に飲んでしまった。
それから、飲み終えた牛乳とコップを片づけ、2階にある自分の部屋に戻り、くつろいでいた。
しばらくすると呼び鈴が聞こえたような気がして、一階から驚いた声の透花から呼ばれる声がした。
「なに、なんかあった!?」
と渉は返事をし、慌てて階段を降りると玄関に警察官が立っていた。
「警察署の近藤です」
「もしかして俺、なんかしちゃいました……?」
「いやいや、そう言う話じゃないよ。君の高校の話でね、ちょっと署まで来てもらえる?」
断れる雰囲気じゃない。
理由も聞けないまま、渉はうなずいていた。




