32話 ネーミング全一②
「ふむ……」
「今度はどうしました? お姉さま」
「いや。二人ならいいんだが……こう、人が多い場所でイケメンイケメンと連呼してちゃぁ、芸が無いと思うんだよな」
ヤナのネーミングセンスに触発された私の中で、新たに名付けたいことが生まれた。
「今さらですか?」
「対象に気付かれずハント出来てこそ、真のイケメンハンターを名乗れると思うのだ」
「そうですか……」
心底どうでも良さそうなヤナ。
「では、『イケメン』の他の名称を考えてみるのはいかがでしょう?」
「隠語、あるいはコードネームのようなものか。いいだろう」
益々ハンターらしくなってきたといったところだ。
「そうだな……」
「わたくしに伝わりやすい言葉でお願いいたしますわね」
「カオイイ」
「どストレートですわね……」
「灯台デモクラシーというやつだな」
「下暗しですわ。灯台が民主主義ってどういうことです?」
「俺が希望の灯りとなるんだよ!!」
「逆ギレですわー!」
イケハン全一にしてプロ騎士たる私は、イケメンを導く光ともなり得るってワケ。
彼らの思いをこの熱き魂に集約し、私は彼らのプロキシとなる。
そのためには彼らに導き手として選ばれる必要があるのだ。
まぁそこはイケハン全一の華麗な手腕により問題なく選出される手筈だが。
「ふむ」
「もう少し捻りを加えてくださいな」
「ビメン」
「麺料理でしょうか……」
短くも分かりやすい。
人との伝達手段としての言葉なら、そんな単語が望まれると思ったが……まだ伝わり辛いか。
「ぬぅ……」
「他には?」
「イケ・ミェン」
「諦めましたわね?」
名を付けるとは、なんと難しいのだ。
人名はまた異なるのだろうが、こう……商用というのか公用というのか、誰もが認識するある物事を表す言葉。
シンプル。されど分かりやすさと共に親しみやすさも感じ、語感の良い名前。
それを名付ける難しさを今日知った。
この世に溢れているあらゆる名前、ネーミング。
その道のプロや社内の人間が話し合い精査、あるいは外部のコンペなどを勝ち抜いたものが採用され世に出るのだろうが……それにしても難しい。
完敗だ。
全ての名付け親をリスペクト。
たかだか一介のこじらせオタクには荷が重い話であった。
何がYGTだ。
そんなの、私とヤナにしか通じないではないか。
他者視点の欠けたネーミング……。
くっ。話し合う相手がヤナしか居ないのも原因の一つか。
まぁ、YGTに関しては趣味の範囲であるし、我々にしか分からないからこその秘密の共有のような、ちょっとした絆を感じる名前でもある。
ゲーム内におけるネーミングであるなら問題はない。
だが、全てのイケメンハンターに関わりのある『イケメン』に代わる言葉となると……。私には荷が重い話であったな。
「俺もまだまだだな」
「もっと修行が必要なことは別にあると思いますわ」
しかし、自分には荷が重いと知ったからこそ──
これから先、新たに閃く可能性もあるということだ。
そのためにはやはりイケメンNPCにずっと関わっていかねばなるまい。
「需要と供給の一致だな……」
「NPCにはいいご迷惑ですわ」
これもまた、運営の望む『自由』の一つの形ってワケ。
「ところで魔女よ」
「はい」
「何の話であったか」
「イケメンが経営するお店を探していたところ、お姉さまが唐突にクラン名やイケメンに代わる言葉を探し求め始めましたわ」
「なるほど理解」
我ながら道中余すことなくゲームを楽しむその姿勢……己の才能が怖い。




