き
「ちっ、初犯ではないぞ。あいつは常習犯だ!」
「蜜柑子先生を独り占めにしたいだけだろ…」
「おい女子ども、あいつとは二度と口を利くんじゃねえぞ!」
そんな声が周囲からボソボソと漏れてきた。
でも、本当にわざとじゃないんだ。
僕の場合は、本当に正解の表現にたどり着けないでいるだけなんだ。
その言葉を使用せずに言葉の持つ意味を作文で表せ、だなんて。
難しいよ。
この前は「美しい」を使わずにだった。それも越せなかった。
綺麗なものは綺麗、美しいものは美しい。
それじゃ駄目なのか。
駄目なんだよな。
そんな学力では世間に出ることは決して許されないのだ。
ストレートなのが一番解りやすいのに。
一体何の役に立てる勉強なんだよ。
そう思いながらも出来ないままだと落ちこぼれてしまう。
周囲の男子たちも、じつはこれが結構苦手みたいだった。
これまでも僕が先生に訊き返して来たことでお前らも要点を掴んで来たのではないか。
その度に注視して聞き耳を立てていたのは知っているぞ。
奴らはいつの間にかそれらを克服し、表現の弱点を乗り越えていた。
普通はあっさりと乗り越えていけるものだ。
学校の勉強を学校の中でクラスの課題として皆で取り組んでいるのだから。