表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

第二十陣




「……永倉新八はひと睨みでそのヤクザ者を撃退したのだ、数々の修羅場を潜り抜けた者故の殺気とでも言うのだろうか…ん?」



野村が紙に動物を描いている。


「…その態度はどういう事だ…?片手間に聞きおって…それとも聞いていないのか…?」


「…えっ?ごめん、今更、ガン見して聞くのも恥ずかしくって…」


その落書きの動物があまりにも下手で、それも俺の怒りをメラメラと煽った。


「…承知した、そこに直れ」


野村は背筋を伸ばし、こちらを見据える。


「…お仕置き?」


「よく分かっているな、今回も選ばせてやろう…」


「うんっ!」


(なんなのだ、このハキハキとした返事は…?)


「貴様はなぜそんなに目を輝かせている…?言っておくが罰とは二度と同じ過ちを犯さぬ為の…」


「お尻は、叩いてくれないの…?」


「アレは、勢い余ったとは言え、執行してしまった、が、貴様は再犯してしまった、罰としては無効だったようだ」


「…ていうか、罰を受けるなら河上君じゃない?タチの悪い冗談言ったり色々…」


「うつけが、それは先に貴様が…」


「…河上君への罰…何が良いかな…」


(この女、聞いていない)


「あ!これが良い!」


野村は鞄から小さい小箱を取り出し、開ける。


「…なんだ、それは…?」


「マイ耳かきセット!」


「そんな物、学校でいつ使うのだ?」


「河上君にしてあげようって思って!!これで私が河上君の耳を掻いてあげる!」


「うわ、気持ち悪…」


「お?今素が出たな?」


そう言い野村は床に正座をし、自分の膝の上をぽんぽんと叩いた。


ふざけているのかと思ったが、彼女の目は真剣だった。

そして、ほんの少しだけ照れくさそうでもあった。


「貴様、正気か?」


「うん、超正気!最近流行ってるんだよ、ASMRとか耳かき動画とか、やってみたいなって、思ってた、リラックス出来るよ?」


「間に合っている」


「来て!頭乗せて!早く!早く!」


野村の声には鬼気迫る物を感じた。


「言う事聞かないと、あの時パンツ覗いた事、周りに言いふらすからね!」


「勝手に二段飛ばしで階段を登るからだ」


「うるさい!早く!!」


「……」


促されるまま、俺は仕方なく彼女の膝の上に頭を乗せる。


「あっ♡来てくれた♡」


(お前が来いと言ったんだろう…)


…柔らかい、枕代わりの太ももは想像よりもずっと柔らかく、ひんやりとしている。


(まただ、また女の、野村の匂いだ…)


脳が痺れる感覚になる。



「じゃあ、行くよ…動かないでね?」


「傷をつけようものなら、重罰を与えるぞ、いや、警察だ」


「わ、分かってるって…!」


そして野村の指が、そっと耳のあたりに触れた。

髪をすくように、やさしく耳のまわりを撫でる。

ぞわぁ…と全身が痺れたような感覚になった。


心拍が一拍ずつ遅くなっていくのを感じた。


そして耳かきが耳穴に入り込んでいく。


最初はざわつくような違和感に、無意識に肩が揺れた。

(!!これは…!!)


耳の中で、細かな木の先端がこすれる音。

不快感など、ひとかけらもなかった。

むしろその繊細な音は、不浄な心を静かに洗い流していくようだった。


「くすぐったくない? 痛くない?」


野村の声は普段よりも、優しく、小さい。


「…いや…」


返事すら面倒になるほど、全身の力が抜けていく。


耳かき棒が、耳の奥をなぞる。

しかしその動きは決して乱暴でなく、まるで筆先で文字を書くような慎重さがあった。


「…綺麗だね、耳の中」


「…ああ」


頷いたつもりだったが、身体が動いたかどうかも曖昧だった。


意識が、沈むのが分かった。


「……」


目を閉じていた。

いや、閉じた記憶すら曖昧だった。

緩やかな川の流れに揺られるように、心地よい夢の淵に引き込まれていく。


耳の中の音が、ゆるやかに、遠くなる。


「…あれ、河上くん?」


野村の声が耳に届く。だが、それも薄く、霞がかったように輪郭がない。


「…寝ちゃった…?」



「………」




【主人公寝落ち!!】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ