け
ホームルームを開く場は教室ではなく、専用の別室がある。
先生と女子たちはそちらへ移動したのだ。
それによる良い面もちゃんとあって、その授業はわりと貴重だと評が高い。
それ自体を「面倒くさい」と嫌がる生徒は見受けられない。
うちのクラスは特に。
蜜柑子先生と自由に対話できるのだから。
いつも女子が先発、今回も男子が後発になっただけである。
教室に残った周囲の男子生徒が暇を持て余してか、急に口々にそう言い立てた。
何かと思い、黙って聞かぬふりをしていた。
彼らの悪ふざけなど日常茶飯事だ。
だが本当に嫌そうには言っていない気もする。
それは台本を読み上げる様な棒読みに聞こえてくるからだ。
そういう風に僕が思いたいだけなのかもしれない。なんとも心細いな。
その誰かさんとは、この自記翔太のことなのか。
彼らに振り返り、そう吐きつけることができたらな。
しかし──。
なぜ僕の勉学が捗らないとお前たちが巻き添えを喰らうのだ?
もっとも彼らは僕の方など見向きもしていない。
教室の前方、アナログ時計の下方にはガラス戸付の本棚がある。
そこに彼らの表情も視線も身体の向きも、全て映り込んでいるから手に取るように知ることができる。