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その酷評を囁くお前たちさえ居なければ、僕が胸に恐怖を抱えることなど一切なかったのだ。
新任の美人先生と共に過ごしてから三年と三か月半が過ぎようとしている。
あれは三年生の一学期の始まりからだったから、今は六年生の夏休みの手前に差し掛かっていた。
そんなことを三年以上も繰り返して来たのだな。
なんだかんだ言っても、今年は卒業の年だ。
◇◇
最後の夏休みが目前に迫っていたある日。
教室内で、ぽつり、ぽつりと何かを呟く奴がいる。
その声に反応した僕の目に力が籠もる。
聞き耳を立てずにはいられない内容だった。
「あ~あ。誰かさんがいつまで経っても表現の意味を理解出来ないせいで、俺たちまで補習を喰らっちまいそうだぜ!? どー思うよ、皆の衆?」
「そうそう。……ったく、やんなっちまうよなぁー? いったい何処のどいつのせいなんだろうな?」
「明日からは俺たちにとって、最後の夏休みだってのによぉ」
僕には一切関係ないことだと思っていた。
今まで、これほどまでに露骨な悪口は聞かなかったから。
とても驚いている。なぜ急にそんな意地悪なことをいう。
まるで胸の内に直接チクチクと針先を押し当てられている気分になった。
それは蜜柑子先生が教室を留守にした待機時間だった。
一応授業中なのだが、女生徒たちは全員先生の後に付いて出て行った。
ホームルームだ。
定期的に先生と生徒が向き合い話す課外授業があるんだ。
その課外授業はいつも男女が別々にされるんだ。
頼みの綱の先生も、何かと間に立ってくれていた女生徒もいない。