26話 神の泡
「ほう。指輪……」
「そうそう」
賢いヤモカエルことヨクトートさんと和解し、当初の目的を告げると一緒になって考えてくれた。
バブルミスティックのクラスクエストについては、『ヨラン・メドの預言書』なるものが無ければ先に進められないようだ。
「神殿騎士の方が任務中に失くされたとのことですが……ここも見回りの対象なのでしょうかね」
「うむ。ニト・ラナの者がここを神聖視し治安の維持にあたっているのも知っておる」
「ここもグオ=ラ・クリマの水から出来た池なのか?」
「左様」
「「おー」」
ということは水に加護があるとみていいのか?
この池周辺での戦闘は起きなそうである。
安心して指輪を探せるというものだ。
「ヨクトートさんはこちらにお住まいですの?」
「近頃はな。儂らゲッコウ族は水辺に生きる者ではあるが、多くの者は現在神の恩恵を得ようと永遠の都『エテル・ラナ』の周囲に住んでおる」
「? どこだそれは」
「水中にある、水霊族の生まれた地でもある」
「「!」」
水中都市……!
ブラエ・ヴェルト販促PVでも出てきた場所か……!
「(わくわくしてきたな)」
「まぁ。ということは……その。なんと言ったらいいのか分かりませんが……、ゲッコウ族の皆さまはニト・ラナの方々とは反目し合っているのでしょうか?」
「うむ……一部の者はな。儂のように世界を旅した者は地上を歩くことに何ら抵抗はないのだが……」
「なにか、問題が?」
「……」
顔を伏せ、神妙な面持ちになるヨクトートさん。
「ニト・ラナを歩く水霊族には、脚があるだろう?」
「? ああ」
「儂にもな」
「そうですわね」
「だが、エテル・ラナを取り巻く神泡に守られた者たちには、人間と同じような脚はないのだよ」
「「!?」」
それってつまり……どういうコト!?
「つまり、ニト・ラナを闊歩する水霊族は……かつて、外に魅せられた者らの子孫なのだ」
「えーっと……。まぁ、生きていればそういうこともあるんじゃないかな……?」
「まさか、外に魅せられるということにデメリットが?」
「うむ……」
ヨクトートさんは言い辛そうに、伏せた瞳で池の水面を眺めながら答えた。
「ゼ=ラナは生と死を司る神……。其の崇高さは隣人を己のごとく愛すが、時に他と己を別つ障壁ともなり得る」
「(日本語で頼む……)」
「(お姉さまにだけは言われたくありませんわ)」
「…………おほん。他種族に分かりやすく言えば、神泡内でのみ生きた水霊族は寿命が恐ろしく長い。その命の果てがいつなのかも分からぬほど。世界と己を別つことで、死という理をも別つわけだな。……しかし神泡に守られた空間から一歩でも出ると、途端に寿命は縮まる。……ラナ教の宗派が二つあるのもそれが理由だ。教義は色々と異なるが、大きく言えば一つは他と己を別つ……すなわち水霊族は水霊族だけで水の中で暮らすのを是とするもの。もう一つはグオ=ラ・クリマの恩恵を他と分け合い、隣人と助け合って地上で生きていくというもの」
「同じ神を信仰していても、全然違うのですわね……」
「左様」
「……」
ここでマスター・イケハン・ブレインが鋭く閃く。
「……なんで、ニト・ラナに住む水霊族の祖先は最初に神泡? を出ようと思ったんだ?」
「…………、恋だよ」
「「!」」
「かつて、初めて地上を歩きたいと願った水霊族は、自分たちとは姿の異なる人間に……恋をしたのだ」
「────っ」
恋──
それはこのブラエ・ヴェルトという世界の始まりでもある。
地球を創った神を愛した女神、通称名前長い女神ですらそうなのだ。
ニト・ラナの祖先が誰かに恋をして新たな歴史を創ったとしても、何ら不思議ではない。
「人とは不思議なものだ。それまでの安寧を捨ててまで己を駆り立てる情熱。未知への探究。そうした情熱はいつしか周囲へと波及し、水霊族は長い年月を経て二つに分かれてしまった。原初の水霊族よりも寿命の短いゲッコウ族は、その恩恵にあやかろうと神泡の周囲で様子を伺っているものの……グオ=ラ・クリマとは神の恩恵であり、力の顕現。誰のものでもない。未だ永遠とも言える時を得たゲッコウ族はいない」
「脚といいますか、身体的な特徴の現れる条件というのは……?」
「水霊族は神泡の一部を魔力をもって操り、一時的にその身に纏う術を身に着けている。だが、いくら身に纏おうとも地上では水中ほどの加護は受けられない。グオ=ラ・クリマから距離が離れれば離れるほどな。今でこそそうした変化は見られないが、かつては神泡を纏わずに聖水の外にいると体が環境に順応した姿となる……と、ヨラン・メドより教わった」
「つまり、ヨクトートさんも?」
「ゲッコウ族は神泡の恩恵と関係なく、もとより種族として水中に長く生きる者は尾が発達し、地上に生きる者は足が発達するだけだ。水霊族ほど水の神の寵愛を受けてはおらぬ」
「へぇ……」
ブラエ・ヴェルトの種族は、キャラクターエディット時に選べる七種族だけではないようだ。
そして彼らにも色々な物語があるらしい。……面白い。
しかしゲッコウ族にいたってはイケハンの血が騒がないため、ヨクトートさんの話の半分ほどしか理解できずにいた。




