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33話 スーパー・アイテム・コレクター


「くっ……!!」

「お姉さまが身悶えしてますわ……」


 商業区をぶらり流離(さすら)い、イケメン経営者のお店を探していた私たち。

 すると一軒の店に導かれるように私の第七感が作動した。

 その店は案内の看板だけが大通りに立っており、店舗自体は大通りから一本中に入ったところに位置していた。


 看板にはポーション類のイラスト……つまり、消費アイテム系を取り扱う雑貨屋であることが示唆されていた。

 私たちは主に装備品を探していたものの、一応冒険にはそうしたものも必要だ。


 導かれるようにその店の前に辿り着けば、遠目からでも分かるその店主の美貌に恐れ慄いた。


「ぐっ……! つらい……!!」

「何も辛くはないですわ」


 第一印象は柔和な水霊族。

 肩上で切りそろえられた(みどり)がかった銀の髪が、移動する度にさらりと揺れる。

 目元はオルドフォンスさんと同じく蛇のような立て割れの瞳ながら、温厚そうだ。

 たおやかな笑みを絶やさない、彼自身が癒しの効果を持つような風貌。

 店の扉が私たちを(へだ)てているというのに、その優し気な波動はとどまることをしらない。

 一歩を踏み出そうにも、オルドフォンスさんとはまた違った神々しさが私に襲い掛かる。


 触れたい。されど触れられない。


 まるで恋の駆け引きのようだ。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「まだ何もしていませんのに瀕死ですわ」

「こんなガー不(ガード不可)の美の暴力繰り出すイケメンとか、割とガチ目に野に放ったら危険だと思うんだよな」

「あなたの方が危険だと思います」

「対イケメンNPC用スパアマ(スーパーアーマー)必要だわ」


 街で消費アイテムを売るNPCが仰け反り技持ちなんて聞いていない。

 これが初心者イケメンハンターなら初狩りをくらっている。


 私はイケハン全一の名の元、気合いを入れ直した。


 内なるマスター・イケハン・ソウルに力を借り『恐れ』や『畏れ』を解きほぐし、新たなるイケメンNPCとの邂逅(かいこう)に備えた。


「──対よろぉ!!」

「元気ですわね……」


 気合いと掛け声と共に木製の扉を開ける。


「──、いらっしゃいませ」


 木製の床が私たちの靴音でノックのように鳴らされると、そのイケメンは私たちにやんわりとほほ笑んだ。


「……」

「(固まってますわ)」


 ──春。


 目の前に陽光のような笑みが現れると、辺り一面が花畑であるかのような錯覚に陥った。

 彼の微笑みは、暖かな陽気と生命の息吹を感じる春の訪れのようだ。


「……」

「お邪魔いたしますわ」

「…………ハッ!」


 危ない危ない。

 私特攻の攻撃に危うく沈んでしまうところであった。

 まるで時が止まったかのようなその幻惑は、もしこれが戦闘中であったなら私を容易に始末できたであろう。末恐ろしいポテンシャルを秘めたNPCだ。


「なにかお探しですか?」

「え? えぇ、まぁ……」


 ちらりと私を見ながら言葉を濁すヤナ。


「もちろん、貴方を探していま」

「表の看板を見て、どんなアイテムがあるのか気になりましたの」

「そうですか。どうぞ、ごゆっくり店内を見て回ってくださいね」


 ヤナは私の言葉を遮り、淡々と話を進める。

 なんてやつだ……!


「(おい)」

「(はい)」

「(誰の許可を得てイケメンを攻略している?)」

「(攻略は全然したくないですわ)」


 あーだこーだ言い合いつつ、ひとまず彼とお近づきになるためにも商品を購入せねばならない。私とヤナははやる気持ちを抑えつつ、店内を見て回ることに。


「ほう……」

「色々ありますけれど……最低限ポーション、マジックポーションは必要ですわよね」


 店主ばかりに目が向いていたので気付かなかったが、店主が居るカウンターにも薬品なのか瓶類が所狭しと並んでいる。

 まるで彼に可愛がってもらいたいかのように行儀よく並んでおり、その末席に加わるにはどうすればいいのだろうかと考えてしまった。


 そして壁に沿うように並んだ棚、店の真ん中に置かれたテーブルにも商品が並ぶ。


 錬金術師のアトリエや薬師の作業場のように、商品だけでなくそれを作る過程で必要そうな道具も一緒に並べられている。

 不思議とそのディスプレイのもたらす店の雰囲気が、自分も錬金術師や薬師になったかのような気分をもたらす。


 そうなってくるともう、商品を一個ずつ全種類揃えたくなるのがゲーマーにしてコレクターというものだ。


「くっ……」

「恐らく、わたくしと同じことを考えていますわ」


 私とヤナは少しプレイスタイルの異なるゲーマーではあるが、ことRPGにおいて共通することもある。

 その最たるものが、『全アイテム1個は手元に残しておきたい問題』だ。


 もったいない病。コレクター気質。

 色々と呼び名はあるだろう。


 たとえばゲーム終盤で超レアな消費アイテムを入手した時。

 今後それを再び手にする機会があるかどうかが不明瞭な場合には、そのアイテムを後生大事に取っておきそのまま最終戦へと向かう。

 最終戦ですら、使用すれば戦闘難易度が格段に下がる便利アイテムだったとしても使用することもなく手元に残しておく。


 ゲーム序盤ですらそうだ。

 お金に余裕があるわけでもないのに、何故か全商品を1個ずつ買ってしまう。

 装備品は若干高いため後回しにするが、消費アイテムに関しては気付けばお買い上げ。

 まるで推しのグッズコーナーを前にした時のように流れるように商品を手に取っている。


 恐ろしい。


 ヤナは元来効率的で合理的なプレイスタイルながら、物を集めること自体が好きなのかアイテムに関してだけはそんなことはない。

 彼の性格なら「いや、言うてデータじゃん」「仮に使わなくても後で見返すことないでしょ?」等と身も蓋もないことを言いそうだが、なぜかアイテムに関しては例外らしい。

 ダブスタ(二重規範)とも言える行為だが、しかし……同じゲーマーだから分かる。


 これも、()()()()()だ。


 理屈を超えた何か。

 好きなもの。

 考える前に動いてしまうもの。


 それはイケメン(※二次元限定)だけに留まらない。

 アイテムにもそうなのだ。


 なぜか持っていたい。

 なぜかそれらが揃っているカバンの中身を見て、嬉しい。

 そんな気持ちにさせられる。


 だから今の私とヤナの頭の中は、仮にこの店の商品を一個ずつ買った場合、いくらになるかという計算が恐ろしい速度でなされている。


 ……といっても私は数字が得意ではないので、ヤナにお任せしたい所存。


「ふぅ。己の才能が怖い……」

「お姉さまの考えは手に取るように分かりますわ。ですが、ざっと計算した感じ17450エルでは全部は買えないと思います」

「諸行無常」


 そう。やはり金なのだ。

 どこまでいってもその問題がつきまとう。


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