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30話 理屈を超えろ


 指輪を携えニト・ラナに入ると、さっそくアドライアンさんの元へと舞い戻った。

 依頼主の居場所をマップで確認すると彼は前回依頼を引き受けた場所とは異なり、神殿などが集まる公的機関の多い厳かな区画へと移動していた。


 区画の入り口でギルドカードを提示して中へと入れば、観光客も多い商業区とは異なり神官風の装いや騎士たちの姿が目立つ。


 ここで何か怪しい動きをすれば、即刻退場を命じられるに違いない。

 あえて騒ぎを起こすことも自由ではあるのだが……しかし、私は神官長補佐のオルドフォンスさんの胃に穴を空けたくはない。


「こちらで間違いはないだろうか?」

「──!! …………間違いない。探して、いたものだ……」


 恐らく警備の一環で巡回中であったアドライアンさん。

 彼を呼び止めたところ、同僚に少し席を外すと告げ一緒に小道に入った。そこで指輪を手渡すと、驚きのあまり眼を見開きうまく言葉を紡げない様子。


 指輪捜索の依頼を出しておきながらも、本当に見付かるとは思っていなかったのだろう。僅かな可能性にも賭けたいほど大事な指輪だったに違いない。


「そうか。守れて、よかった」

「……え?」


 イケメンの幸せを。

 彼の、心を。

 プロ騎士として守れて……本当によかった。


 イケハン全一としては気乗りしない案件ではあったものの。

 やはり誰かの悩みに寄り添い、それを共に解決するという行為は主人公の宿命だ。

 これが悪役ロールプレイ等なら話も違うだろうが、私は現在エルフのイケメン騎士(※ヒーラーの姿)として活動している。


 目的としてはイケメンNPCとの逆ハーレムを築くことではあるが……。しかし、彼はその一員とならずとも推しになり得た逸材。

 そんな彼の役に立てるというのは、言葉では形容しがたいなんとも温かな気持ちになる。


「守る……」


 私の言葉を引き継ぐように繰り返す神殿騎士たるアドライアンさん。

 そう。彼もまた、()()

 マスター・ナイト・ソウルの共鳴相手としては、本来申し分ない相手なのだ。


「恋人に報告はしなくてもいいんですの?」


 アイテムテキストの全容が気になるヤナは、あえて恋人の存在を掘り返す。

 私としては絶対に勝ち目のないライバルとも言える相手。

 できれば邂逅は避けたいところであるが……。


「……ああ。そう、だな」

「「?」」


 やや青い瞳に陰りが見えた気がした。

 まさか、指輪を失くしたことで既にケンカ中だったか?


「今がそのタイミングで無いのでしたら、余計なことを申しましたわ。……もしくは、お近くにいらっしゃらないのでしょうか?」

「……いや。彼女は()()この街にいるさ」

「?」


 その言い方だと……いずれ離れ離れになるような雰囲気だな。

 異種族間での恋愛、あるいは遠距離恋愛なのだろうか。


「……そうですのね。聖流祭のこともありますし、わだかまりは早々に解くのがいいと思いますわ。無事にご報告できることを祈っております」

「……ああ。感謝する」


 あまりにテキスト内容が知りた過ぎて、ヤナにしては珍しく深く突っ込んだ余計な助言をしている。

 恐ろしい男だ。

 今この瞬間においてヤナは、相手の気持ちを(おもんばか)るよりも己の知的好奇心を優先している。敵に回したくはないな……。


「えっと……」

「もし何か進展がありましたら、教えていただけると嬉しいですわ。わたくしたちは冒険者ですので、依頼のその後という名目でギルドにでも言づけていただけると助かりますわ」

「善処しよう」

「!?」


 ぐいぐいと攻めに攻めるヤナ。

 もしアドライアンさんルートがあったなら、私よりも積極的な攻めでフラグが立ちかねない。


「い、行くぞ魔女よ!」

「はい」


 とんだ伏兵もいたものだ。

 己の知識欲を満たすために、イケメンNPCをも手玉に取ろうとするとはな……。



 ◇◆◇



「ということで」

「冒険者ランクは上がりませんでしたが、お金はホクホクですわね」


 アドライアンさんへ指輪を無事返還し依頼達成。

 イケメンの嘆きを察知するのに忙しく確認はしていなかったが、依頼達成の料金が2000エルだったので低ランク帯の中では割りのいい依頼であった。

 あるいはラナ教との関りが無いと出現しない依頼なのかもしれない。


「17450エルか……今なら何でも出来そうな気がする」

「全部使うのはダメですわよ」

「っ!」


 今まさに、もしこの街にイケメン水霊族御用達の店、あるいは彼らが経営するような店があるなら……そこで全財産を投入するのもアリだと考えていた。


「エスパーか?」

「お姉さまが考えることは分かりやすいですから」


 くっ……不覚。

 プロ騎士たるもの容易に思考を悟られては守りたいものも守れやしない。


「うーん。どうせならイケメンが経営する店に金を落としたいな」

「そんなところでも推し活ですのね」

「もしNPCに好感度設定あったら、終始一貫した方がいいだろう?」

「それはまぁ、そうですけれど。それがお得かは分かりませんし……」


 ヤナの考えも分かる。

 色んな店を利用してみて、あっちの店ではコレがお得に買え、こっちの店ではアレがお得に買える。そうした知見を蓄えて、自分の中でルーティンのように買い物の手順を確立させると。

 資金も限られる冒険の序盤では合理的且つ効率的だ。

 もし私がイケハンでなければ何ら異存はないだろう。

 リアル家計管理もヤナが取り仕切っているくらいだ。


 だが、ここは『自由』を体現できる場所。


 それがたとえ無秩序でもなく決められた枠組み内のことだとしても、NPCの好感度というルールに(のっと)れば逆ハーレムを築くことは何らおかしいことではない。


 お得に買い物をしたい。

 その意見も尊重したいが、時にはパッションも大切だ。


「推し活ってのはなぁ……。理屈じゃねぇんだよ!」

「『好きだから推す』って理屈じゃないの!?」


 さて。お次は買い物場所の選定だな。

 前回の店もまた行きたいと思える対応をしてもらったが……しかし、何度も足を運ぶことになるであろう場所に攻略対象がいるに越したことはない。


 イケハン全一にしてプロ騎士である私は仕える者を一人と定めはしないものの。

 通い騎士として、店を絞るのは何も間違いではないはずだ。

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