い
今まさに国語の授業中だ。
配られた漢字プリントに皆が応戦中だった。
彼女は只今、皆が試験に臨んでいる教室の中をゆっくりと行き来している。
僕の席は教室の一番前方にある。
廊下側からは二番目の列になる。
端の列の前方から先生が見回りの為に教室の後ろへそっと下がっていく。
最後尾まで巡回すると、二番目の列の後ろからまたゆっくりと先頭に向かって返ってくる所だ。
先生が背後から近づいて来たのはその足音で感じ取れる。
教室にはどこか神聖な? 空気が漂っていて静寂に包まれていた。
この静けさが、この空気感が、僕は超苦手だ。
誰の目も僕を見ているような気がしてならない。
本当に見ているのか、そうでないのか。
振り返り確認したいところだが、授業中だ。
突き刺すような視線が身体のどこというわけでもなく、痛い気がするのだ。
ああ、でも振り向けない。
先生が巡回中だから、周囲を見てしまうとカンニングの容疑がかかってしまう。
でも気になる。
ちがう、確かにそれもあるな。
だが机の上で主の僕よりものんびりと寛いでいる答案用紙がつまらない顔を見せるんだ。
またこいつか。
黒板の隣に掛けられていたアナログ時計。
針の音は、最前列に席がある僕にはいつも耳障りだ。
けど今日に限ってすごく遠くに逃げている気がしている。
先生はいつもハイヒールを履いて歩く。
その踵がコツコツと床を突いて弾ける音のほうが大きく教室に響くからだろう。
そして、足音はこちらへ一歩また一歩と近づいてきた。