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第三陣



昨日は久々に学生らしい事をした、という自覚がある。


それもこれも野村のおかげで、だ。



いろは:今日は楽しかったね!寝る前に歴史の豆知識一つお願い!!


(うん、俺も興じた、良いひとときであった)


誰かと連絡を取り合うなど、考えても見なかった。


俺は無難に日本刀の切れ味の単位が人間の胴体だと言う事を送信した。


いろは:怖ッ!眠れないよ!!!



そうか、嫌な話であったか、反省点を見出した、覚えておこう。





翌朝。



「ちょっと!河上君!何なの昨日のアレ!あれから怖くて眠れなかったんだけど!あれから全然返信してくれないしっ!」


怒りの形相の野村が俺の席に訪れた。


「すまない、今後は気をつけよう」


「すまないじゃなーい!せめてその後のケアをしてよ!」


「特に文章を入力するのが苦手でな、色々と考えてはいるのだが、中々、な」


「スカしてんじゃないよ!次は通話するからねっ!」


通話だと…?

怒りは分かったが…だが。


「野村、ここで大声で話をするのは、些か良策とは言えないのではないか…?」


周囲がざわめいているではないか。


「…あっ、大丈夫だよ、悪い話はしてないし」


何故そんなに堂々と出来るのだ…?


「野村、貴様は自分の立場というものを弁えねばならんぞ…」


「ん?何が?」


言わねば分からないか?


俺は、この学校で奇人、浮いていると言う自覚は大いにある。


時代にまるで合っていないからだ。


「それよりまた歴史の雑学教えてよ、」


こんな感じなのだ、野村は。




昼休み。


俺は弁当を食べながら、午前のやり取りを反芻していた。

“通話する”などと、現代的な攻撃手段をちらつかせてきた野村の言葉が、まだ脳裏に焼き付いている。


別に、通話が怖いわけではない。

ただ、何を話せば良いのかが分からない。それが怖い。


結果的に怖い。



そんなことを考えていた矢先だった。


「ねえ、河上くん」


野村が、再び俺の前に現れた。今度はやや控えめなトーンだった。

彼女の手には購買の焼きそばパンがあって、それを軽く振ってみせる。


「怒ってないよ、ていうか、ほら、お昼一緒に食べよう」



「…よかろう、だが、俺の弁は和風で質素だぞ」


「うん、見てれば分かる、梅干しがすごい主張してるし」


「この赤こそ、武田の象徴だ」


「…梅干しが…?」


「ふっ、冗談だ」


野村は少しだけ眉をひそめたが、すぐに笑って座った。


こうして、俺たちは昼食を共にした。

正直、周囲の視線が気にならなかったわけではない。

だが野村は、気にする素振りもなく、堂々としていた。


間違いなく彼女は剛の者だ。


「ねえ、今日は怖くない歴史の話が聞きたいな、豆知識、優しめのやつ」


「ふむ、優しめか……」


そう言われると、難しい。

歴史とはそもそも血と陰謀の記録()だ。優しめの要素など限られている。


だが、勿論ないわけではない。


「そうだな…ではラムネを知っているか?」


「ラムネ?飲み物?食べ物?」


「ここでは飲み物の方の話を進めよう

ラムネは何語だと思う?」


「?英語でしょ?」


「ラムネは日本語だ」


「ええ?だってカタカナじゃん」


「ラムネはペリーが来航した際に日本に広まったと言われている、レモネードが日本訛りでレモネ、ラモネ、ラムネ…となって今に至る…


と言われている」


「ヘぇ!凄いねえ、その話聞いてたら私もラムネ飲みたくなってきた!」


野村は冗談めかして言って、パンの端をちぎって口に運んだ。

彼女のそうした仕草が、どこか楽しげで、眩しく見えた。


「ありがとう、河上くん。ちゃんと眠れそうな話で助かった」


「うむ、次回からは内容を慎重に選ぼう」


「でも、やっぱり怖い話もちょっと好きかも。スパイスとしてはアリかもね?河上君って歴史全般詳しいね〜」



「知らない事の方が多い、まだ知見が足りない」


野村彩葉。

この人物は、一体どこまで本気で俺に関わっているのだろう。

その真意はまだ掴めない。


だが、悪い気はしなかった。



「…また今日も図書館に行くの?」


「いや、俺の目に適う本は見当たらない、今日は真っ直ぐ帰るとしよう」


「ふーん、今日は私も用事があるからアレだけど…また寄り道しようよ、いっぱい楽しそうな所見つけておくよ」


真っ直ぐ帰るという選択肢はないのか?


「また話聞きたいから今日は通話しよ!ね!」


「あ、ああ、善処しよう」









通話では武田二十四将について語った、が。



野村は序盤で眠りに落ちたようだ。


(うつけが!!!)

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