28話 プロ騎士ソウルと魔女のリスペクト
「おいおいおい、ご褒美モード突入か?」
「まさかお金も入っているとは思いませんでしたわね」
大小さまざまな泡を触れては割って、中のアイテムをゲット。
意外にもその多くはお金であった。
たまに水トカゲの素材が出る程度。
お賽銭のように、水の加護にあやかろうとこの神聖な池にお金を投じる者もいるのだろうか。
……ん?
「おいこれ……、バチ当たらないよな?」
「……たしかに」
急に怖くなった私とヤナは二人してヨクトート師匠をじっと見つめる。
「?」
ぱちくりとつぶらな瞳を見開いて、私たちを見つめ返すゲッコウ族の賢人。
まるで私たちの懸念など全く想像がつかないとでもいうように、「どうして手を止めるのだ?」と疑問を呈す。
「……」
「まぁ、『自由』ですし……」
否。
自由とは、無秩序に非ず。
たとえ『略奪』とはいえない、たまたま変なクエストにぶち当たっただけだとしても、私たちのこの行為はニト・ラナに住む者らの信心を踏みにじる行為。
これがまかり通るのであれば、その内プレイヤー同士の財布の盗り合いが実装されたとしても運営に文句は言えない。
私はイケメンNPCこそハントするが、普通に暮らす人々から何かをむしり取ろうなどとは露も思っていない。
……だが。
「……しかし、師匠の厚意を無下にはできまい」
「! まさか、お姉さま──」
ここはイケハン全一が良く使う手段を講じるしかないか……!
「俺は何も知りません!!」
「でた! 恐ろしく早い免責ですわー!」
本来、事情がある場合を除き。ある問題が起きた時、他人に原因を求め過ぎるのは良しとされない。
自責と他責のバランスが崩れると自分の成長を妨げたり、必要以上に思い悩んだりするものだという。
自分を信じ自分を疑うというヤナの意見は、すなわちフラットな目線で物事を見極め、過ちを認める素直さと共に相手に問いかけることのできる強さも持つことが肝要だ。
だが、今回のケースはどうだろう?
仮想空間。
プレイヤー相手ではなく、NPCや設定に対する倫理観。
それも、師匠と慕う者からの無垢なる善意による致し方のないもの。
この状況下でトレジャーバブルよりもたらされる報酬を断れる者など居るのだろうか?
否。
もし居たとすればそれは──、真なる勇者だ。
「俺は勇者ではなく、一人のプロ騎士としてイケメンを救う旅に出た」
「イケメン以外も救ってくださいね」
「ほう……。騎士であったか」
騎士の刃とは善を挫く悪を貫くもの。
しかし騎士にとっての『善』とは、仕える主君、故国、あるいは信念によりその時々で変わるものだ。
私の内に熱く萌えたぎるマスター・ナイト・ソウルが告げている。
今、この時。
私は何ら、己の刃に恥じる行いはしていないと──!
「権利を主張する!」
「お姉さまが吹っ切れましたわー!」
ゆえに、このトレジャーバブルよりもたらされる物は……私の物だ!!
「……うむ。儂は騎士の領分を知らぬ。好きにするがよい」
師匠からのお墨付きを得たところで、私は責任の所在を明らかにすることに成功した。
仮に今回の件でオルドフォンスさんと痴話ゲンカをすることになったとしても……。
ここに、その責を認めた人物がいる。
少々胸は痛むものの、イケハンとして今後の展開を心配しなくてもいいというのはありがたいものだ。
「お姉さま、全力でこのゲームを楽しんでおりますわね」
ヤナはしみじみと私の充実しまくりなゲームライフに感心している。
「……うむ。ハイパー三日坊主プロの俺が唯一続けられること────それが、ゲームだ」
「存じております」
深々と頭を下げながらうやうやしく言うヤナ。
柳丸め……なんて丁寧に失礼なヤツなんだ。
「お姉さまは一点集中型ですものね」
「く……っ、マルチタスクの鬼め!」
どんなに仕事が忙しくとも、少なくとも休日を挟めば自室は綺麗な部屋へと甦るヤナ。
何かに思考のリソースを大きく奪われても他の物事を同時進行できる。
習慣化というものが、考えるよりも先に彼の身体を呼び起こすのだろう。
対して仕事が忙しければ他の何をも手に付かず、休日には全ての思考を投げ出しゲームに癒しを求める私。無論、部屋は己の脳内を反映したかのようにとっ散らかったまま。
対極だ。
我々はゲームプレイもさることながら、実生活でも対極の存在である。
それが争いを生むこともあるだろうが、我々の場合は逆にそれが上手く機能している。
ヤナ曰く、『自分と違って面白い』そうだ。
「誰がおもしろ生物だ小僧」
「急にキレられましても……」
今この瞬間ですらそうだ。
黙々と手を動かしながらも難なく会話を返すヤナ。
対して私は思考の渦にがんじがらめとなり、一時手が止まってしまっていた。
認めよう。
この美女……もといこの男は、思考という名の糸を上手に編む上級お針子だとな!!
「褒めてつかわすぞ」
「情緒」
「そういう上級お針子は、どのようにゲームを楽しんでおるのだ?」
「わたくしですか?」
そう問われヤナはその白く細長い指を顎に当てた。
「ブラヴェはまぁ、お姉さまと色んな景色を見れたらいいなという感じでしょうか」
「ほう。対戦ゲームではどうなのだ。どのような時に楽しいと感じる?」
「うーん、そうですわねぇ……。相手との読み合いですとか、自分の読みが刺さった時ですとか……。逆に叩きのめされてメンタル終わりそうになりながらもそこから這い上がった時ですとか。……あ! あと、アレですわ」
「あれ?」
考え込みながら話していたヤナは、途端にパァッと顔を明るくさせた。
「チームゲーでよくあるのですが、同ランク帯でよく対戦する勝手にライバルのように思っていた方が、不意に味方に来た時の心強さ。謎の連帯感。対戦し切磋琢磨することで勝手に親近感とリスペクトが沸き、不意に訪れる共闘というシチュエーションに胸が躍るのですわ!」
「ほう」
あまり感情を爆発させないヤナにしては珍しく、心から嬉しそうだ。
うむ。やはりリスペクトだな。
負ける悔しさ、勝つ喜び。それ以上に切磋琢磨している時の楽しさ。
イケハン活動に忙しく彼ほど対戦ゲームをプレイすることはないが……気持ちは分かるつもりだ。
「……といっても毎回勝てるわけもなく、負けた時の悔しさや申し訳なさがいつも以上になるのですけれどね」
「なるほどな。勝負にはつきものの感情だが、それらに飲まれることなく自分のメンタルをコントロールして頑張るといい」
「ありがたいお言葉ですわ~」
感情が暴走するという気持ちはイケハン活動でもよく起こること。
あまりに推せる者に出会ったはいいが、心を乱すような意外な設定に直面した時の戦慄。
場合によってはその者がバッドエンドを迎えることも。
マスター・ナイト・ソウルを内包している私ですら精神の安定というのは難しいのだ。
そうした駆け引きが毎試合起こる対戦ゲームというのは、きっと自分を鍛えることができることだろう。頑張れ、柳丸。
「ところで魔女よ」
「はい」
「何の話だったか」
「トレジャーバブルのお金、もらっても良いか悩みますわねというお話ですわ」
「うむ。そうであったな」
「儂の知らぬことを多く知っているとは……」
《……》
ヨクトート師匠はマスター・ナイト・ソウルに非常に関心を示されている。
ふう。またもこのゲームを自分なりに楽しんだ結果、NPCを惹き付けてしまった。
己の才能が怖い。




